配糖体(読み)はいとうたい

精選版 日本国語大辞典 「配糖体」の意味・読み・例文・類語

はいとう‐たい ハイタウ‥【配糖体】

〘名〙 糖類の還元基にアルコールフェノールなどの水酸基をもつ有機化合物が結合した化合物の総称。酸または酵素により加水分解を起こして糖とアグリコンに分解する。天然には特に植物中に存在。タンニンサポニンジギタリスなど。グリコシド

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デジタル大辞泉 「配糖体」の意味・読み・例文・類語

はいとう‐たい〔ハイタウ‐〕【配糖体】

糖類と、アルコールやフェノールなどの水酸基をもつ有機化合物とが結合した化合物。生物、特に植物体に広く存在し、サポニン・ジキタリスなどがあり、糖がグルコースのときはグリコシドといい、最も多く存在。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「配糖体」の意味・わかりやすい解説

配糖体
はいとうたい

広義の配糖体はグリコシドglycosideと同義で、糖の還元基と糖または糖以外の化合物のヒドロキシ基、あるいはまれにアミノ基やチオール基とが脱水縮合してできた物質の総称である。そのうち、糖と糖とが縮合したものをホロシドholosideといい、少糖類や多糖類が含まれ、糖と糖以外の成分(アグリコンという)からなるものをヘテロシドheterosideとよぶ。狭義のいわゆる配糖体はこのヘテロシドだけをさす。なお、糖とアグリコンの一般的な結合様式は酸素原子を挟んで結合したO-グリコシドであるが、なかには硫黄(いおう)原子、窒素原子、炭素原子を挟んで結合したものもあり、それぞれS-グリコシド、N-グリコシド、C-グリコシドとよばれる。

 配糖体は生物界に広く存在し、とくに植物はすべて配糖体を含むといわれるほどである。酸または酵素グルコシダーゼによって加水分解され、糖とアグリコンになる。糖成分としてはグルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトースなどがよくみいだされるが、ウロン酸、二糖類、三糖類などもある。アグリコンはさらに多種多様であり、有機化学の全分野にわたっている。したがって、性質もさまざまである。なお、配糖体の名称はアグリコンの名称の次に、糖の名称の語尾をオシド-osideとしたものをつけて示す。たとえば、メチルグルコシドフェニルガラクトシドなどとよぶ。

 還元基の不斉炭素原子によってα(アルファ)-およびβ(ベータ)-の立体異性体があり、天然にはβ型が多く、水溶液は左旋性のものが多い。普通、結晶性物質で、一般に水、エタノールエチルアルコール)、メタノール(メチルアルコール)に溶けるが、エーテルベンゼンクロロホルムには難溶である。性質がさまざまで抽出方法も一様ではないが、普通は水またはアルコールで抽出し、酢酸鉛で処理したのち、シリカゲルなどのカラム分配クロマトグラフィーで精製する。アグリコンの種類によって、アルコール、フェニル、クマリン、フラボンおよびその関連化合物の配糖体、芳香族炭化水素のアンスラセン配糖体、青酸(シアン化水素酸)配糖体、からし油配糖体、サポニン、強心配糖体、アミノ配糖体群およびマクロライド群抗生物質などに分類できる。フラボン関連化合物配糖体には植物色素アントシアン、アンスラセン配糖体には植物色素アリザリン、青酸配糖体には未熟なウメの実中のアミグダリン、からし油配糖体にはカラシナなどに含まれるシニグリンがある。また、ジギタリスの強心配糖体は医療上重要である。アミノ配糖体群抗生物質にはストレプトマイシンやカナマイシン、マクロライド群抗生物質にはエリスロマイシンがある。このほか、窒素配糖体として核酸の構成成分であるプリンおよびピリミジンヌクレオシド、補酵素、ビタミンB12など生理的に重要な物質がある。配糖体の存在理由についての定説はないが、生理的意義は多様である。

[飯島道子]

『上田泰編『アミノ配糖体薬』(1985・南江堂)』『大岳望著『新化学ライブラリー 生合成の化学』(1986・大日本図書)』『阿部昭吉著『科学パソコンシリーズ8 分子デザイン』(1989・サイエンスハウス)』『伏谷伸宏・広田洋他著『天然有機化合物の構造解析――機器分析による構造決定法』(1994・シュプリンガー・フェアラーク東京)』『新家龍他編『糖質の科学』(1996・朝倉書店)』『岡田茂孝・北畑寿美雄監修、中野博文・橋本博之・栗木隆編著『工業用糖質酵素ハンドブック』(1999・講談社)』


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化学辞典 第2版 「配糖体」の解説

配糖体
ハイトウタイ
glycoside

グリコシドともいう.還元糖のアノメリックヒドロキシ基が,ほかの原子あるいは置換基で置換した化合物の総称.アノメリックヒドロキシ基にはα,β両形が存在するが,このヒドロキシ基とほかの化合物の水素原子との脱水,あるいはハロゲン化合物のハロゲンとの脱ハロゲン化水素により新しく形成された結合はグリコシド結合,単糖からヒドロキシ基を除いた部分はグリコシル基とよばれる.このグリコシル基と直接結合している原子により,O-グリコシド,N-グリコシド,S-グリコシド,C-グリコシドに分類され,それらの原子に結合している残基はアグリコンとよばれる.O-グリコシドは植物界に広く分布し,種々の生理活性をもつ多様な構造のアグリコンが存在する.狭義には,O-グリコシドを配糖体と称している.動物界では,N-グリコシドがより広く分布し,核酸や糖タンパク質として,生体内で重要な役割をしている.また,S-およびC-グリコシドも若干ながら自然界に見いだされている.配糖体はグリコシダーゼ,ホスホリラーゼ,糖転移酵素の基質や生産物である.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「配糖体」の意味・わかりやすい解説

配糖体
はいとうたい
glycoside

広く植物界に分布する成分で,酸や酵素グリコシダーゼによって,糖と非糖部 (アグリコンあるいはゲニン) に分れる。糖と非糖部とはアセタール結合もしくはチオグリコシド結合によってつながっている。糖がグルコースの場合にはグルコシドと呼ばれる。天然に最も多いのは,糖アノマー炭素原子の水酸基とβ型結合した形式である。非糖部の化学構造によって,フェノール配糖体,からし油配糖体などに分類される。物理的,化学的性質や生理活性などによって,サポニン,強心配糖体,苦味配糖体などに分類されることもある。植物体内における役目としては,代謝物質の無害化,もしくは貯蔵物質としての役割などが考えられている。 (→グリコシド )

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百科事典マイペディア 「配糖体」の意味・わかりやすい解説

配糖体【はいとうたい】

グリコシドとも。糖とさまざまな種類の非糖成分(アグリコン)が結合した有機化合物。生物界に広く分布し,植物色素であるアントシアニンやフラボン類,カラシナ類の辛味の主成分であるからし油配糖体,さらにサポニン,糖脂質,ヌクレオシド,ある種の抗生物質なども含まれる。数多くの生体物質がこれに当たり,生理的意義もさまざまだと考えられる。

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栄養・生化学辞典 「配糖体」の解説

配糖体

 グリコシドともいう.炭水化物のヘミアセタール性ヒドロキシル基に糖以外の化含物がエーテル結合したものの総称.

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世界大百科事典(旧版)内の配糖体の言及

【薬用植物】より

…このうち洋薬とは古代からヨーロッパで使われてきたものに,16世紀以降,新大陸,アフリカおよび東南アジア地域で利用されていたものが移入されて,その薬効成分が研究され,強い生理作用をもつ生薬が加えられたものである。強い生理作用をもつ生薬の多くはアルカロイドか強心配糖体を含んでいる。
[薬効]
 薬用植物には治療に使うものと,健康保持などの予防に使うものがあるが,それらの種類および使用量ならびに頻度は圧倒的に後者にかたよっている。…

※「配糖体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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