銭学森(読み)センガクシン

デジタル大辞泉 「銭学森」の意味・読み・例文・類語

せん‐がくしん【銭学森】

[1911~2009]中国科学者浙江せっこう杭州こうしゅうの人。カリフォルニア工科大学に留学し、ロケット工学の博士号取得。のちに同大教授となる。帰国後は中国科学院力学研究所長などを歴任、人工衛星・ロケット・ミサイルの開発を指導した。チエン=シュエセン。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「銭学森」の意味・わかりやすい解説

銭学森
せんがくしん / チエンシュエセン
(1912―2009)

中国の航空工学の専門家。江蘇(こうそ)省無錫(むしゃく)生まれ(生年、生地には諸説あり)。1934年上海(シャンハイ)交通大学卒業後、1935年アメリカに渡り、マサチューセッツ工科大学、カリフォルニア工科大学で航空力学専攻。1943年カリフォルニア工科大学助教授、1949年教授。第二次世界大戦中はアメリカで国防省に勤務し、ドイツのV2ロケットの接収にもかかわった。1948年母校である上海交通大学の学長職をいったん提示されたが、若すぎるという理由で見送られた。ふたたびアメリカに戻り、カリフォルニア工科大学グッゲンハイムジェット推進研究センター教授に任命された。1950年に新中国建設のために帰国を試みるが、重要資料持ち出しを口実に逮捕されて15日間拘留され、以後FBIの監視下に置かれた。1955年にジュネーブの米中送還協定で帰国を許され、革命後の中国に帰り、翌1956年新設された中国科学院力学研究所所長に就任した。1959年共産党入党、1960年の核ミサイル実験、1970年の人工衛星打上げなど中国におけるロケット開発を指導した。中国力学学会理事長、中国自動化学会会長にもなり、文化大革命中も彼の担当する部門は平穏であったという。1968年国防科学委員会副主任、1969年第9回全国人民代表大会主席団員、1984年国防科学技術工業委員会副主任、1986年中国科学技術協会主席、1988年全国政協副主席、1989年国際理工学研究所名誉所員、1991年中国科学技術協会名誉主席などを歴任、科学面・政治面で重要な役割を果たしている。なお、ハンガリー生まれの著名な数理物理学者セオドール・フォン・カルマンと共同で提案した、空気力学における遷音速流(音速に近い空気の流れ)の「カルマン‐チエンkarman-Tsienの近似理論」でも有名である。この理論は音速に近い速度で飛ぶ飛行機の翼の性能を計算するのに用いられている。

[栗原智郎・松田卓也 2018年8月21日]

『銭学森著、山田慶児訳『世界の思想14 技術科学論』(1967・法律文化社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「銭学森」の意味・わかりやすい解説

銭学森
せんがくしん
Qian Xuesen

[生]1911.12.11. 上海
[没]2009.10.31. 北京
中国のロケット科学者。中国の「ミサイル・宇宙開発の父」として知られた。上海交通大学を卒業し,1935年アメリカ合衆国に留学,マサチューセッツ工科大学 MITで修士,カリフォルニア工科大学で博士の学位を取得,1947~49年両大学の教授を務めた。1949年カリフォルニア工科大学のジェット推進研究所所員。1950年に帰国を希望したが機密流出を恐れたアメリカ政府によって逮捕,拘禁され,出国を禁止された。1955年中国に送還され,1958年中国共産党に入党した。在米時代から航空・ロケット工学の権威として名声を博し,第2次世界大戦後にロケット調査のためドイツに派遣され,一時アメリカ海軍の顧問を務め,アメリカの軍事技術にも通ずるといわれた。帰国後,中国科学院力学研究所所長,航空委員会主任,国防部第五研究院院長などを歴任,中国初の弾道ミサイルおよび衛星の開発で主導的な役割を果たした。1986年全国政治協商会議副主席に選出され,1988年に再選された。

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百科事典マイペディア 「銭学森」の意味・わかりやすい解説

銭学森【せんがくしん】

中国の科学者。専門は航空力学。浙江省杭州の人。1929年,交通大学(西安交通大学と上海交通大学の前身)を卒業。マサチューセッツ工科大学に留学。カリフォルニア工科大学で学位取得。1949年,マサチューセッツ工科大学教授となるが,1950年,米国政府により逮捕,軟禁状態に置かれた。1955年,朝鮮戦争の米軍捕虜との交換で中国に帰国。1956年中国科学院力学研究所所長に就任する。ミサイル開発,人工衛星の開発などを指揮し,「中国宇宙開発の父」と呼ばれた。
→関連項目上海交通大学

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