鍬形(読み)くわがた

精選版 日本国語大辞典 「鍬形」の意味・読み・例文・類語

くわ‐がた くは‥【鍬形】

〘名〙 (古代鍬の形の意)
① 兜(かぶと)眉庇(まびさし)正面に打つ前立物の名。威容を示す装飾で、台に平行して先端に開いた角(つの)二本をとりつけるのを普通とし、長鍬形、大鍬形、獅噛(しがみ)鍬形、三つ鍬形の種類がある。南北朝期のものがもっとも大きく、室町時代にはいって太刀打が盛んになるにつれ、邪魔なため少しずつ縮小された。
平家(13C前)七「赤地の錦の直垂に、もよぎをどしの鎧きて、くはがたうったる甲(かぶと)の緒をしめ」
② 太刀の頭・こじりを①のような形にしたもの。
③ 紋所の名。①のような形を図案化したもの。丸に鍬形、三つ鍬形、三つ組鍬形、三つ違鍬形などがあり、紀伊徳川氏の家紋三つ鍬形は有名。
④ 鍬焼(くわやき)に用いる具。兜の鍬形に似た鉄板、または、鍬の金具に似たもの。
※滑稽本・古今百馬鹿(1814)上「鴨の鍬焼をして食はう。ヲット、鍬形(クワガタ)を爰(ここ)へ呉(くん)な」

くわがた くはがた【鍬形】

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デジタル大辞泉 「鍬形」の意味・読み・例文・類語

くわ‐がた〔くは‐〕【×鍬形】

《鍬をかたどったところから》かぶと前部につけて威厳を添える前立物まえだてものの一。金属や練り革で作った2本の板を、眉庇まびさしにつけた台に挿してつののように立てたもの。長鍬形・大鍬形・獅噛しがみ鍬形・三つ鍬形などの種類がある。
太刀の兜金かぶとがね石突き金物1のような形にしたもの。
紋所の名。1をかたどったもの。
鍬焼き用の1に似た形の鉄板。
クワガタムシ別名 夏》

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鍬形」の意味・わかりやすい解説

鍬形
くわがた

威容のために兜(かぶと)の前に打った前立物(まえだてもの)。遺物、文献などから平安時代中・後期にはすでに用いられ、将帥などの身分を示す標識であったと推測される。鍬形の名称については、クワイの葉形、火形、農具の鍬など種々の説が唱えられているが、いまだ定説はない。平安時代の鍬形遺物は、長野市清水寺(せいすいじ)伝来雲竜文(うんりゅうもん)金銀象眼(ぞうがん)鍬形、三重県八代(はちだい)神社伝来獅噛文(しかみもん)金象眼鍬形台、および1979年(昭和54)京都市法住寺殿跡より出土した雲竜文銅象眼金銀鍍金(ときん)鍬形の3例を数える。これら初期の鍬形は、鉄地に金銀の象眼や銅象眼金銀鍍金を施して雲竜や獅噛の文様を表し、鍬形と台は一体につくり、あるいは鋲(びょう)で矧(は)ぎ留(と)め、兜への取り付けは韋紐(かわひも)のごときもので結び留めたと考えられる。やがて鍬形と台は別につくり、兜の眉庇(まびさし)に打った台に鍬形の根を挿し込むようになり、材質は銅製金鍍金が一般的になった。鎌倉時代までは長鍬形が用いられ、南北朝時代には幅の広い大鍬形が流行し、室町時代に入ると寸法を縮小するとともに技巧的な形に変化した。台も装飾性を増して彫刻を施すようになり、豪華な枝菊文(えだぎくもん)の鋤出(すきだし)彫りや浮彫り、繊細な唐草(からくさ)文の透彫りが行われ、室町時代には中央に祓立(はらいたて)を設け、これに剣形を立てた三鍬形(みつくわがた)が流行し、おりからの下剋上(げこくじょう)の風潮を反映して普遍化した。近世の当世具足(とうせいぐそく)時代になると鍬形は衰退し、かわって、信仰、天文、動植物、器財、紋章などに由来する斬新(ざんしん)奇抜な意匠のさまざまの立物が、自己顕揚の手段として活用され、立てる部位により前立(まえだて)、脇立(わきだて)、頭立(ずだて)、後立(うしろだて)の別を生じた。また、一藩同じ立物を用いることも行われ、これを合印(あいじるし)と称した。甲冑(かっちゅう)が威儀化し、中世の形式が再認識された江戸中期以降は、鍬形がふたたび流行し、台は金銅(こんどう)のほか銀、赤銅(しゃくどう)などでつくられ、祓立には竜そのほかもろもろの物が立てられた。

[山岸素夫]


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デジタル大辞泉プラス 「鍬形」の解説

鍬形

鯛の第1神経棘の俗称。兜の正面につける立物(たてもの)、鍬形(一双の角状の装飾)に似ることから。「鯛の九つ道具」と呼ばれる縁起物のひとつ。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「鍬形」の解説

鍬形 (クワガタ)

動物。クワガタムシ科の昆虫の総称。クワガタムシの別称

出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報

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