銅鼓(読み)どうこ(英語表記)tóng gǔ

精選版 日本国語大辞典 「銅鼓」の意味・読み・例文・類語

どう‐こ【銅鼓】

〘名〙 中国に起源をもつ青銅製の太鼓。中国南西部から東南アジアにかけて広く分布し、現在も一部の山地民族の農耕儀礼の祭器や仏具として用いられている。
随筆・ききのまにまに(1853頃か)文政四年辛巳「又銅鼓ホラを鳴して大蛇を使ふ」 〔後漢書‐馬援伝〕

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デジタル大辞泉 「銅鼓」の意味・読み・例文・類語

どう‐こ【銅鼓】

中国南部や東南アジアなどに分布する打楽器ふたがあるが底のないたるのような形の青銅製の片面鼓で、古くは権威の象徴として、祭器としても用いられた。

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改訂新版 世界大百科事典 「銅鼓」の意味・わかりやすい解説

銅鼓 (どうこ)
tóng gǔ

中国南部から東南アジアにわたり広く分布する青銅製の太鼓。楽器としてはゴング類に属する。その鋳造と使用の年代は長く,流伝の地域は広く,関係する民族も多い。銅鼓の起源については,篠製置台上の太鼓を青銅でかたどったとするもの,漢族古楽器の錞于(じゆんう)(銅錞)からの発展とするもの,雲南省のタイ(溙)族,チンポー(景頗)族で今なお使われている木製象脚鼓の写しとするものなど諸説があるが,炊具から変化したとする考えが比較的有力となりつつある。1975年,雲南省楚雄県万家壩(ばんかは)竪穴土坑墓出土の銅鼓は鼓面がことのほか小さく,形式学的に最も古式と認められるが,伴出の銅釜と形態がきわめて似通っており,釜を伏せた形から打楽器に発展したと見られるからである。この万家壩墓の炭素14法による年代は前7世紀ないし,前4世紀で,現在,銅鼓出土墓のうち最も古い。また,この雲南省中部地区において,銅鼓形態の発展序列をたどれるところから,銅鼓の起源地もこの地区に求められるとされる。

 銅鼓の形式分類は1902年に発表されたヘーゲルF.Hegerによる4形式分類がその基礎となってきた。近年,次々と新たな形式分類案が発表されているが,その根底にヘーゲルの分類があるのはいうまでもない。しかし,ヘーゲルが最古と考えたⅠ式鼓も,現在ではそのなかに多様な形態変化があり,製作期間も長期にわたることが明らかとなっている。このため,明確な特色を示す器を標準器とし,形式設定の手がかりとする方法が試みられている。ヘーゲルのⅠ式は万家壩23号墓出土鼓を標準とする万家壩式,雲南省晋寧県石寨山銅鼓を標式とする石寨山式,広西チワン族自治区藤県冷水冲出土鼓を標式とする冷水冲式に分けられる。先述の万家壩式銅鼓は雲南省滇池以西の楚雄,祥雲,昌寧一帯に集中し,年代は春秋中期から戦国前期に至る。万家壩式の鼓面が拡大したものが石寨山式銅鼓で雲南省滇池地区を中心に,北は四川省南部,南はベトナム,タイ,マレー半島,東は貴州省,広西チワン族自治区に広く分布し,年代は戦国末期から前漢前半にある。冷水冲銅鼓は出土のとき後漢の四耳壺が鼓中にあったことから後漢後期のものである。ヘーゲルⅠ式鼓の典型で発見個数も多い。分布は石寨山式に近いが貴州省からは未発見である。

 貴州省尊義市の南宋代楊粲妻墓出土銅鼓は北宋〈元祐通宝〉を鋳造原料としており,形式はヘーゲルのⅠ-Ⅱ中間式である。分布の中心は貴州省,広西省北辺一帯にある。ヘーゲルのⅡ式は広西チワン族自治区北流県出土の北流式と霊山県出土の霊山式に分けられる。北流式銅鼓は広西チワン族自治区南東部と広東省西部を中心に分布し,南は海南島に至る。北流式銅鼓の年代については,春秋後期から西晋説と,後漢末から唐・宋期説との2説がある。前者は銅鼓の雲雷文を殷周青銅器あるいは幾何学印文土器文様と比較し,後者は後漢・南朝時期の塼室墓の塼文様と比較している。この年代観の差には銅鼓の起源を一源とみるか多源とみるかの問題もかかわっている。霊山式銅鼓も広西チワン族自治区,広東省内に広く分布するが,北流式よりは西方に分布の中心がある。広西チワン族自治区岑渓発見銅鼓の五銖銭文と,霊山県緑水村出土銅鼓と伴出した開元通宝から,霊山式は後漢以降唐・宋期に及ぶと考えられている。

 ヘーゲルのⅢ式にあたる銅鼓は確実な出土例がなく,雲南省西盟発見銅鼓により西盟式とよばれる。雲南省南西部からビルマ(現,ミャンマー),タイ,ラオスに広がり,タイ奥地のシャン族カレン族の間で19世紀末までつくられていた。ヘーゲルのⅣ式は貴州省麻江県谷洞の少数民族古墓出土銅鼓で麻江式とよばれる。この古墓は伴出品から宋~明代とされる。元・明・清3代の紀年銘をもつものが多数あり,今日なお少数民族に使用されているものもあって,各式銅鼓中最も数が多い。分布は雲南,四川,広西,湖南省西部,ベトナム西北部に広がる。以上の標準器も銅鼓全体に対してはなお資料不足であり,かつ研究者間の形式名称や分類にも多くの不一致点がある。銅鼓の用途,使用民族の問題も含め,なお多方面からの研究が必要である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「銅鼓」の意味・わかりやすい解説

銅鼓
どうこ

中国南部から東南アジアに分布する青銅製の片面太鼓。紀元前4世紀ごろには出現しており、新しいタイプのものは現在でも山地民族によって使用されているから、その生命は約2500年に及ぶ。したがって、形や表面に鋳出された文様も変化に富み、さまざまな型式分類が試みられているが、オーストリアのヘーガーF. Hegerによる四型式分類が有名である。

 近年、中国雲南省を中心に、ヘーガーの分類の第Ⅰ型式より古いとみられる銅鼓が多数発見されており、その形や火にかけられた痕跡(こんせき)から、銅鼓は青銅製容器をひっくり返しにして転用したものに起源するという説が有力になっている。銅鼓は特殊な霊力を有する楽器として宗教的儀式に重要な役割を果たし、富の象徴でもあった。

[今村啓爾]


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普及版 字通 「銅鼓」の読み・字形・画数・意味

【銅鼓】どうこ

苗族の古銅器。古く南・南任という。遺器は江南、西南地区から出土する。〔後漢書、馬援伝〕、騎を好み、善く名馬を別つ。趾(かうち)に於て駱越(らくゑつ)の銅鼓を得て、乃ち鑄て馬式を爲(つく)る。

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百科事典マイペディア 「銅鼓」の意味・わかりやすい解説

銅鼓【どうこ】

青銅製の片面鼓。中国南部から東南アジアにかけて分布。紀元前後からおもに祭器,宝器として使用されたものらしく,近代まで製作されていた。ベトナム北部のドンソン遺跡から多数出土,ドンソン文化の伝播を示す代表的遺物とされる。→青銅器スイ(水)族

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「銅鼓」の意味・わかりやすい解説

銅鼓
どうこ

青銅製の片面鼓。中国南部からインドシナ半島,インドネシアに分布する。前2世紀頃に起り,近代まで作製されていた。 1902年に F.ヘーゲルが4型式に分類,その最古の第1型式はベトナム北部のドンソン遺跡を代表する遺物の一つとなっている。葬礼,雨乞い儀礼などに用いられたといわれる。 1970年代以後,今村啓爾が新たな分類とその意味を明らかにしている。

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