選挙干渉(読み)せんきょかんしょう

精選版 日本国語大辞典 「選挙干渉」の意味・読み・例文・類語

せんきょ‐かんしょう ‥カンセフ【選挙干渉】

〘名〙 政府が与党の候補者を有利にするために、警察権力官僚組織・金銭などを利用して野党候補者の選挙運動妨害したり、当選を無効にするための工作をしたりすること。広義には、政府補助金などによる利益誘導やマスコミによる世論操作なども含める。
東京日日新聞‐明治二五年(1892)五月一〇日「予てより評判高かりし選挙干渉問題は」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「選挙干渉」の意味・読み・例文・類語

せんきょ‐かんしょう〔‐カンセフ〕【選挙干渉】

政府当局者がその権力を利用して、選挙の公正を破って不当に干渉し、反対党を抑圧すること。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「選挙干渉」の意味・わかりやすい解説

選挙干渉 (せんきょかんしょう)

国や地方公共団体が政治的反対者の選挙運動に対して組織的に妨害行為を行い,選挙の公正さをそこなうことである。選挙はすべての候補者が法律で認められた同一の条件のもとで実施されなければならない。選挙干渉は特定の政党および候補者の競争条件を合法非合法の手段によって悪化させて当選を困難にすることにより,選挙結果を政府与党に有利にしようとするものである。日本の総選挙史上では,大規模な選挙干渉がこれまで3度あった。

 1892年の第2回総選挙では,松方正義内閣の内相品川弥二郎と次官白根専一とが指揮をとり,民党候補者に対して大選挙干渉を行った。品川は地方長官に対し,政府反対の議員の選挙区では有力な対立候補を立てて応援し,政府反対の議員の当選を極力妨害することを内訓しており,警察による戸別訪問や投票勧誘,民党候補者の演説会場襲撃,民党運動員に対する傷害行為等が行われた。その結果,民党の選挙運動を防衛する壮士団と警官隊との衝突が各地で起こり,死者25名,負傷者388名を出した。選挙後,この干渉が大問題となり,品川内相の更迭知事数名の転職,免官の措置がとられた。1915年の第12回総選挙に際して,大隈重信内閣が大浦兼武内相に担当させた選挙干渉では,警官の戸別訪問,いやがらせ,投票買収,地方長官の職権濫用など旧来の選挙干渉の手段のほかに,新しい方法も行われた。すなわち,財閥の圧力や買収資金を使って反対党である政友会の候補者の立候補そのものを妨害し,逆に与党候補者には選挙資金を提供した。また,この選挙では初めて,内相,陸相,海相を除く全閣僚が遊説を行い,はなやかな選挙運動が展開された。選挙結果は与党の圧勝となったが,その直後,大浦内相は候補者の立候補辞退にからむ収賄罪で告訴され,さらに議会内での買収容疑が発覚したため,辞職引退を余儀なくされた。28年の第16回総選挙は初めての男子普通選挙として実施されたが,選挙法の改正に伴い,戸別訪問が禁止されるなど選挙運動の規制も強化されていた。田中義一首相は,検事総長,法相の経歴をもつ鈴木喜三郎内相に選挙取締りを担当させ,野党である民政党や新興の無産諸政党の選挙運動に対して干渉を行った。選挙に先だって政府は道府県知事の大更迭を行い,与党政友会系の知事を送り込み,野党候補者や運動員には刑事尾行をつけ,選挙事務所に刑事を張り込ませて妨害した。安寧秩序の維持のためとして演説会を中止させたり,ビラを押収することも頻繁に起こっている。また,投票前日,鈴木内相は声明を発表して,民政党の綱領である議会中心政治は不穏な思想であり,日本の国体に相いれないと断言した。この選挙結果は,干渉にもかかわらず,与党政友会が民政党より1議席多いだけにとどまった。

 外国における選挙干渉の例としては,大韓民国における1948,52年の総選挙,その他南ベトナムや軍事独裁国における総選挙などがある。また,19世紀後半のドイツにおける社会主義者鎮圧法Sozialistengesetzに基づく選挙干渉,アメリカ,イタリアなどにおける選挙法に基づく合法的制限の形をとった干渉などがある。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「選挙干渉」の意味・わかりやすい解説

選挙干渉
せんきょかんしょう

公権力による政治的反対派の選挙運動に対する直接的な妨害活動をいうが、広義には、選挙において国民の意思選択をあらかじめ一定の方向に誘導する間接的干渉も含む。そもそも選挙において選挙民が主体的に意思形成する前提条件として、自由で公正な選挙運動が保障されていなければならない。このことは、選挙においては政権党も反対党も対等な関係で公正に競い合うべきことを意味する。ところが歴史的には各国において政権党が自党候補の当選を有利にするため官僚・警察・軍隊などの政府権力を用いて反対党の選挙運動に対してむき出しの妨害をすることがしばしばあった。日本での大規模な選挙干渉としては1892年(明治25)の第2回総選挙における内務大臣品川弥二郎らによる民党派候補に対する大干渉(警察隊との衝突による死者25人、負傷者388人)、1915年(大正4)第12回総選挙における内務大臣大浦兼武(おおうらかねたけ)らによる選挙妨害、28年(昭和3)の第16回総選挙における内務大臣鈴木喜三郎(きさぶろう)による干渉などが有名。現代では直接的暴力的な介入は少なくなったが、政府補助金等による利益誘導、マスコミを利用しての世論誘導など、広義の選挙干渉が行われることはある。

[三橋良士明]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「選挙干渉」の意味・わかりやすい解説

選挙干渉
せんきょかんしょう

政府権力ないし政権を担当している党派が公的権力を使って,反対党派の選挙運動に直接に干渉する行為をいう。また公権力が国民の選択意思を一定の方向にあらかじめ誘導することも選挙干渉に入れられる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android