重装歩兵(読み)じゅうそうほへい

改訂新版 世界大百科事典 「重装歩兵」の意味・わかりやすい解説

重装歩兵 (じゅうそうほへい)

古代ギリシア語ホプリテスhoplitēsの訳語。〈暗黒時代〉もようやく終りに近づいた前8世紀の半ば過ぎ,ギリシア世界に現れはじめた独特の戦士を指す。彼らは重いブロンズづくりの甲冑(かつちゆう)をつけ,多くは騎馬戦場におもむく。いざ敵に接すると馬から下りて,馬を従者に渡し,徒歩で仲間の戦士たちとびっしり盾を並べて密集隊形(ファランクスphalanx)を組み,長い突槍をふりかざし敵にあたっていった。これを後方から軽装兵が応援した。このような装備と戦術貴族によって導入され,その軍隊主力は貴族層だったと思われる。そして,この軍制の変革は貴族政ポリスの成立と深いかかわりをもっていた。やがて前7世紀から前6世紀にかけて民衆台頭し,改良されて軽く安くなった機動性に富む武具自前で手に入れ,徒歩の重装歩兵として軍隊に加わっていった。そしてこの民衆の重装歩兵が,旧来の貴族の騎馬の重装歩兵にかわって軍隊の主導権を握る。こうして生まれた民衆の〈走る重装歩兵〉の軍隊がペルシア軍を迎え撃って,これを撃滅し,民主政ポリスを打ち立てていく要因となったのである。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「重装歩兵」の意味・わかりやすい解説

重装歩兵
じゅうそうほへい

古代ギリシアの戦士。ホプリテスhoplites(楯(たて)兵)と称し、紀元前8世紀後半に出現した。直径約1メートルの青銅の丸盾(ホプロンhoplon)、青銅の冑(かぶと)、青銅・皮・麻などの胸甲と臑(すね)当、長さ2~2.5メートルの鉄の突き槍、鉄の短剣に身を固め、ファランクス(密集隊)を組んで戦った。初めは騎馬で戦場に赴く貴族が中心であったが、前7世紀後半から富裕な平民が、また前6世紀後半からは広範な中小市民までが徒歩で戦場に向かう重装歩兵となった。前5~前4世紀前半には、重装歩兵がギリシアの主要な戦士となった。ローマでは前6世紀なかばごろ、おそらくエトルリア人を通してギリシアの重装歩兵の装備が導入され、前4世紀初めまで用いられたと思われる。

[清永昭次]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

山川 世界史小辞典 改訂新版 「重装歩兵」の解説

重装歩兵(じゅうそうほへい)
hoplites

古代ギリシアの重装備を施した歩兵の称。その名は円楯(ホプロン〈hoplon〉)に由来する。鎧甲(よろいかぶと),脛当(すねあて)をまとい,楯と槍とを携え,ファランクスを組んで敵にあたった。前6世紀末までに軍制上の地位を確立した。その主体は武具自弁のうえ,祖国防衛の任にあたる中小土地所有農民であり,彼らホプリーテン農民こそ民主政ポリス存立の基盤であった。この兵制は前5世紀以来ローマでも採用され,ローマの発展の原動力となった。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

旺文社世界史事典 三訂版 「重装歩兵」の解説

重装歩兵
じゅうそうほへい
hoplites

古代ギリシアのポリスにおける重装備をした歩兵のことで,国防の主力。ホプリタイ(hoplitai)ともいう
前7世紀に小アジアから貨幣が流入して商工業が発展し,武器の入手も容易になったため,中小土地所有農民の武装が可能となり,騎士である貴族に対抗してよろい・かぶと・長槍で武装した独立自営農民の密集歩兵隊(ファランクス)が戦力の中核を形成するようになった。商工業の発展,戦術の変化に伴う中小農民の活躍は,貴族政から民主政への転換を促進し,重装歩兵民主政を確立させることになった。ローマでも前6世紀の半ばころに重装歩兵の装備が導入された。

出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報

百科事典マイペディア 「重装歩兵」の意味・わかりやすい解説

重装歩兵【じゅうそうほへい】

古代ギリシアの陸軍の中核を担った歩兵。ギリシア語ホプリテスの訳。重い甲冑(かっちゅう)をつけ,盾を並べた密集隊形(ファランクス)を組んで,長い槍で攻撃した。市民の台頭とともに,軍の主導権を握るようになり,民主政ポリス確立の原動力となった。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「重装歩兵」の意味・わかりやすい解説

重装歩兵
じゅうそうほへい

ホプリタイ」のページをご覧ください。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の重装歩兵の言及

【甲冑】より

…ギリシアでは,ホメロスの叙事詩に登場するアカイアの兵士たちは,青銅の胸甲を帯びている。古典期,諸ポリスの民主政治の担い手であった市民は,重装歩兵(ホプリテス)として出陣した。彼らの標準装備は兜,胴鎧,脛当,楯であり,武器として槍と剣を携えた。…

【ローマ】より

…このほか工兵2ケントゥリア,器楽兵2ケントゥリア,等級以下1ケントゥリアがあり,総計193ケントゥリアであった。兵員会はこの部隊編制別で集まり,各ケントゥリアが1票をもって投票をする一方で,武装の仕方も級ごとに定められ,第1級が重装歩兵で出陣する富裕農民であった。第1級80票と騎士18票で98票となり,これだけで193票の過半を制したから,この民会は貴族と平民上層が国政を動かしていたことを示している。…

※「重装歩兵」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

黄砂

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android