さい‐し【釵子】
〘名〙
①
かんざしの
一種。
宝髻(ほうけい)と呼ぶ、宮廷婦人の
正装とする
髪上げの際に使用する。
近世は、
金銅で角一本、丸二本からなる。角は平額
(ひらびたい)に、丸はその左右に挿し込むためとする。
※宇津保(970‐999頃)祭の使「髪丈にあまり、
装束鮮やかなる
下仕へ、さいし、もとゆひして廿人いできて
御前に参る」
※枕(10C終)二七八「御額あげさせ給へりける御さいしに、
分け目の御髪
(ぐし)のいささか寄りてしるく見えさせ給ふぞ、聞えんかたなき」 〔中華古今注‐釵子〕
② 近世以来、
女官が正装の時に
頭髪の前につけた飾りの平額
(ひらびたい)をいう。
従来の釵子をかんざしと呼んだことに対して、これと区別するための
呼称。
[補注](①について) 二つに分かれた脚をもつかんざしで、木、竹、銀、銅、金銅などでつくられる。日本には古墳時代に大陸から伝えられたが、
類例は少ない。奈良時代には唐の影響で華麗なものがつくられ、
中世に及んでいる。
さ‐し【釵子】
〘名〙 かんざし。
※小式部内侍本伊勢物語(10C前)H「あまたあらばさしはせずとも玉くしげあけん折々思ひ出にせよ」 〔中華古今注‐釵子〕
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デジタル大辞泉
「釵子」の意味・読み・例文・類語
さい‐し【×釵子】
1 平安時代、女房の晴の装束で、宝髻とよぶ髪上げの際に使用したかんざし。
2 近世以来、女房が正装のときに前髪の正面につけた飾りの平額。従来の釵子をかんざしと呼んだことに対して、これと区別するための呼称。
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釵子
さいし
宮中に奉仕する女官の髪飾りの一種。古くは唐制に倣って、わが国で髪上げの際に用いた2本脚の金属製のかんざしである。江戸時代、女房の晴装束のおりに、おすべらかしの前髪にあてる平額(ひらびたい)を挿すこととなり、従来の釵子をかんざしといった。釵子は平額を、宝髻(ほうけい)の名残(なごり)である丸かもじと地髪に留めるために、平額の下方にある丸い二つの穴と、角の穴にかんざしを挿し込んだ。つまりかんざし3本が1組となっている。
[遠藤 武]
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普及版 字通
「釵子」の読み・字形・画数・意味
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世界大百科事典(旧版)内の釵子の言及
【髪飾】より
…古墳時代には花枝や木の芽を髪にさすことが流行,呪術的な目的ももっていた。この時代,大陸文化の影響と思われる銀製の釵子(さいし)(束髪ピンの類)もみられた。貴族階級では中国風の髪飾がもてはやされ,それは平安時代にも受けつがれ,頭に平打ちで鳳凰の飾りなどのせるようになった。…
【簪】より
…しかし江戸時代の簪は宗教的な意味は含まず,純粋に髪飾として独自の発達をとげたといえる。 奈良時代に隋・唐時代の二またに分かれた簪が日本に伝わり,これを釵子(さいし)と呼んだ。遺品では法隆寺献納宝物に,聖徳太子が用いたと伝えられる銀製雲形釵子がある。…
※「釵子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」