日本大百科全書(ニッポニカ) 「鈴ヶ森(歌舞伎)」の意味・わかりやすい解説
鈴ヶ森(歌舞伎)
すずがもり
歌舞伎(かぶき)劇。世話物。1幕。白井権八(しらいごんぱち)が御尋(おたず)ね者となって江戸へくる途中、鈴ヶ森で襲ってきた大ぜいの雲助を追い散らすところへ、通りかかった侠客(きょうかく)幡随院長兵衛(ばんずいいんちょうべえ)がその腕前にほれ、権八の世話を引き受けることを約束して別れるという筋。初世桜田治助(じすけ)作、1803年(享和3)8月江戸・中村座初演の『幡随長兵衛精進俎板(しょうじんまないた)』のうちの1幕が、4世鶴屋南北(つるやなんぼく)作、23年(文政6)3月江戸・市村座初演の『浮世柄比翼稲妻(うきよがらひよくのいなずま)』のなかで補訂され、脚本・演出がまとまり、独立した一幕物として上演されるようになった。美しい若衆権八とユーモラスな雲助たちとの多彩な立回り、長兵衛の「お若(わけ)えの、お待ちなせえ……」以下両者の名台詞(せりふ)のやりとりなど、簡潔ながら歌舞伎の様式美にあふれた場面。なお、浄瑠璃(じょうるり)では『恋娘昔八丈(こいむすめむかしはちじょう)』五段目の通称である。
[松井俊諭]
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