鍛造(読み)たんぞう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「鍛造」の意味・わかりやすい解説

鍛造
たんぞう

金属加工の一種で、金型工具を介して素材材料に圧縮荷重を加え、素材の高さ(または直径もしくは厚さ)を縮め、圧縮と直角の方向に伸ばすことによって所定の形状寸法の品物に成形する作業をいう。その歴史は、人類が金属で武器や装飾品をつくり始めた青銅器時代(前4000~前2000)にさかのぼる。わが国でも古来、火造(ひづく)りまたは鍛冶(かじ)といわれて刀剣類や鋤(すき)・鍬(くわ)などの耕作用農具、馬の蹄鉄(ていてつ)などの製造手段として行われてきた。これらは手持ちハンマーによるいわば手作業の域にとどまるが、現今では空気ハンマーやプレスなど機械力を利用して、大は重さ数百トンに及ぶ船舶用や原子力発電機用回転軸から、小は釘(くぎ)のような1グラム前後の製品、その中間では自動車用の各種複雑形状部品が鍛造でつくられている。鍛造は目的に応じて赤熱の高温から室温に至る間のいろいろな温度範囲で行われる。

[高橋裕男]

熱間鍛造

材料を赤熱状態にまで加熱して行う鍛造であり、その目的は成形と同時に鍛錬によって材料の機械的性質を向上させることにある。溶融金属を鋳型に注入して固めた鋳塊や、連続鋳造でつくった鋳片はそのままではもろく、強度も低い。しかしこれを熱間鍛造すると内部組織が改善されて粘さをもつようになり、衝撃力に対しても強くなるのである。ただし材料によっては、たとえば軟鋼の場合、熱間脆性(ぜいせい)とよばれて900~1200℃の範囲で非常にもろくなる性質があるので、鋳塊・鋳片鍛造の初期工程では加工度は小さく選ぶことが肝要である。鍛錬で内部組織が改善された金属は高温において軟らかく、かつ十分に延びる性質をもつので、大きな加工度でしかも複雑な形状に成形できる。

[高橋裕男]

冷間鍛造

一方、室温付近で行われる鍛造は冷間鍛造とよばれ、複雑形状品の成形には不向きだが、変形に伴っておこる加工硬化のため、高強度を得ることが可能であり、また、表面がきれいで寸法精度の高い製品につくることができる。

[高橋裕男]

温間鍛造

温間鍛造は熱間鍛造と冷間鍛造の中間の温度域で両者の長所を生かすことをねらった作業である。

 鍛造はまた、用いる金型工具の種類によって自由鍛造型鍛造とに大別される。

[高橋裕男]

自由鍛造

自由鍛造では単純形状工具、すなわち加圧面が平面かまたは円柱面のような単純な曲面の工具を用いて、素材の一部分ずつを圧(お)しつぶす局部圧縮の繰り返しによって最終形状寸法に仕上げていく。したがって作業時間は長くかかるが、同じ工具を用いていろいろな形の製品をつくることができ、多品種少量生産向きの鍛造である。しかし作業者には高度の技能が要求される。なお、使用工具の形状いかんによっては、打抜きや切断も自由鍛造の一環に含まれる。

[高橋裕男]

型鍛造

一方、型鍛造は、最終または中間製品の外形形状にあわせた凹(へこ)みを彫り込んだ、上下一対の金型を用いて行う鍛造である。型鍛造用金型は非常に高価であるが、作業速度は速いので、自動車部品のように同じ形状寸法の鍛造品の大量生産に向いている。

[高橋裕男]

鍛造の新技術

鍛造技術の進歩はより精密・複雑・高機能の製品の経済的生産を指向している。そのために機械の自動化、高速化を図るのと併行して、種々の特殊鍛造機が開発されている。多ラム鍛造機は、往復運動するラムを複数個用いてこれを鉛直および水平方向に配置し、それぞれのラムに金型工具を取り付けて、素材の複数箇所を同時に加圧することによって作業速度の迅速化を図っている。また、ラムの作動から工具交換を含めたすべてを計算機制御することによって、作業速度と製品精度の向上を達成した熱間自由鍛造機もある。円板状製品の少量生産用には回転鍛造機がある。この機械は上部に上型(円錐(えんすい)状加圧面をもつ)を取り付けたホルダーがあり、その軸は鉛直からわずかだけ傾いている。そしてホルダーは自転しながら鉛直軸の周りに公転する。すなわち、みそすり運動をする。一方、下型は製品形状にあわせた凹凸が彫り込まれており、下部の油圧ラムに取り付けられ、油圧によって押し上げられる。こうして素材は上型の円錐状加圧面で一部分ずつ連続的に加圧されて下型凹部に充満していく。局部加圧なので成形に要する荷重は、全体を同時に圧縮する通常の型鍛造よりずっと小さくてすみ、機械も小型ですむ。回転鍛造は圧延と鍛造の複合加工とみることができ、しかも材料を打撃しないので振動・騒音が少ない。歯車の成形にも応用されている。

 他の加工法との複合加工法の発展は近年の傾向であり、その一例として溶湯(ようとう)鍛造は、金型内に注入された溶融金属(溶湯)にパンチ工具を押し込むことによって溶湯に高圧力を加え、成形と凝固を同時に行う作業で、鋳造と鍛造の複合加工である。鋳造品に特有な欠陥を含むことなく、強度の高い均質な成形品が得られる。また、粉末鍛造は、粉末冶金(やきん)と熱間鍛造を複合させて比較的安価に高精度・高強度の製品を得る加工法であり、チタン合金その他の耐熱材料やタングステンなどの難加工性材料の加工法としても注目されている。

[高橋裕男]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鍛造」の意味・わかりやすい解説

鍛造
たんぞう
forging

圧縮力によって金属素材に形状を与える金属加工技術の一つ。貴金属や高温に熱した鋼を,鎚あるいはハンマーで打ちながら所定の形にする技術がその最古の形態である。家畜の力や水力の利用を経て,蒸気機関を動力源とするにしたがって大規模化し,生産性も向上した。鍛造は金属素材を直接あるいは型 (ダイス) を介して打撃して行うものと,機械プレスあるいは液圧プレスを荷重手段として行うものとがある。また,その形態から自由鍛造,半密閉鍛造,密閉鍛造に分類され,鍛造温度によっては冷間鍛造,温間鍛造,熱間鍛造に分類される。さらに,粉末成形体も鍛造加工の対象となる。自由鍛造は据込み鍛造とも呼ばれ,主として鋳造後の金属鋳塊を熱間で圧縮変形することにより,内部の空洞などの圧着をはかり,鋳造状態の粗大な結晶粒の再結晶を促し,組織を微細化する目的で行われる。半密閉鍛造は熱間で製品を仕上げるのに採用される。密閉鍛造は貨幣の製造過程 (コイニング) にみられるように,精密な最終製品を得るために行われる。冷間鍛造は積極的に加熱をしない鍛造,熱間鍛造は素材の硬さを低下させ,一つの工程 (1パス) でなるべく高い変形量を与えることを目的とする。なお,この熱間鍛造の過程で数個の鋼片を圧着する技術を鍛接といい,日本刀の製造や野鍛治のなかに生かされてきた。温間鍛造は熱間加工より低い温度で加熱し,加工後の材質の制御を目的とする。 (→金属の塑性加工 )

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百科事典マイペディア 「鍛造」の意味・わかりやすい解説

鍛造【たんぞう】

金属,プラスチックなどの固体材料を高温度でハンマー,プレスなどで外力を加えて目的の形状に塑性加工すること。火造りといわれる金属材料の熱間(ねつかん)鍛造では,鍛造することによって材料の粗大な結晶粒子を微細にし,機械的性質を改善する。鍛造に適する鋼を鍛鋼といい,鍛鋼品は車軸,クランク軸など機械部品に広い用途をもつ。鋼のほか銅,アルミニウムにも適用。鍛造品の大小に応じ,手または鍛造機(機械ハンマー,鍛造プレスなど)で打撃するが,打撃を加えつつ形を作っていく自由鍛造,材料を金型に入れて打撃する型鍛造,棒材を型に入れて打撃により径を大きくするすえ込み鍛造などの方法がある。機械部品などの比較的小型で寸法精度を要求されるものには,より材料強度を高める冷間鍛造が行われている。
→関連項目鋼塊鋼材ダイス(機械)鍛造工具鍛造プレス物理冶金

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精選版 日本国語大辞典 「鍛造」の意味・読み・例文・類語

たん‐ぞう ‥ザウ【鍛造】

〘名〙 金属を加熱し、圧力を加えて成形すること。また、その作業。金属組織を均等にし、ねばり強さを増す。

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デジタル大辞泉 「鍛造」の意味・読み・例文・類語

たん‐ぞう〔‐ザウ〕【鍛造】

金属素材を加熱し、ハンマーやプレスでたたき、成形し靭性じんせいを与えていく加工法。

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世界大百科事典 第2版 「鍛造」の意味・わかりやすい解説

たんぞう【鍛造 forging】

金属,プラスチックなどの固体材料を高温度において,ハンマー,プレスなどによって外力を加えて塑性変形させ,目的の形状に加工することをいう。鍛造は最も古典的な金属加工法で,刀剣などの武器,鎌,すき,くわなどの農具などが,鍛冶師によって,炉で焼いた鉄の塊をハンマーで鍛えて製造されていた。このような鍛造は熱間鍛造といい,後述する自由鍛造のうちの伸ばし鍛造に分類される。伸ばし鍛造とは材料を端から少しずつ加工成形していく方法で,これを機械的に連続的に行っているのが圧延である。

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世界大百科事典内の鍛造の言及

【鋳鍛工業】より

…鋼を溶かして鋳型に注いで製品を作ったり(鋳造),さらに鋳造された鋼塊にプレスやハンマーで圧力を加えて製品を作る(鍛造)事業をいう。工業であるから機械を用いた近代的な製造方法によるものを指すが,工業化以前の時代には人手によって鋳型やハンマーを使い,刀等の武器や道具が作られた。…

※「鍛造」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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