鉄火(読み)てっか

精選版 日本国語大辞典 「鉄火」の意味・読み・例文・類語

てっ‐か ‥クヮ【鉄火】

〘名〙
① 赤く熱した鉄。焼きがね。
※三教指帰(797頃)下「有鉄火流喉 無暫脱縁」
※続春夏秋冬(1906‐07)〈河東碧梧桐選〉春「迸る鍛冶の鉄火や夜の梅〈未央〉」
中世、訴訟で神意をうかがった方法の一つ。論理によって容疑の実否を明らかにできない場合などに、神前で誓いを立てて、真赤に熱した鉄棒を握らせたもの。火傷の程度などによって裁定した。火起請(ひぎしょう)。→鉄火を握る
※雑俳・筑丈評万句合(1746‐48)「鉄火とは名は恐けれど身は寒し」
刀剣銃砲。また、弾丸を発射したときに出る火。銃火
洒落本・蕩子筌枉解(1770)逢侠者「この種類いたって多し。白むくぶったくりてっくゎいかさまとほりものしゃれたて師等なり」
三等船客(1921)〈前田河広一郎〉二「いかう、━鉄火(テックヮ)でいかうかい
⑤ (形動) 気質が荒々しいこと。勇みはだであること。また、そのさま。多く女のそうした気質にいう。鉄火肌。
※談義本・当世花街談義(1754)四「鉄火(テック)喧嘩一大事を附毒するものなり」
※あらくれ(1915)〈徳田秋声〉七六「お上さんは莫迦に鉄火(テックヮ)な女だっていふから」
歌舞伎で、鉄火肌の人物の手拭のかぶり方。切られ与三郎や、め組の辰五郎などの役で手拭の端を鼻の下でねじるかぶり方。鼻掛け。
キセルのこと。
※歌舞伎・善悪両面児手柏(妲妃のお百)(1867)四幕「そのてっかを、いやさ、先刻立場で休息して、失念のいたした煙草入を」

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デジタル大辞泉 「鉄火」の意味・読み・例文・類語

てっ‐か〔‐クワ〕【鉄火】

[名]
真っ赤に焼けた鉄。やきがね。
刀剣と鉄砲
弾丸を発射するときに出る火。銃火。
鉄火巻き」「鉄火どんぶり」の略。
鉄火打ち」の略。
中世の裁判法の一。神前で1を握らせ、火傷の程度によって判決を下した。火起請ひぎしょう
[名・形動]気性が激しく、さっぱりしていること。威勢がよくて、勇ましいこと。また、そのさま。多く、女性についていう。「鉄火な(の)姐御あねご
アクセント123テッカ、45はテッカ
[類語]狂暴凶暴獰悪獰猛激越猛悪凶猛

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鉄火」の意味・わかりやすい解説

鉄火
てっか

鉄を熱して赤くなったのを鉄火というが、転じて活気みなぎる意のこと、さらには、裸で博打(ばくち)をする者の意にも用いる。また料理名にもよく使われる。江戸時代の『皇都午睡(みやこのひるね)』のなかに、「芝えびの身を煮て細末にし鮨(すし)の上に乗せたるを鉄火鮓(ずし)と云(い)うは身を崩してという説なるべし」とあり、これは博打の意から転じた名称である。また『春色恵の花』に、「鉄火味噌(みそ)に坐禅(ざぜん)豆梅干」とあり、鉄火みそは江戸時代からあった。色が赤く、辛味がきいているものにも鉄火の名がつけられた。鉄火みそは、炒(い)り大豆、刻みごぼう、麻の実などを油で炒(いた)め、みそやみりんなどを加えて練り上げる。マグロを用いた料理に鉄火の名がしばしば使われているが、天保(てんぽう)(1830~1844)中期以前にはすしにマグロは用いていない。鉄火巻きの名称は明治以降からみられ、また、マグロの角切りを丼(どんぶり)飯の上に置き、焼きのりをふりかけたものを鉄火丼(どん)と名づけたのは大正以後とみられる。鉄火和えは、マグロを粗い賽(さい)の目に切り、熱湯をくぐらせたミツバ(2センチメートル長さに切る)少々を加え、わさびのきいたしょうゆで和えたものである。

[多田鉄之助]

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世界大百科事典(旧版)内の鉄火の言及

【境相論】より

…《看聞日記》によると,伏見宮領近江国山前荘と隣荘観音寺との間の山論で,1436年(永享8)3月に湯起請が行われている。戦国期になると,湯起請に代わって〈鉄火〉を取る例が目についてくる。〈鉄火〉は,双方の代表者が灼熱した鉄梃を手に取ったあと,その手のぐあいによって神意を判定するものであった。…

【神判】より

呪術神託【杉本 良男】
[日本]
 日本においては,先に中田薫が整理した8種のうち,火,神水,沸油,抽籤の4種によく似た方法が古代から近世初頭にかけて行われている。例えば火神判は鉄火(灼熱した鉄棒を握らせる),神水神判は神水起請(しんすいきしよう),沸油神判は盟神探湯(くかたち),湯起請(熱湯の中の石をとらせる)が類似のものであり,また抽籤神判にあたる鬮(くじ)とりもしばしば行われた。日本で行われた神判としては,このほか,参籠起請(2日,3日または7日,14日などあらかじめ決められた日数を社頭に参籠させる),村起請(多数の村人をいっせいに参籠させることか),落書(らくしよ)起請(無記名の落書で犯罪者を投票させる)などをあげることができる。…

【湯起請】より

…湯起請は史料の上では15世紀,室町時代中ごろのものが最も多いが,おそらく在地の慣行ではもっと古くから行われていたものであろう。 ところで,戦国時代末から江戸時代初頭にかけては,理非相半ばして決着をつけがたいような境相論に際しては,鉄火(火起請)もしばしば行われた。これは掌に牛玉宝印(ごおうほういん)を広げ,その上に灼熱した鉄棒,鉄片を受け,湯起請と同じように,かたわらの棚の上に置くものである。…

※「鉄火」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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