鉗子分娩
かんしぶんべん
2葉の金属製へらからなる鉗子によって児頭を挟んで牽引(けんいん)し、娩出力を増強させて胎児の娩出を図ることをいう。自然娩出を待っていると母体あるいは胎児に障害が増すと考えられる場合に、急いで娩出させる方法の一つである。鉗子分娩を行う母体側の因子としては、母体に心疾患や肺疾患などがあって長時間いきむことが害になるときや、うまくいきめないときなどがあり、胎児側の因子としては、臍帯(さいたい)が先に出てくる臍帯脱出、娩出前に胎盤の一部が剥離(はくり)する常位胎盤早期剥離、あるいは胎児心拍数に異常をきたして胎児が苦しがっている胎児仮死のときなどがある。このほか、陣痛が十分強くない陣痛微弱、児頭が下降しながら行われるべき回旋がうまくいかない回旋異常、あるいは産道の広さが児頭の大きさに比べて十分広くない児頭骨盤不均衡が軽度にある場合などがあげられ、分娩の進行が遅い難産のときにも用いられる。
鉗子分娩を行うためには条件がそろっている必要があり、児頭の最大部分が骨盤入口部より下降していて、骨盤の広さが十分であり、子宮頸管(けいかん)が全開大(10センチメートル開大)していて、卵膜が破れて破水していなければならない。この条件が整っていない場合は、帝王切開が行われる。
なお、骨盤位(さかご)分娩には、最後に娩出される児頭に後続児頭鉗子が用いられる。
[新井正夫]
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鉗子分娩【かんしぶんべん】
産科鉗子を用いて胎児の頭をはさんで引き出し,急速に分娩させること。母体の陣痛微弱,胎児の骨盤内回転異常などで,分娩の進行が悪いとき,母体に心臓その他の病気があって,早く分娩を終了させたいとき,胎児が子宮内で仮死の徴候があるときその他,母体または胎児が危険な場合などに行う。鉗子分娩を安全に行うには,児頭が骨盤入口を通過していること,骨盤や産道があまり狭くないこと,子宮口が全開またはそれに近くかつ破水後であることなどの条件が必要。→出産
→関連項目賀川玄悦
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鉗子分娩
かんしぶんべん
forceps delivery
出産の途中で胎児が仮死状態などの異常を来したり,微弱陣痛の場合に行なわれる分娩法。鉗子で胎児の頭を両側から挟み,ゆっくり引っ張り出す方法で,以前,新生児の頭蓋内出血や知能障害などを起こして問題になったこともあり,慎重に行なわれている。
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かんし‐ぶんべん【鉗子分娩】
〘名〙 母体や胎児の
生命に危険があって
正常分娩できないとき、産科鉗子を使って産道内の児頭をはさみ固定して胎児を引っぱり出し、分娩させること。
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デジタル大辞泉
「鉗子分娩」の意味・読み・例文・類語
かんし‐ぶんべん【×鉗子分×娩】
産科鉗子で胎児の頭を挟み、引っ張って分娩させること。胎児や母体に危険がおよぶと考えられる場合に行う。
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かんしぶんべん【鉗子分娩】
産科鉗子という金属製の器具を胎児の頭にかけ、引き出す分娩方法です。
出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報
かんしぶんべん【鉗子分娩 forceps delivery】
鉗子という篦(へら)状の器械で胎児の頭部を挟み,牽引して胎児を速やかに娩出させる人工分娩法。鉗子分娩が行われるのは通常,分娩の進行が停止し,胎児が弱ってきて(胎児仮死),速く産ませないと危険な場合である。そのような危険は,主として産道の出口部が狭い場合,児頭の回旋異常とくに低在横定位,分娩遷延によって起こる。かつては開腹による帝王切開術が母親にとって危険であったために,鉗子分娩が盛んに行われたが,今日では帝王切開がきわめて安全に行えるようになったので,鉗子分娩を行う頻度は多い施設でも5%程度にすぎない。
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