量
りょう
質と対立して用いられる概念。物質がもつ性質は一般には「質」であるが、そのなかで比較によって順序づけができる形に表されるものを量という。色は通常は質であるが、それを波長の幅で表せば、比較による順序づけが可能になるがゆえに量である。一定の単位に従って表され、単位による量の表現の規定を計量metricとよぶことがある。
量は、計算によって客観的に比較できるために、質による表現よりも自然科学の方法のなかに取り込まれやすい。量に訴えて事物を表現する方法を定量的とよんで、定性的と区別する。自然科学では定量的方法が好まれるが、それは、演繹(えんえき)体系としての数学の確実性を利用するのに、定量的方法が便利だからである。しかし量的に表現されたものが、無条件で数学的な表現に載るとは限らない。20℃の水と40℃の湯を足しても60℃にはならないのであるから、簡単な四則演算でさえ、量の解釈と定式化にはさまざまな制限があることは留意しておいてよい。
インド哲学および仏教でいう量は、認識、その手段と根拠をさす。広い意味の論理とそれに基づく知識と考えてよい。
弁証法的唯物論には、量から質への転換という基本法則がある。比較可能な量の差が一定の限界を超えると、比較の不可能な質の差に変化することをいう。
形式論理でいう量とは、命題の性質であって、全称、単称の別をいう。記号論理でも、述語論理における「量化記号」quantifierという概念にそれが残っている。
[村上陽一郎]
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量
りょう
quantity
物理学,化学で用いられる量の大きさを表わすには,2つの因子が必要である。すなわち,問題とする量と同じ種類の標準量つまり単位,および単位との大きさの比を表わす数値である。この数値は,単位の選び方によって異なる。1つの物理量は他の相異なる2種以上の物理量との関係式によって定義されるから,適当な基本量をいくつか選ぶと,他の物理量 (誘導量) はその組合せで定まる。基本量としては,普通は長さと質量と時間を取り,熱の問題を扱うときには,これに温度を加える。物理量は1つの数値で表わされる場合だけでなく,数値の組によって表わされることもある。前者がスカラー,後者がベクトルであるが,一般に,座標変換に対する関係によって各階のテンソルに分類される。物理量のなかには,量の差だけが意味をもち,したがって量そのものは任意定数を含むものとして定義される場合も少くない。古典物理学では,測定可能な物理量は,理想的な実験を行えば任意の精度で決定され,その結果は一般に数値または数値の組で表現されると考える。しかし,量子力学では不確定性原理のために,ある物理量とそれに共役な物理量とは,同時に正確に測定することはできず,物理量は状態ベクトルに作用する演算子 (行列) で表現される。
量
りょう
quantity
基体や質と並んで範疇の1つであり,それは数,大きさ,広がり,塊,運動など数的に規定される一切のものをさす。存在のすべての位相が量化されるという定量的認識に対し,量的限定をこえる質の優位性を認める立場が形而上学においては正統的であるから,量は一般に劣位の範疇である。
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りょう リャウ【量】
〘名〙
※令義解(718)雑「凡用二度量権一官司。皆給レ様」 〔書経‐舜典〕
② 大小の比較の可能なものや測定の対象となるものについて、その長さ・重さ・時間・個数などをいう。また、測定して得られた数値や限度となる分量。
※小学読本(1873)〈田中義廉〉四「空気は、其量甚だ軽くして、凡水の八百分の一なり」 〔論語‐郷党〕
④ 人間としての器量の大きさ。心の大きさ。度量。
※玉葉‐治承四年(1180)正月二〇日「此間御進退敢非二幼稚之儀一、兼有二成人之量一、可レ貴」 〔程子遺書〕
⑤ (pramāṇa の訳) 仏語。対象を、正しく、認識、
論証する手段・根拠をいう。直接知覚による認識を
現量、それを超える対象の論証を比量という。広義には認識の作用・過程および結果としての知識をも含める。
※正法眼蔵(1231‐53)諸悪莫作「修行力たちまちに現成す。この現成は、尽地・尽界・尽時・尽法を量として現成するなり。その量は莫作を量と
せり」
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知恵蔵
「量」の解説
量
現象、物体、物質の性質で、数値と計量参照(reference)によって表現される。量の一般的概念はいくつかの水準に分けられ、量としての「長さ」のような特定の量の概念と「棒の長さ」のような個別の量の概念が存在する。 ものや事象を定量的に表現するためには、量そのものの定義が必要である。メートル条約のもとで1960年に決定された国際単位系(SI)では7つの基本量とその単位(基本単位)を定義しており、基本量の乗除によって構成される多くの組立量が誘導されてそれぞれに組立単位が定義されている。7つのSI基本単位に基づく量の体系が国際量体系(ISQ:International System of Quantity)として定義されている。量としては、比例的に変化し加減が可能な量と、その性質を比べるだけで加減が意味をもたない、色などの名義量(nominal quantity)も含まれる。
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デジタル大辞泉
「量」の意味・読み・例文・類語
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量
高塚謙太郎(高は正しくは“はしごだか”)による詩集。2019年刊行(七月堂)。2020年、第70回H氏賞を受賞。
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りょう【量 quantity】
ある性質を有する任意の二つの物を,その性質によって順序づけることができるとき,その性質を〈量〉という。そして,そうでない性質は〈質quality〉といわれる。重さ,長さ,温度,硬さ,などは量であり,色,血液型などは質である。例えば重さの場合,任意の二つの物を重さによって,“より重い”という関係で順序づけることができる。したがって重さは量である。これに対し色の場合は,任意の二つの物を色によって,“より……”という関係で順序づけることはできない。
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世界大百科事典内の量の言及
【度量衡】より
…
[語義と出典]
度,量,衡の3文字は順に,長さ,体積,質量を意味し,同時にそれぞれをはかるための道具(ものさし,枡,はかり)や基準を意味する。なお衡と類縁の文字で権(けん)というのもあるが,これは,はかりそのものではなく,分銅のほうを指す。…
【仏教】より
…これに対し,分裂以前を初期仏教あるいは原始仏教と呼んでいる。おもな部派としては,上座部の系統で北インドに勢力のあった説一切有部(略称有部),化地部(けじぶ),法蔵部など,西インドに勢力をもった犢子部(とくしぶ)などがあり,有部からさらに経量部(きようりようぶ)が分出した。犢子部からも正量部(しようりようぶ)その他が分出したが,正量部は後世(玄奘(げんじよう)の滞在した7世紀ころ)中インドに進出して大きな勢力をもっていた。…
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