選炭(読み)センタン

デジタル大辞泉 「選炭」の意味・読み・例文・類語

せん‐たん【選炭】

[名](スル)原炭中に含まれる岩石分を除去し、さらに石炭の品質や粒子の大きさに応じて分別すること。

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精選版 日本国語大辞典 「選炭」の意味・読み・例文・類語

せん‐たん【選炭】

〘名〙 原炭から不純物を除き、用途に応じ、品位・粒度・炭質別に仕分けて商品炭とする作業。
※火の山(1955)〈井上友一郎〉一「貞子はその報を、選炭場のコンベアの前で耳にしたが」

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改訂新版 世界大百科事典 「選炭」の意味・わかりやすい解説

選炭 (せんたん)

採掘されたままの石炭(原炭run-of-mine coal,raw coal)は一般には炭層の母岩や炭層間に介在する岩石層(挟みpartings)の混入により品質が悪く,また不安定である。そこで,これを商品炭として出荷する前に品質を向上させ,あるいはその安定化をはかるために選別等の処理を施すのがふつうである。この処理プロセスが広義の選炭coal preparationである。広義の選炭は,破砕,ふるい分け,分級などによる粒度調整,石炭とぼた(岩石成分rock)の選別,製品の脱水,混炭などのほか,場合によってはブリケット化などの加工処理を含む多数の操作から成り立っている。広義の選炭の中で,その中心ともいえるのは石炭とぼたの選別過程である。狭義の選炭coal cleaning(cleaning of coal)は,原炭の中に含まれる石炭成分を不燃成分から分離するための主として機械的ないし物理的な操作を意味している。

 選炭の産物として得られる高品質の石炭を精炭clean coalという。また中間品質の製品を二号炭middlingsという。低品質の石炭に対しては低品位炭low grade coalという言葉も用いられる。選炭過程によって分離・除去され,廃棄される産物を廃石という。破砕,ふるい分けなどの簡単な処理のみにより出荷される商品炭は未選炭uncleaned coalと呼ばれている。

 選炭工場に受け入れられた原炭は,およその粒子が単体分離され,また選別過程に適した粒度の50~100mm以下にまで破砕される。この段階で,石炭がぼたに比して破砕されやすいという性質を利用して,一部のぼたを廃石として分離・除去する場合もある。この選択破砕・分離のためには,ブラッドフォードブレーカーと呼ばれる破砕・ふるい分け装置が用いられる。またその過程で0.5mm以下の微粉炭は分級され,別系統へ送られる。粒度0.5mm以上の石炭は,そのまま,あるいはさらに2~3の粒度群に分けられたのち,選別される。粒度0.5mm以上の石炭の選別には,ジグ選別,重液選別などをはじめとする比重選別法がもっぱら用いられている。石炭とぼたの比重はそれぞれ1.3~1.4,2.4~2.7くらいであるから,湿式比重選別法は選炭に適した機械的分離技術といえる。

 粒度0.5mm以下の石炭,すなわち微粉炭の割合は採炭の方法にもよるが,ふつう原炭の全量の1/4程度を占めている。この粒群に対する処理法は石炭の用途や経済条件によっても異なるが,原料炭(コークス製造原料となる石炭)の生産を主目的とする選炭工場では,浮遊選炭法によって選別を行う場合が多い。これに対し一般炭(ボイラー用などの石炭)の生産に主力をおく選炭工場においては,もっとコストの少ない方法,たとえば単なる沈降分離によって,あまり積極的な選別を行わずに微粉炭を回収する方式が多く採用されている。精炭の大半を占める0.5mm以上25mm以下の石炭は粉炭と呼ばれ,25mm以上の石炭は塊炭と呼ばれている。

 ぼたを構成する代表的な岩石はケツ岩であるが,炭層内には岩石の変成作用によって生成された粘土分が含まれている場合が多い。選炭はふつう湿式処理方式によって行われ,これには大量の選炭用水が必要とされる。選炭水の大部分は固形分の大半を除いたのちに循環使用されるが,一部は選炭廃水として系外に排出する必要がある。このとき,選炭廃水中に含まれる粘土粒子などの固形物をほぼ完全に取り除かなければ,一般の河川などに放流するわけにいかない。このための処理プロセスを選炭廃水処理という。選炭廃水処理はシックナー沈殿池などによる沈降や自動フィルタープレスによる加圧ろ過などの操作を組み合わせることによって行われている。

 選炭過程によって分離・回収された精炭や二号炭は,石炭の用途に応じて要求された灰分,発熱量,水分,粒度などの製品規格に合うよう混炭され,また必要によっては熱乾燥などの処理を経たのち出荷される。選炭工場においては,品質管理のためにベルトはかり,スラリー用の流量計および密度計,レベル計などの工業計測機器により,工程の計測・制御が行われている。とくにジグ選別におけるベッドの比重制御や,重液選別における重液比重の制御には大きな力が注がれている。また近年はX線や放射性同位体からの放射線によるオンライン灰分分析装置をはじめとする各種のオンライン分析装置が開発され,工場の計算機制御とともに精炭品質の安定化の一翼を担うようになった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「選炭」の意味・わかりやすい解説

選炭
せんたん

石炭を対象とする選鉱であり、採掘された原炭から物理的方法で不用の岩石を選別除去し、さらに大きさ別に分けるなど、市場の要求にあう商品に調整すること。広義にはこれに付随するすべての操作をいう。

 現在、石炭の大部分は、大別して原料炭(コークス用炭)として製鉄用に、また一般炭(燃料炭)として電力その他工場用に使用され、それぞれ市場の要求によって所要の品質(灰分、湿分、硫黄(いおう)分、粒子の大きさなど)が決まってくる。一方、機械化による大量採炭で坑内から搬出されてくる原炭には、石炭だけでなく、「夾(はさ)み」(炭層中の岩石層あるいは炭質頁岩(けつがん)層)のほか、炭層の上下にある岩石も一部混入し、そのままでは所要の品質基準に満たないのが普通である。したがって選炭によって需要に適した精炭を選別、調整することが必要である。

 石炭は金属鉱石と異なり、比較的大きい粒子径で単体分離が進んでいること、粗粒のほうが選別処理能力が大で、したがって選炭経費が安いこと、片刃(かたは)状の中間炭でも2号精炭として商品になることなどの理由から、なるべく破砕しないでそれぞれの粒子径に応じた選別を行う。

[麻生欣次郎]

選炭法の種類

塊炭(50~70ミリメートル以上)の選別は昔は手選(てせん)で行われていたが、人件費の上昇および塊炭需要の減少などで現在はほとんど姿を消した。塊あるいは大塊の予備処理が必要な場合は、重液選別によるか、またはブラッドフォードブレーカーBradford breakerを用いる。後者は石炭だけを優先的に破砕し、篩(ふるい)分けによって破砕しなかった岩石を除去する予備選別である。

 石炭の選別法の主体は比重選炭で、微粉炭(約0.5ミリメートル以下の粒子)以外はすべてこれで処理されている。石炭の比重は瀝青(れきせい)炭で約1.3、廃石となる岩石はおもに頁岩で比重約2.5で金属鉱石の場合より比重選別に適している。比重選別にはいろいろの方法があるが、現在選炭にもっとも多く用いられているのは、ジグ選別と重液選別である。このほか一部シェーキングテーブルshaking tableが細粒の選別に用いられている。

 ジグ選別は湿式の比重選別法の一つであり、網の上に供給された原炭の層(ベッドbed)に垂直に水の脈動流を与えることによって、比重の小さい石炭を上に、比重の大きな頁岩を下になるように成層させ、同時にベッドを給炭側から排出端側へ移動させて、連続的に精炭と廃石に分離させるものである。選炭用ジグは水の脈動に空気圧の変動を利用したバウムBaum式ジグであったが、わが国で考案されたタカブジグTACUB jigの原理が逆にドイツで取り入れられ、バタックジグBatac jigとなり、毎時700~800トン処理の大容量の選炭機となった。

 重液選別は、所定の比重(1.35~1.9)に調整された重液中に原炭を投入し、浮上する精炭と沈む廃石とに分離する方法である。重液は比重の大きな固体粉末を水に懸濁させた泥状のもので、石英砂、頁岩や黄鉄鉱の粉末なども用いられるが、現在は磁鉄鉱がおもに使用されている。重液選別は初め粗粒(6~10ミリメートル以上)の選別にのみ使用されていたが、遠心力を利用したサイクロン選別機cyclone washerの開発で細粒(20~0.5ミリメートル)の選別にも用いられている。

 微粉炭の選別は浮選による。石炭は炭素を主とした有機化合物で疎水性であり、親水性の岩石と浮選により容易に選別できる。とくに原料炭は浮選に適しており、その生産量を増すために微粉炭を浮選するのが普通である。浮選剤としては、起泡剤にMIBC(アルコール系)が、また必要に応じて捕収剤に灯油などが使用される。

 各選別機から出た精炭はそれぞれ適切な脱水操作を経て、品質別にポケットpocketに貯蔵し、必要に応じて混炭、品質を調整したうえ積み出す。粗粒の廃石は捨場に堆積(たいせき)する。浮選から出た廃滓(はいさい)は濃縮後、坑内充填(じゅうてん)に用いたり、古洞(ふるとう)(昔採掘した跡の空洞)へ廃棄する。また濃縮したのちさらに脱水して処分する場合もある。

[麻生欣次郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「選炭」の意味・わかりやすい解説

選炭
せんたん
cleaning of coal

(1) 採掘した石炭を主として物理的,機械的方法によって精炭と廃石に分離する操作,(2) 採掘した石炭を市場の要求に合うように調整する処理技術の総称で,このほかに分粒,混炭,加工利用などの作業を含む。採掘したままの石炭は各種の粒度が混り,かつ,燃料価値の低い粗悪炭および岩石分を含んでいるので,これらの廃石を分離し,粒度をそろえる必要がある。採掘された石炭は選炭場に運ばれて貯炭槽に移され,ここから篩別 (しべつ) 機にかけ,一定の大きさ以上の塊炭は粉砕機にかけて粉砕し,再び篩別機にかける。篩上のものはまた粉砕し,数種の粒度別に分けたものを選炭機にかけて,精炭と廃石に分離する。選炭機は石炭と岩石の比重差に基づいて両者を分離する装置であるが,分離方式によりバウム式,テーブル式,重液式,空気式,浮選式などがある。選炭法の多くは水を使用するので洗炭ともいう。石炭の特性は炭層ごとに異なっているので,2~3の炭層からの石炭を混合して所要の特性を有する精炭を得ることがある。これを混炭といい選炭技術の一種である。輸入強粘結炭と国産弱粘結炭 (→粘結炭 ) を混炭し,鉄鋼用原料炭としているのはこの例である。

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百科事典マイペディア 「選炭」の意味・わかりやすい解説

選炭【せんたん】

採掘した石炭を選別・調製して商品化する作業。手選,水選や重液(水より比重の大きい液)選炭などで,混入しているぼた(ずり)を除き,ふるい分け,分級(分級機)により粒度を整える。
→関連項目切込炭鉱山機械炭鉱

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