酸性媒染染料(読み)さんせいばいせんせんりょう(英語表記)acid mordant dye

改訂新版 世界大百科事典 「酸性媒染染料」の意味・わかりやすい解説

酸性媒染染料 (さんせいばいせんせんりょう)
acid mordant dye

媒染とは,金属塩媒染剤)で前処理した繊維をこれと結合する染料で染めることをいう。金属としてはクロムがよく用いられていたことからクロム染料ともいう。このように繊維上で不溶性錯塩を生成して堅牢染色を得る技術は酸性媒染染料へと発展し,酸性染料と同様に動物性繊維を染めた後,金属イオンで処理し不溶性錯塩を生成させる。さらに最初から金属塩となっている含金属染料が登場,発展した。これはアゾ染料母体となり,アゾ基の両オルト位に錯形成基(ヒドロキシOH,カルボキシCOOH,アミノNH2)をもち金属とキレート化合物を形成する。金属の種類は銅,クロム,コバルトなどで,アゾ染料と金属との比により,1:1型および1:2型がある。酸性染料の性質を保持するため染料母体にはスルホン酸基,カルボン酸基などをもつ。このような型の金属錯塩酸性染料は古い媒染染料にくらべ染色法が簡単で,色も金属の種類,染料の構造により豊富であり,最大の特徴はその高い洗濯堅牢度にある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「酸性媒染染料」の意味・わかりやすい解説

酸性媒染染料
さんせいばいせんせんりょう
acid mordant dyes

金属イオンと錯塩結合して、水不溶性の金属錯体レーキ)をつくりうる染料を媒染染料という。酸性染料と同様の染色性をもち、かつ金属イオンと配位結合しうる染料が酸性媒染染料である。金属イオンとしてクロムを用いることが多いのでクロム染料ともいう。羊毛の黒、紺、茶色などの濃色染めに利用されており、耐光性や耐湿潤性に優れたものが多い。

 アゾ色素系が多く、アゾ基と分子内中のヒドロキシ基アミノ基カルボキシ基カルボキシル基)などによって金属イオン配位結合する。金属イオンとして用いられるクロムは、重クロム酸カリウムの六価クロムが用いられるが、三価クロムとなり染料と結合する。

[飛田満彦]

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化学辞典 第2版 「酸性媒染染料」の解説

酸性媒染染料
サンセイバイセンセンリョウ
acid mordant dye

酸性染料と媒染染料の両方の性質をもつ染料.媒染剤として二クロム酸カリウムなどのクロム化合物を用いるので,クロム染料(chrom dye)ともいう.酸性染料同様,分子内にスルホン酸基など解離性の親水性基を含み,さらに媒染により繊維上で不溶性の金属錯塩を形成することによって,湿潤堅ろう度を改善するものである.これによって,一般に日光堅ろう度が増すが,媒染前に比べて色調は深くなる.構造的には,大部分アゾ染料であり,そのほか,アントラキノン染料トリフェニルメタン染料も若干ある.分子内にはアゾ基のオルト位に-OH,-NH2,-COOHやサリチル酸誘導体の-COOH,-OHなどをもつ.繊維をあらかじめ媒染剤で処理する方法(媒染法)や,染料と媒染剤とを同時に用いる方法(メタクロム法)もある.羊毛の堅ろう染色に重要な染料であるが,そのほか,絹やナイロンにも用いられる.市販品は100種類を超える.代表的な例として,エリオクロムブラックT(C.I.Mordant Black 11)の構造を示した.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

百科事典マイペディア 「酸性媒染染料」の意味・わかりやすい解説

酸性媒染染料【さんせいばいせんせんりょう】

酸性染料の一種で媒染染料の性質をもつもの。いったん繊維を染めた後,金属塩を含んだ液中で後処理すると,染料と金属イオンが結合して水に溶けにくくなり,洗濯にも強くなる。一般に色はくすんでくる。金属としてはクロムが多く用いられたことからクロム染料ともいう。堅牢(けんろう)な羊毛染に使う。
→関連項目染料

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世界大百科事典(旧版)内の酸性媒染染料の言及

【媒染染料】より

…媒染染料は本来,繊維に直接の染着力をもたず,媒染剤で処理した繊維に染着する染料であるが,その染着機構である金属と錯塩を形成することに着目すれば,媒染剤で染色の前あるいは後で処理する媒染可能な酸性染料である酸性媒染染料,酸性媒染染料から発達し分子内にすでに金属を錯塩としてもっている1:1型金属錯塩染料,1:2型金属錯塩染料まで媒染染料として考えることもできる。しかし一般的には金属錯塩染料は酸性染料の部属として扱い,媒染染料としては,本来の媒染染料,酸性媒染染料,およびアルマイト用染料の3種を含めるのが普通である。…

※「酸性媒染染料」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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