金子文子(読み)かねこふみこ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「金子文子」の意味・わかりやすい解説

金子文子
かねこふみこ
(1905―1926)

社会運動家。広島県出身の佐伯文一と山梨県出身の金子キクノを両親として横浜に生まれたが、祖父の子として入籍、悲惨な少女時代を送る。東京に出て新聞売り子や女中などをしていたが、日本にきて朝鮮独立運動のための結社「不逞社(ふていしゃ)」を組織していた朴烈(ぼくれつ)(1902―74)と知り合い、意気投合して同棲(どうせい)した。1923年(大正12)9月の関東大震災で2人とも検挙され、天皇または皇太子を暗殺する準備をしていたという大逆(たいぎゃく)罪にでっち上げられた。26年3月死刑の宣告を受けたが、2人とも無期懲役減刑。7月23日文子は栃木刑務所で縊死(いし)した。

[吉見周子]

『『何が私をかうさせたか――金子ふみ子獄中手記』(1931・春秋社/増補決定版・1972・黒色戦線社)』『瀬戸内晴美著『余白の春』(中公文庫)』『『朴烈・金子文子裁判記録』(1977・黒色戦線社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「金子文子」の意味・わかりやすい解説

金子文子 (かねこふみこ)
生没年:1903?-26(明治36?-昭和1)

朴烈事件で大逆罪に問われた女性。横浜に生まれる。戸籍上は1902年生れであるが,出生届はかなり後年になされたため生年は確定できない。複雑な家庭事情のなかで育つ。1914-20年の朝鮮在住中も叔母らの慈愛は得られず,三・一運動に感動。21年春に上京,苦学生活に入って,翌年朝鮮人朴烈と同棲し,小サークル不逞社をともに組織するにいたる。23年関東大震災の際拘留され,ニヒリズムに根ざす皇太子暗殺の意図があったとして刑法73条(大逆罪)および爆発物取締罰則の適用を受け,夫ともども死刑判決(朴烈事件)。無期懲役に恩赦減刑されたが,4ヵ月後に獄舎で自殺。自伝に《何が私をかうさせたか》がある。
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朝日日本歴史人物事典 「金子文子」の解説

金子文子

没年:大正15.7.23(1926)
生年:明治35.1.25(1902)
大正期の反権力・ニヒリズム的な思想家。戸籍とは違い,実際は明治37(1904)年の横浜生まれ。両親の下でも,朝鮮に住む叔母の下でも温かい扱いを受けず辛い思いで少女時代を過ごした。大正7(1918)年上京。新聞売り,露天商,女中などをして苦学しているとき,朝鮮人朴烈(準植)を知った。朴のアナキズム的な思想や虐げられた民族の生き方に共鳴,生活を共にした。『太い鮮人』『現社会』などを刊行。12年関東大震災の際に朴と保護検束されたが,すぐに大逆罪の容疑者に変わった。公判では,天皇制否定の思想を隠さず陳述。15年3月大審院で朴と共に死刑をいい渡されるが,無期懲役に減刑された。宇都宮刑務所栃木支所に送られ,そこで縊死した。<著作>『何が私をこうさせたか』<参考文献>瀬戸内晴美『余白の春』

(小松隆二)

出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報

百科事典マイペディア 「金子文子」の意味・わかりやすい解説

金子文子【かねこふみこ】

横浜生れ。朴烈事件大逆罪に問われた。朝鮮在住のとき三・一独立運動に感銘をうけ,1921年に上京。翌年朝鮮人の朴烈と同棲,不逞社を組織する。1923年関東大震災の際に拘留され,皇太子暗殺の意図があったとして夫とともに死刑判決を受ける。無期懲役に減刑されたが,獄舎で自殺。著書に自伝《何が私をかうさせたか》がある。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「金子文子」の解説

金子文子 かねこ-ふみこ

1904-1926 大正時代の無政府主義者。
明治37年生まれ。大正11年東京で不逞(ふてい)社を組織した朝鮮人の朴烈(パク-ヨル)と知りあって同棲。関東大震災の際,検挙されて大逆罪にとわれ,15年朴とともに死刑判決をうける(朴烈事件)。無期懲役に減刑後の同年7月23日服役中に自殺。23歳。神奈川県出身。

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世界大百科事典(旧版)内の金子文子の言及

【朴烈】より

…京城高等普通学校を中退し1919年渡日,21年には黒濤会を組織し,アナーキズム運動に参加。22年同志金子文子と同棲,小サークル不逞社を組織し機関誌《黒濤》《太い(ふてい)鮮人》などを発刊した。23年9月関東大震災時,金子文子とともに保護検束され,東京地裁で治安警察法違反,爆発物取締罰則違反のかどで起訴され,26年3月天皇暗殺を図ったとして大逆罪にデッチあげられ死刑を宣告された(朴烈事件)。…

※「金子文子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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