銀鏡反応(読み)ぎんきょうはんのう(英語表記)silver mirror reaction

精選版 日本国語大辞典 「銀鏡反応」の意味・読み・例文・類語

ぎんきょう‐はんのう ギンキャウハンオウ【銀鏡反応】

〘名〙 還元性有機化合物検出反応一つ内面をきれいにしたガラス器に硝酸銀溶液を入れ、これにいったん生ずる褐色沈澱が消えるまでアンモニア水溶液を加えて透明液にし、次に試料を加えて水溶中で五〇~六〇度Cに加温すると銀が析出して鏡のようになる反応。ホルマリングルコース酒石酸などの検出に用いられ、魔法瓶(まほうびん)、鏡などの製造にも応用される。

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デジタル大辞泉 「銀鏡反応」の意味・読み・例文・類語

ぎんきょう‐はんのう〔ギンキヤウハンオウ〕【銀鏡反応】

ぶどう糖などの還元性のある有機化合物硝酸銀アンモニア溶液を加えて温めると、銀イオンが環元されて析出し、ガラスに付着する反応。還元性物質の検出のほか、鏡を作るのにも応用される。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「銀鏡反応」の意味・わかりやすい解説

銀鏡反応
ぎんきょうはんのう
silver mirror reaction

還元性有機化合物の検出反応の一つ。内面を清浄にしたガラス容器に試料を入れ、これに硝酸銀溶液を加え、いったん生ずる褐色沈殿が消失するまでアンモニア水を加えて透明溶液にする。これをバーナーの小炎で熱するか、あるいは水浴中で50~60℃に加温すると、容器の内面に銀が析出し、容器が銀めっきされる。これを銀鏡といい、この反応を銀鏡反応という。ホルムアルデヒドブドウ糖や果糖のような還元糖、酒石酸塩などはこの反応を示す。デュワー瓶や鏡の銀めっきはこの反応に基づいている。ショ糖(非還元性二糖類、通常砂糖とよばれている)はこの反応を示さない。銀鏡反応を用いる検出法を銀鏡試験といい、還元性物質の定性分析に利用される。

 ある種の金属イオンはアンモニアアルカリ性溶液中で水酸化物の白色沈殿を生成するが、アンモニアの過剰アンミン錯体を生成する。Ag+、Cu2+、Zn2+などがその例である。アンミン錯体は通常無色透明であるが、金属イオンの性質により有色のものもある。[Cu(NH3)4]2+は濃青色である。硝酸銀溶液にアンモニアを加えたときに
  Ag++OH-―→AgOH
のように白色沈殿が生成するが、
  2AgOH―→Ag2O+H2O
のように脱水して酸化銀が生成し褐色沈殿になる。これは過剰のアンモニアにより、銀アンミン錯体[Ag(NH3)2]+を生成して溶ける。

  [Ag(NH3)2]++e-Ag+2NH3
の標準還元電位(標準酸化還元電位)はE°=+0.373Vである。一方、
  Ag++e-Ag
の標準還元電位はE°=+0.799Vである。Ag+より[Ag(NH3)2]+のほうが標準還元電位が小さい。このことは有機物との酸化還元反応には不利であるが、還元性有機物の標準還元電位は小さいので、理論的には問題がない。実用的には、きめの細かい銀鏡を生成するという点で優れているのであろう。

[成澤芳男]

『日本化学会編『化学便覧 基礎編』改訂4版(1993・丸善)』『秋山浩利著『土曜日の科学実験』(2002・文芸社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「銀鏡反応」の意味・わかりやすい解説

銀鏡反応 (ぎんきょうはんのう)
silver mirror reaction

銀塩の水溶液に還元性有機化合物を加えて温めると,金属銀が還元されて析出し器壁が鏡のようになる(これを銀鏡という)現象。十分に清浄にした試験管のようなガラス器にホルマリンやブドウ糖の試験溶液をとり,これにアンモニア性硝酸銀溶液(硝酸銀のうすい水溶液にアンモニア水を加えると酸化銀の灰白色沈殿を生ずるが,さらにアンモニア水を沈殿が消失するまで加えたもの。この溶液をトレンス試薬ともいう)を加えてぬるま湯(約50℃)につけるか,バーナーの弱火で熱すると,容器の内壁に銀鏡を生ずる。銀鏡は銀イオンがゆっくりと還元されて銀微粒子ができる場合にのみつくられ,強い還元剤を用いたり,強熱すると,急激な還元のために黒灰色粉末を生じ,銀鏡はできない。アルデヒド基をもつ有機化合物(アルデヒド類,グルコースなど)の検出反応(銀鏡試験),デュワー瓶,魔法瓶,鏡の銀めっきに応用される。
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化学辞典 第2版 「銀鏡反応」の解説

銀鏡反応
ギンキョウハンノウ
silver mirror reaction

還元性有機化合物の検出反応の一つ.ホルマリン還元糖,あるいは酒石酸などは本反応に対して陽性である.還元糖の検出試験の場合,トレンス反応ともよばれる.内面を清浄にしたガラス容器のなかに検体溶液を入れ,それに硝酸銀アンモニア溶液(硝酸銀の水溶液にアンモニアを加え,いったん生じた沈殿が消失するまで加えた溶液)をまぜて少し温めると,銀イオンが還元されて容器の内面に析出し,銀めっきされる.これを銀鏡といい,この反応を銀鏡反応という.この反応を用いる検出法を銀鏡試験とよぶ.デュワー瓶や鏡の製造に用いられる.

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百科事典マイペディア 「銀鏡反応」の意味・わかりやすい解説

銀鏡反応【ぎんきょうはんのう】

還元性物質の検出反応の一つ。きれいな試験管に硝酸銀溶液をとり,アンモニア水を少しずつ加え,いったん生じた褐色の沈殿が消失したものに試料を加えて少し暖めると,還元性物質があるときは銀が析出して試験管内部に銀鏡ができる。ホルムアルデヒド,グルコースなどがこの反応を示す。
→関連項目アルデヒド

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「銀鏡反応」の意味・わかりやすい解説

銀鏡反応
ぎんきょうはんのう
silver mirror reaction

有機化合物の還元性試験法の1つ。試験管に硝酸銀溶液をとり,これにアンモニア水を少しずつ加え,いったん生じた褐色沈殿が消失したとき,これに検体の水溶液を加えて加温すると,試験管壁に銀が析出し鏡のようになる。アルデヒド,還元糖,酒石酸塩などはこの反応によって検出される。

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世界大百科事典(旧版)内の銀鏡反応の言及

【硝酸銀】より

…化学式AgNO3。銀を濃硝酸に溶解した溶液から無色,斜方晶系の結晶として得られる。熱すると159.6℃で六方晶系となる。融点212℃,融解するとやや黄色を帯びるが,冷却固化すれば再び無色となる。比重4.35。潮解性はない。純粋であれば光に当たっても変化しないが,有機物が痕跡量でも存在すれば光還元反応を起こし銀が析出するので,通常硝酸銀固体または水溶液の容器のふたのあたりは黒変している。350℃まで加熱しても安定であるが,444℃で分解し,金属銀,酸素,窒素,窒素酸化物を生ずる。…

【炭水化物】より

…またグルコースなどの単糖は一般に還元力があるが,デンプンにはこれがない。単糖の還元力はアルデヒド基,ケトン基に由来するもので,アンモニア性硝酸銀の銀イオンを還元して遊離の銀とする銀鏡反応などで検出することができる。デンプンが還元力をもたないのは,その鎖中のグルコースのアルデヒド基がグルコース単位を相互に結びつけるために使われているからである。…

※「銀鏡反応」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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