針・鍼(読み)はり

精選版 日本国語大辞典 「針・鍼」の意味・読み・例文・類語

はり【針・鍼】

〘名〙
布帛などを縫うのに用いる具。鋼鉄でまるく細長くつくり、一端は鋭くとがり、他端に糸を貫き通す穴がある。古くは、骨や角などを用いて製した。また、穴のない、布を刺留めるのに用いる留針待針(まちばり)もある。
万葉(8C後)一八・四一二八「草枕旅の翁と思ほして波里(ハリ)そ賜へる縫はむ物もが」
※枕(10C終)九五「かしこう縫ひつと思ふに、はりをひき抜きつれば、はやくしりを結ばざりけり」
② (鍼) 鍼治療に用いる具。また、その術。
(イ) 金、銀、鉄などで作られた治療用のもの。長さ、太さ、形状は、目的によって異なる。一定の法則に従って皮下あるいは皮内に刺入し、諸種疾病の治療を行なう。
※大般涅槃経治安四年点(1024)八「金の桿(ハリ)を以て其の眼の膜を決くる」
(ロ) (イ)を用いて療治すること。鍼治。
※虎明本狂言・神鳴(室町末‐近世初)「私は第一針が上手でござる」
③ ①に似て一端がとがり、物を刺したりするもの。
(イ) (「鉤」とも) 釣り針のこと。ち。
※浜田本宇津保(970‐999頃)俊蔭「さは、親には、これを食はするぞと知りて、針をかまへて釣るに」
(ロ) とげ。
※蘇悉地羯羅経略疏天暦五年点(951)六「此の草両辺に多く利(と)き刺(ハリ)有り」
(ハ) 蜂の尾部にあり、他の動物に刺して毒を伝えるもの。〔日葡辞書(1603‐04)〕
(ニ) 注射器の先端につけ、皮肉に刺すもの。注射針。〔日葡辞書(1603‐04)〕
(ホ) レコードの盤面から振動をひろう器具。レコード針。
※異端者の悲しみ(1917)〈谷崎潤一郎〉一「彼女は自ら針の附け換へに任じたり、音譜を円盤に嵌めたりした」
(ヘ) 編み物などに用いる具。かぎ針、棒針の類。
(ト) 物を重ねて押さえとめるもの。虫ピンやホッチキスに用いるものなど。
④ (③(イ)から) 誘惑し、だますもののたとえ。
※日葡辞書(1603‐04)「Farini(ハリニ) カカル〈訳〉誘惑におちいる。詐欺にかかる」
⑤ 時計、磁石計器などの、目盛や数字をさし示すもの。
※元和航海書(1618)「針のそばに、くろがねを不置」
⑥ 細く長い形。また、きわめて細小なもののたとえ。
※狂言記・俄道心(1700)「『それははりにきざむか』『いやいや是は鱠につくると申』」
裁縫。縫い物。また、それをする人。おはり。
※雑俳・川傍柳(1780‐83)五「鑓よりも針には物がいひやすし」
⑧ 人の心を傷つけるような言動をすること。陰険な心。
仮名草子・虫の歌合(1624‐44頃か)「こころにははりもちながらあふときはくちにみつあるきみぞわびしき」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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