日本大百科全書(ニッポニカ) 「釜」の意味・わかりやすい解説
釜
かま
ご飯を炊いたり、湯を沸かすのに用いる陶製または金属製の容器。普通、鍋(なべ)よりも底が深く、口が狭く、上部(甑(こしき))と底部の境に鍔(つば)(羽口(はぐち))をつくり、飯釜(めしがま)には重厚な木蓋(きぶた)を置くが、湯釜にはつまみのある、釜と同材の蓋を置く。飯釜の大きさは、その炊く米の容量をもって何升炊きといい、湯釜の大きさは、その口径をもって何寸という。またその個数を数える単位は古くは何枚といった。
釜はカナエ(鼎)が訛(なま)ったもので、古くはマロガナエ(円鼎)ともいい、すでに奈良時代に製作されていた。もともとは湯を沸かすためのもので、以前は飯を蒸すには甑が、飯を炊くにはもっぱら鍋が使用されていた。鍋は、糅飯(かてめし)(米にほかのものを混ぜて炊いた飯)や麦飯を炊く湯とりの方法に適し、つるがあるので自在鉤(かぎ)にかけて、いろりでする炊事に便利であった。これに対し釜は、米の飯の炊乾(たきぼし)の方法に適していたので、近世に入って米食が普及し、竈(かまど)が改良されるとともに、ようやく炊飯用として一般化した。ここに、飯釜と湯釜の別も生じ、飯釜を単にカマとよび、湯釜をチャガマ、カンスなどというようになった。なお、昭和30年代ころからは家庭燃料がほとんどガスや電気となり、飯を炊く道具も電熱・ガスを利用する自動炊飯器が広く普及している。
[宮本瑞夫]
種類
炊飯用の羽釜(はがま)に一升(1.8リットル)または三升炊きのものから、一合ぐらいの釜飯(かまめし)用の小さなものもある。また村寄合や大家族の家など大量炊事用には、鍔がなく上のほうに開いた平釜が用いられた。このほか、圧力を利用する圧力釜、湯沸かし専用の茶釜、茶の湯に用いる口の小さい鑵子(かんす)とよばれるものなどがある。また製造工業用の大型のものなど、用途によっていろいろである。特殊なものとしては、釜の内に仕切りがあって、口が二つある湯茶両様を兼ねた銅壺(どうこ)などもあり、これはもっぱら大きな商家や遊女屋などの主人に愛用された。
なお釜は、鉄製、銅製、アルミニウム製、陶製、土製のものが多く、蓋には重くてじょうぶなケヤキやカシが使われ、茶の湯釜の蓋には、釜と同材の銅製、銀製、真鍮(しんちゅう)製などが用いられた。
[宮本瑞夫]
民俗
釜に関する俗信や習俗も多くみられるが、古く『拾芥抄(しゅうかいしょう)』に、釜から発する「釜鳴り」によって吉凶を占う風習がみられる。また古くからの俗説に、地獄で罪人を煮るという地獄の釜は、盆と正月の16日に限り蓋をあけ、罪人を許すと信じられ、群馬県多野郡では、盆の16日を「釜の口開(くちあき)」とよび、茨城県の旧新治(にいはり)郡地方では旧7月1日を「釜蓋開(かまぶたあき)」とよんでいる。この日は、精霊が地獄を出るので、土に耳を当てるとその音が聞こえると信じられていた。そのほか、九州北部には、結婚の当日、花嫁の頭に釜の蓋をかぶせる「釜蓋被(かまぶたかぶせ)」の習俗などもみられる。
[宮本瑞夫]