酔いどれ天使(読み)よいどれてんし

改訂新版 世界大百科事典 「酔いどれ天使」の意味・わかりやすい解説

酔いどれ天使 (よいどれてんし)

1948年製作の東宝映画。黒沢明監督作品。戦後の貧しい青春を描いた《素晴らしき日曜日》(1947)につづいて,脚本植草圭之助とのコンビによっている。戦後社会の一つの象徴的産物である闇市にのさばるやくざたちを取りあげ,中年を過ぎた酔いどれの医師(志村喬)と結核を病むやくざの青年(三船敏郎)との交流を描きながら,やくざの世界の至高道徳律であり誇りである〈仁義〉の虚偽とむなしさを痛烈にあばきつつ,日本の戦後社会の世相と精神構造,その動揺と混乱を的確かつ鮮烈にとらえた作品であった。映画音楽を〈対位法〉的にとらえた作曲家早坂文雄(1914-55)とのコンビ第1作であり,1946年の東宝ニュー・フェイス三船敏郎(1920-97)とのコンビのスタートとなった作品でもある。この映画が封切られた48年4月に第3次東宝争議が始まり,その結果,会社首脳の卑劣さのため〈撮影所に対する献身的な気持ち〉を失った黒沢は,この映画を最後に東宝を離れた。
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デジタル大辞泉プラス 「酔いどれ天使」の解説

酔いどれ天使

1948年公開の日本映画。監督・脚本:黒澤明、脚本:植草圭之助、撮影:伊藤武夫美術松山崇、音楽:早坂文雄。出演:志村喬、三船敏郎、山本礼三郎、中北千枝子、木暮実千代、千石規子、飯田蝶子ほか。第22回キネマ旬報ベスト・テンの日本映画ベスト・ワン作品。第3回毎日映画コンクール日本映画大賞、撮影賞、音楽賞受賞。

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