里・郷(読み)さと

精選版 日本国語大辞典 「里・郷」の意味・読み・例文・類語

さと【里・郷】

〘名〙
人家のあつまっている所。人の住まない山間に対して、人の住んでいる所。ひとざと。村落
古事記(712)中「同じ兄弟(はらから)の中に、姿醜きを以ちて還さえし事、隣(ちかき)(さと)に聞えむ」
万葉(8C後)一五・三七八二「雨(あま)(ごも)り物思(も)ふ時にほととぎす我(わ)が住む佐刀(サト)に来鳴きとよもす」
② 古代の地方行政区画の一つ。大宝令の施行から霊亀元年(七一五)まで行なわれた国郡里(こくぐんり)制では、五〇戸を一里(さと)として最小単位とし、また霊亀元年からの郷里制では、それまでの里を郷(さと)と改称し、この下に二、三の里(こざと)を置いたが、里は天平一二年(七四〇)頃廃止され、それ以後は郷の組織が最小の区画となった。り。
出雲風土記(733)総記「郷(さと)は六十二 里(こざと)は一百八十一」
③ 距離を表わす「里(り)」を訓読した語。
書紀(720)敏達二年七月(前田本訓)「倶時(もろとも)に発船(ふなたち)して、数(あまた)(サト)許に至る」
宮廷を「内(うち)」というのに対して、それ以外の場所をいう。特に宮仕えする人が自分の住家また実家をさしていう。自宅。生家
※万葉(8C後)六・一〇二六「ももしきの大宮人は今日もかも暇(いとま)を無みと里に出でざらむ」
※宇津保(970‐999頃)忠こそ「帝は『さとにあらん』と思して、父おとどは『内裏にさぶらふらん』と思して」
⑤ 自分の住んでいる所。また、住んでいたことのある土地。故郷。郷里。ふるさと。
※万葉(8C後)一二・三一三四「里離(さか)り遠からなくに草枕旅とし思へばなほ恋ひにけり」
⑥ (都に対して) 田舎(いなか)。田園地帯。在所。
※海道記(1223頃)鎌倉遊覧「実にこれ聚をなし邑をなす、郷里(さと)、都を論じて望み先づめづらし」
※俳諧・鹿島紀行(1687)「かりかけし田づらのつるや里の秋〈芭蕉〉」
僧侶稚児(ちご)、妻、養子、奉公人などの実家。親もと。
※米沢本沙石集(1283)五末「児共の里に下り、自然久しく候事、常の習と存ずる計也」
※滑稽本・浮世床(1813‐23)初「女房の里(サト)から紀念分(かたみわけ)の地面が二ケ所」
⑧ 養育料を出して、子どもを他人に預けること。また、その預け先。
※浄瑠璃・夕霧阿波鳴渡(1712頃)上「あいつが腹から出た身が忰〈略〉元の遣手玉が才覚でさとに遣ったとやら」
⑨ 遊里。くるわ。いろざと。江戸においては多く吉原を指す。
※浮世草子・傾城色三味線(1701)江戸「これ高尾が里をはなれて出し姿なるは」
⑩ (「おさと」の形で用いて) 素姓。おいたち。育ち。
※談義本・当世穴穿(1769‐71)四「劔をくり出し雪隠から出ながら、そこは私がいたしましゃうと声をかけるから、直にお里が知れる」
⑪ (形動) 遊里などで、やぼな客、またはやぼな行為をすること。また、そのさま。
※洒落本・契情買虎之巻(1778)三「ここにまじはらざる人あれば、かへ名してさととよぶ。山ざとの人といふ心なるにや」
⑫ (寺に対して) 俗世間世俗
源氏(1001‐14頃)夕霧「山ごもりして里にいでじとちかひたるを」
⑬ (檀家から寺へ物を贈るのが普通なのに、逆に寺から檀家へ物を贈るの意の「寺から里」の略) 本末を転倒すること。
※浮世草子・真実伊勢物語(1690)一「つゐどうなりとあそばしてはやくかへしてくだされませいと、是も里にてつれたち行けるぞこのもしき」
境地。漢語「郷(きょう)」を訓読みしたもの。
※米沢本沙石集(1283)序「因果をわきまへ、生死の郷(サト)を出る媒とし、炎の都へ到るしるべとせよと也」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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