錫杖(読み)しゃくじょう

精選版 日本国語大辞典 「錫杖」の意味・読み・例文・類語

しゃく‐じょう ‥ヂャウ【錫杖】

〘名〙 (khakkhara の訳語。声杖、智杖などとも訳す)
① 杖の一種。大乗の比丘の一八種物の一つ。上部のわくに数個の輪が掛けてあり、振ると鳴るので、道を行くとき、乞食(こつじき)のときなどに用い、また、読経などの調子を取るのにも用いられる。さくじょう。
※大安寺伽藍縁起并流記資財帳‐天平一九年(747)二月一一日「合錫杖肆杖 二枝白銅頭、二枝銅頭之中、一枝無茎、並仏物」
※高野本平家(13C前)三「白髪なりける老僧の、錫杖(シャクヂャウ)もて皇子の御枕にたたずむと」 〔王維‐過盧員外宅看飯僧共題詩〕
法会のときに行なう四種の儀式である四箇法要の一つ。また、そのときの偈(げ)。錫杖の偈を唱え、一節の終わりごとに①を振るところからいう。讚頌が九節からなる九条錫杖と、九条の初二条と終わり一条を誦する三条錫杖がある。特に、三条錫杖をいい、九条を長錫杖という場合もある。
祭文語りが唄に合わせて振って鳴らした楽器。①の柄を短くしたもの。

さく‐じょう ‥ヂャウ【錫杖】

〘名〙 (「さく」は「しゃく」の直音表記) =しゃくじょう(錫杖)
※枕(10C終)二七九「九条のさく条。念仏回向

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デジタル大辞泉 「錫杖」の意味・読み・例文・類語

しゃく‐じょう〔‐ヂヤウ〕【××杖】

僧侶修験者が持ち歩くつえ。頭部塔婆形で数個の環がかけてあり、振ったり地面を強く突いたりして鳴らす。
四箇しか法要の一。1を楽器として用いる。また、そのときに唱える
祭文さいもん語りが歌に合わせて振り鳴らして調子をとるのに用いた具。1の柄を短くしたもの。

さく‐じょう〔‐ヂヤウ〕【××杖】

《「さく」は「しゃく」の直音表記》「しゃくじょう(錫杖)」に同じ。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「錫杖」の意味・わかりやすい解説

錫杖
しゃくじょう

行者行脚(あんぎゃ)にあたって携える杖(つえ)。仏教では比丘(びく)(僧)の所持する十八物の一つに数えられる。サンスクリット語のカッカラkhakkharaを音訳して喫吉羅(きつきら)、吉棄羅(きつきら)、隙棄羅(かつきら)、意訳して声杖(しょうじょう)、鳴杖(みょうじょう)、徳杖(とくじょう)、智杖(ちじょう)ともいう。『錫杖経』では、錫杖の宗教的意味を詳細に説いている。ほぼ目の高さほどの長さで、一般に3部分に分かれる。上部は塔婆(とうば)形にかたどって大環をつけ、その大環に数個の小環をかけて、振ったときに音が出るようにする。小環の数を6個として、菩薩(ぼさつ)修行の六波羅蜜(ろくはらみつ)を表すという俗説もあるが、『禅林象器箋(ぜんりんしょうきせん)』(28、器物門)はこれを否定している。中間の部分は木製の柄のものが多く、下部の錞(いしづき)は動物の牙(きば)や角(つの)でつくる。

 比丘が錫杖を携帯する理由は、『四分律(しぶんりつ)』(巻52)、『十誦律(じゅうじゅうりつ)』(巻56)、『大比丘三千威儀経(いぎきょう)』(下)などに説かれており、それらによれば、(1)行脚のとき振って音を出して蛇虫の害を避けるため、(2)年老の歩行を助けるため、(3)托鉢(たくはつ)のとき人々に来訪を知らせるためという。僧侶(そうりょ)が行脚することを飛錫(ひしゃく)または巡錫(じゅんしゃく)、一処にとどまることを留錫(りゅうしゃく)、掛錫(かしゃく)という。なお、日本の天台宗では、柄の短い錫杖を振って梵唄(ぼんばい)を唱える儀式があり、九条錫杖、三条錫杖とよばれる。

[永井政之]


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改訂新版 世界大百科事典 「錫杖」の意味・わかりやすい解説

錫杖 (しゃくじょう)

声明曲(しようみようきよく)の曲名,また分類名。法具の錫杖の徳を述べる内容で,数条から成り,各条ごとに始めの句を錫杖師が唱え,そのあとを全員で斉唱し,条末に錫杖を振り鳴らす。《三条錫杖》と《九条錫杖》とあり,前者の第一・二条は後者と同文で,第三条は後者の第九条と同内容の異文であるが,曲節は前者のほうが複雑である。四箇法要(しかほうよう)には《三条錫杖》を用い,法要の末尾の法楽には《九条錫杖》を用いるなど,用途にも違いがある。なお《錫杖》のあとには,《仏名(ぶつみよう)》という曲を付けることが多い。
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錫杖 (しゃくじょう)

銅や鉄などで作られた杖で,仏具の一つ。頭部の輪形に遊環を6個または12個通し,これを揺すって音を出す。声杖,鳴杖ともいう。教義的には,その振動により煩悩を除去し智慧を得るとされるが,実際は托鉢の来意の告知,読経の調子取りや合図に使用する。この音には,山路で禽獣や毒蛇を避ける効があり,悪霊を攘却する呪力があるとも考えられていた。修験者は,手錫杖を好んで用い,これを打ち振って尸童(よりまし)を神がからせることもあった。古い遺品は,奈良時代にさかのぼるが,日光男体山,立山の劔岳の山頂で平安時代のものが発見され,山岳信仰との古いかかわりがしのばれる。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「錫杖」の意味・わかりやすい解説

錫杖
しゃくじょう

楽器名および声明 (しょうみょう) の曲名。 (1) 体鳴楽器。杖の頭部の金属製の輪に,数個の小環をつけ,振り鳴らすもの。「戒錫」ともいう。柄の短いもの,床に突き立てて鳴らす柄の長いものがある。本来僧侶や修験者の持った杖であるが,仏教法会 (ほうえ) に用いられるようになり,また,祭文語りや手古舞にも用いる。僧侶が錫杖を持って各地を歩くことを巡錫という。 (2) 四箇法要 (しかほうよう) という仏教法会のなかの組織的な儀式に用いられる声明曲の一つ。『錫杖経』ともいわれる偈文を詠唱して,各節の終りに錫杖を振る。偈文の長さによって,「九条錫杖」「三条錫杖」などの別がある。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「錫杖」の解説

錫杖
しゃくじょう

(1)杖の上部にある金属性の輪形に,6ないし12個の小環をつけた法具。僧がもつ十八物(じゅうはちもつ)の一つで,遊行僧が携帯した。これを鳴らす音によって障害や煩悩を払い,智慧(ちえ)を得ることができるとされる。地蔵像には錫杖をもつものが多い。(2)仏教歌謡である声明(しょうみょう)の曲名。宗派によって音曲は異なるが,華厳・天台・真言各宗に伝わる。天台宗では,四箇(しか)法要に用いるのを三条錫杖,施餓鬼(せがき)や葬儀に用いるのを九条錫杖という。

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普及版 字通 「錫杖」の読み・字形・画数・意味

【錫杖】しやくじよう

行者の杖。

字通「錫」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の錫杖の言及

【山伏】より

… 鎌倉・室町時代にはこの修験道の山伏たちは,吉野,熊野,白山,羽黒,彦山(英彦山)などの諸山に依拠し,法衣,教義,儀礼をととのえていった。歌舞伎の《勧進帳》などで広く知られる鈴懸(すずかけ)を着,結袈裟(ゆいげさ)を掛け,頭に斑蓋や兜巾(ときん)(頭巾),腰に螺(かい)の緒と引敷,足に脚絆を着けて八つ目のわらじをはき,(おい)と肩箱を背負い,腕にいらたか念珠をわがね,手に金剛杖と錫杖(しやくじよう)を持って法螺(ほら)貝を吹くという山伏の服装は,このころからはじまった(図)。またこうした法衣は教義の上では,鈴懸や結袈裟は金剛界と胎蔵界,兜巾(頭巾)は大日如来,いらたか念珠・法螺貝・錫杖・引敷・脚絆は修験者の成仏過程,斑蓋・笈・肩箱・螺の緒は修験者の仏としての再生というように,山伏が大日如来や金胎の曼荼羅(両界曼荼羅)と同じ性質をもち,成仏しうることを示すと説明されている。…

【四箇法要】より

…〈しかのほうよう〉とも読む。《(ばい)》《散花(さんげ)》《梵音(ぼんのん)》《錫杖(しやくじよう)》の四箇の声明曲(しようみようきよく)を具備した法要をさす。またこの4曲自体をさすこともあり,〈四箇法要付きの舎利講式〉というような言い方も行われる。…

【法楽】より

…教えを楽しむという本来の意味から転じて,日本では神仏を喜ばせる行為,すなわち読経(どきよう),奏楽,献歌などを法楽と呼ぶようになった。すなわち法要を終わるにあたり,来臨している神仏のためにとくに声明(しようみよう)曲を唱えたり,経や真言を誦したりするもので,《錫杖(しやくじよう)》や《般若心経》などがよく用いられる。おそらく平安時代からそのように呼ばれるようになったと考えられる。…

※「錫杖」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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