配置家庭薬(読み)はいちかていやく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「配置家庭薬」の意味・わかりやすい解説

配置家庭薬
はいちかていやく

配置員(売薬人)によって各家庭に配置される医薬品のことで、俗に「置き薬」とよばれる。配置家庭薬は、富山薬売りに代表されるように、いわゆる「先用後利」とよばれる独特の商法で売られる。各家庭は、配置された薬を必要時に使用し、その代金のみを、年に一、二度巡回してくる配置員に支払うこととなる。このような商法の起源は、儒教の「先用後験」の思想に端を発するが、売薬への応用は、17世紀末の備前(びぜん)売薬の「大庄屋廻(だいしょうやまわ)し」がもっとも古く、のちに富山、奈良、滋賀、佐賀などに広まった。また、売薬行商の発生は、中世修験(しゅげん)者や廻国(かいこく)者の配札方式にも関連があるといわれている。初期のころの配置薬の剤型は、丸剤を主流としたものであったが、現在では顆粒(かりゅう)剤、カプセル剤、目薬、ドリンク剤などへと変化している。江戸期における薬方の多くは中国医学を基礎にしたものであったが、今日では近代薬が主流となっている。薬の製造も、古くは家内工業的な生産様式が大半を占めていたが、現在では近代的設備をもつ工場で、他の医薬品と同様、衛生的に生産されている。配置薬として古来から著名なものとして、次のような薬方がある。

[難波恒雄・御影雅幸]

反魂丹

富山売薬のきっかけとなった丸剤で、中国宋(そう)代の医方書『儒門事親(じゅもんじしん)』のなかに記された「妙功十一丸」がその基本処方である。おもな成分は「木香(もっこう)」「大黄(だいおう)」「黄連(おうれん)」「熊胆(ゆうたん)」「麝香(じゃこう)」などであり、胃腸薬として賞用された。しかし、今日では処方内容のまったく異なるものが反魂丹(はんごんたん)として売られている。

[難波恒雄・御影雅幸]

六神丸

いわゆる「気つけ薬」で、「ろくしんがん」と読む。強心作用のある薬物として有名である。売薬化されたのは明治時代後期。成分としては「牛黄(ごおう)」「麝香」「蟾酥(せんそ)」などが主剤となっている。高貴な丸薬で、口中でかんだときに舌がしびれるのは蟾酥による。

[難波恒雄・御影雅幸]

熊胆丸

読みは「ゆうたんがん」。いわゆる「熊(くま)の胆(い)」とよばれるものである。クマ類の胆汁を乾燥して固形化したものが真の熊胆で、かつては小片を竹の皮に包んで配置された。熊胆は貴重品であったため、偽物も多く出回り、ブタをはじめとする他の哺乳(ほにゅう)動物の胆汁のほか、オウレンセンブリなど、苦味のある植物のエキスも混入された。なかには、すべてがこれらの代用によるというものもあった。近年でも豚胆(とんたん)で代用されることがある。

[難波恒雄・御影雅幸]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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