道路交通法(読み)どうろこうつうほう

精選版 日本国語大辞典 「道路交通法」の意味・読み・例文・類語

どうろこうつう‐ほう ダウロカウツウハフ【道路交通法】

〘名〙 道路における危険を防止し、道路交通の安全と円滑とを図ることを目的として定められた法律。歩行者の通行方法、車両・路面電車の交通方法、運転者・雇用者などの義務、道路の使用、自動車および原動機付自転車運転免許、罰則などについて規定する。昭和三五年(一九六〇)制定。道交法。

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デジタル大辞泉 「道路交通法」の意味・読み・例文・類語

どうろこうつう‐ほう〔ダウロカウツウハフ〕【道路交通法】

道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑とを図ることを目的として、道路交通の基本的ルールを確立するとともに、違反行為に対する罰則と、反則行為に関する処理手続きを定めている法律。昭和35年(1960)施行。道交法。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「道路交通法」の意味・わかりやすい解説

道路交通法
どうろこうつうほう

車両の運転者や歩行者が道路において守るべきルールを定めるとともに、主として交通安全のための各種の仕組みを定めた法律。昭和35年法律第105号。略称は「道交法」。所管は国家公安委員会(警察庁)。道路における危険を防止し、交通の安全と円滑を図るほか、道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的としている。

[田村正博 2021年1月21日]

沿革

戦前期には、道路取締令と自動車取締令(いずれも内務省令)が車馬の通行方法と運転手免許等について定めていた。憲法の制定を受けて命令による規制ができなくなったことから、車馬および軌道車に関する規定と罰則等を定める道路交通取締法(旧法)が1947年(昭和22)に制定された(施行は翌年)。同法は、基本的な事柄のみを規定し、道路の交通方法、運転免許等の内容は、命令にゆだねており、当初は道路交通取締令(内務省令)、1953年以降は道路交通取締法施行令(政令)が具体的な規制を定めていた。その後の急速な自動車交通の発展のなかで、対面交通化(歩行者を車馬とは逆の右側通行とする)、大型免許の導入(普通免許で運転できる範囲の限定)、旅客用自動車の運転に必要な二種免許の創設などの制度改正が旧法下で行われた。

 1960年に、道路交通取締法を廃止し、制定・施行されたのが道路交通法である。旧法には、歩行者・自動車の通行方法や自動車の運転者の義務等に関する規定が十分でなく、交通の実態に対応できていないという問題とともに、国民の権利や自由の制限の多くを命令に委任して定めているという問題があったことから、道路交通のルールを定める総合的・基本的な法律として、本法が制定されることとなった。名称から「取締」が削られている。また、旧法は交通の安全だけを目的に規定していたが、交通の円滑化も目的に加えられた。そのほか、警察官の取締り権限の整備、道路使用に関する規定の整備、歩行者保護の強化、自動車の使用者における義務規定の導入等が図られた。

[田村正博 2021年1月21日]

おもな内容

第1章「総則」では、法律の目的、定義に加えて、交通規制(道路標識によるもの、信号機によるもの、警察官の現場での指示によるもの)に関する規定が置かれている。

 第2章「歩行者の通行方法」では、通行の区分、横断の方法、横断禁止の場所、警察官による通行方法の指示等に関する規定が置かれている。なお、身体障害者用の車椅子(いす)や歩行補助車を通行させている者は、歩行者に関する規定が適用される。

 第3章「車両及び路面電車の交通方法」では、通行方法(通行区分、車両通行帯など)、速度、横断、追越し(車間距離の保持、進路変更の禁止、割り込み等の禁止を含む)、踏切の通過、交差点における通行方法、横断歩行者・自転車の保護のための通行の方法、緊急自動車、徐行および一時停止、停車および駐車、違法停車および違法駐車に対する措置、灯火および合図、乗車・積載および牽引(けんいん)(乗車または積載の制限と警察署長による制限外許可、過積載の場合の措置命令、危険防止措置など)、整備不良車両の運転の禁止等に関して、各種の規定が置かれている。なお、自転車については、軽車両としての交通方法が適用されるほか、特定の要件のもとでの歩道通行の許容、交差点における通行方法、児童幼児を乗車させる場合のヘルメット着用等に関する規定がとくに設けられている。

 第4章「運転者及び使用者の義務」では、運転者の義務(無免許・酒気帯び・過労運転等の禁止、危険防止の措置、共同危険行為の禁止、安全運転の義務、運転者の遵守事項など)、交通事故の場合の措置(運転者等の報告義務)と使用者(車両の所有者などその車の運行を支配、管理する者)の義務(運転者に安全運転や法令遵守をさせるように努めることなど)について定めている。

 第5章「道路の使用等」では、道路における禁止行為、道路使用許可、違法工作物等に対する危険防止のための警察署長の措置などに関する規定が置かれている。

 第6章「自動車及び原動機付自転車の運転免許」では、運転免許の種別、申請、免許証、試験、更新、免許の取消し・停止などに関する規定が置かれている。なお、違反や事故への点数については、本法ではなく、政令で定められている。このほか、更新時講習、高齢者講習、初心運転者講習、停止処分者講習、取消処分者講習などの講習に関して、第6章の2「講習」で定められている。

 「罰則」は第8章に定められている。刑罰の対象となる行為のうち、重大・危険でないものについての処理の手続の特例が第9章「反則行為に関する処理手続の特例」で定められている。

 そのほか、「高速自動車国道等における自動車の交通方法等の特例」(第4章の2)、「交通事故調査分析センター」(第6章の3)、「交通の安全と円滑に資するための民間の組織活動等の促進」(第6章の4)、「雑則」(第7章)に関する規定が置かれている。

[田村正博 2021年1月21日]

改正の動向

本法の制定以後、道路交通におけるさまざまな情勢に対応して、数多くの改正が行われてきている。以下に代表的なものを述べる。

 1967年の改正法によって、交通反則通告制度が導入された(施行は翌年)。大量の違反を刑事手続で処理することが困難であることから、悪質・危険性の高い違反以外は、交通反則金の納付があれば公訴を提起しないこととしたものである。

 1970年の改正法によって、法の目的に「道路の交通に起因する障害の防止に資すること」が加えられた。交通公害の防止のために交通規制を行うことを可能としたものである。

 飲酒運転に関して、制定当初はいわゆる酒酔い運転アルコールの影響により正常な運転ができないおそれのある状態での運転)のみが刑罰の対象とされ、それ以外の酒気帯び運転は刑罰対象ではなかったが、その後、車両(自転車などの軽車両を除く)の酒気帯び運転が全面的に禁止されるとともに、体内に保有するアルコールが基準値以上で運転すれば刑罰の対象となった。2001年(平成13)の改正法(施行は翌年)と2007年の改正法(同年施行)によって、刑罰が抜本的に強化され、酒酔い運転が5年以下の懲役または100万円以下の罰金、酒気帯び運転が3年以下の懲役または50万円以下の罰金とされ、飲酒運転に関連する行為(車両等提供、酒類提供、要求・依頼同乗)も刑罰の対象として規定された。なお、ひき逃げその他の悪質な違反も、同様に重罰化が図られ、ひき逃げについては、10年以下の懲役または100万円以下の罰金となっている。

 違法駐車のうち運転者が離れているもの(放置駐車)に関して、2004年に法改正が行われ(施行は2006年)、運転者への責任追及がなされない場合には、車両の使用者に対して、都道府県公安委員会が放置違反金の支払いを命ずる制度が導入された。あわせて、違反車両の取締り(放置車両の確認および標章の取付け)を民間に委託する制度が設けられている。

 自転車による事故を防止する観点から、2007年の改正法により、自転車の歩道通行要件の見直しと警察官の指示権限の整備が行われた(翌年の施行)。さらに、違反を繰り返している場合に、講習の受講を義務づける制度が2013年の改正法により、導入されている(施行は2015年)。

 ながら運転による事故を防止するため、運転中の携帯電話使用等が1999年の改正法で禁止され、2019年(令和1)の改正法で罰則が引き上げられるとともに、交通の危険を生じさせた場合は交通反則の適用されない悪質事犯とされた(施行令で免許停止の対象となっている)。

 自動運転に関して、2019年の改正法(翌年施行)により、自動車関連技術者の非営利団体であるSAE International(SAEインターナショナル)の基準でレベル3の自動運転(条件付自動運転化)を可能とするために、自動運行装置を使用する運転者の義務や作動状態記録装置による記録に関する規定が整備された。条件外となった場合にただちに適切に対処できる状態でいるなどのときに限り、携帯電話使用禁止等の規定の適用が除外されることになる。

 あおり運転(妨害運転)が社会問題となったことを受けて、2020年の改正法により、他の車両等の通行を妨害する目的で、他の車両等に交通の危険を生じさせるおそれのある方法で通行区分違反や急ブレーキ禁止違反などをすることを重く処罰する規定が設けられた(施行令で免許の取消し対象となっている)。

 高齢者による事故を防止するため、更新時の高齢者講習の受講が義務化された(1997年改正法、翌年施行)。2007年改正法(2009年施行)により、75歳以上の高齢者について、更新前に認知機能検査を行うこととなったが、検査結果が第1分類(記憶力・判断力が低くなっている)で、特定の違反行為があった者に限り、臨時適性検査(専門医の診断)を受けることとされた。2015年の改正法(2017年施行)によって、更新時の認知機能検査で第1分類となった者はそれまでの違反の有無を問わず、一律に、臨時適性検査を受けることが義務づけられた。また、一定の違反をした75歳以上の高齢者については、臨時認知機能検査が行われ、第1分類の場合は同様に臨時適性検査を受け、その他の場合も機能低下のおそれがあれば臨時高齢者講習を受けることとなった。さらに、2020年の改正法(2年以内施行)により、75歳以上で一定の違反歴のあるものは、更新に際して、運転技能検査を受けることとなった。この検査は繰り返し受検可能であるが、更新期間満了までに合格しないときは、運転免許証が更新されないことになる。

[田村正博 2021年1月21日]

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百科事典マイペディア 「道路交通法」の意味・わかりやすい解説

道路交通法【どうろこうつうほう】

道路における危険を防止し,交通の安全と円滑を図ることを目的とする法律(1960年)。歩行者の通行方法,車両路面電車の交通方法,運転者及び雇用者の義務,道路の使用,自動車原動機付自転車の運転免許,罰則などについて規定。1970年,1971年の大改正で違反者に対する罰則,歩行者の安全保護,交通の円滑化等が強化された。2004年の改正により交通事故防止対策の一層の推進と,駐車違反対応業務の民間委託による警察業務の合理化が図られることになった。2006年改正で,放置車両の確認と標章の取り付け作業を民間の駐車監視員に委託することなどを盛り込んだ,新たな違法駐車対策法制が施行された。2007年改正では,普通自動車及び大型自動車の区分を,普通自動車,中型自動車及び大型自動車に見直し。駐車禁止及び時間制限駐車区間の交通規制から除外される車両に掲出する標章の交付にかかる手帳の種別・障害の区分・級別の変更。障害者等用除外標章の車禁止規制からの除外措置の一部変更。飲酒運転に対する罰則の強化(飲酒運転に対する罰則引上げ(最高で懲役3年,罰金50万から懲役5年,罰金100万))など。また飲酒運転に関わる車両の提供,酒類の提供,同乗行為の禁止・罰則を新設。救護義務違反(ひき逃げ)に対する罰則の強化(最高で懲役5年,罰金50万から懲役10年,罰金100万)。違反,事故などを起こしたときの警察官への運転免許証提示の義務化。外国運転免許制度の適用拡大(イタリア,ベルギー,台湾を追加)。2008年改正では,後部座席のシートベルト着用義務化。高齢運転者標識(もみじマーク)の表示義務化。聴覚障害者標識(蝶マーク,蝶々マーク)の導入。自転車歩道通行の要件を明確化。自転車乗車用ヘルメット着用努力義務の導入。2009年改正では高齢運転者標識(もみじマーク)の表示義務化が罰則のない努力義務に戻された。高齢者と障害者,妊婦専用の駐車区間を設けることができるようになった。高速・自動車専用道でのあおり行為(車間距離保持義務違反)の罰則を5万円以下の罰金から3月以下の懲役か5万円以下の罰金に強化した。2010年改正では高齢運転者(障害者・妊婦も含む)等の専用駐車区間制度の導入。2011年改正では自転車道・歩道で自転車を一方通行とする規制標識の新設。2012年改正では運転免許に関する手数料の標準の改正,運転経歴証明書に関する規定改正。2013年改正では悪質・危険運転者への対策(無免許運転,無免許運転の下命・容認者および偽りその他不正の手段により免許証等の交付を受けた者に対する罰則を,改正前1年以下の懲役又は30万円以下の罰金から改正後3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に引上げ,無免許運転幇助行為に対する罰則の新設。無免許運転を行うおそれがある者に対し自動車等を提供すると3年以下の懲役又は50万円以下の罰金。自動車等の運転者が免許を受けていないことを知りながら,その運転者に自動車等を運転して自己を運送することを要求・依頼して同乗すると2年以下の懲役又は30万円以下の罰金。無免許運転の反則基礎点数は25点に引上げ)が強化された。
→関連項目運転免許交通違反交通事件即決裁判道路標識

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改訂新版 世界大百科事典 「道路交通法」の意味・わかりやすい解説

道路交通法 (どうろこうつうほう)

道路交通の取締りはかつては道路交通取締法(1947公布)によって行われていたが,道路交通事情の急激な悪化を前にして,同法に代わる新しい道路交通の基本法として本法(1960公布)が制定された。旧法と比較して歩行者保護の強化,道路における危険防止措置の強化,雇用者の責任の強化,運転免許制度の整備がなされた点に特色がある。制定当初は〈道路交通の安全と円滑〉のみが目的とされていたが,1970年の改正によって,公害防止の観点から新たに〈道路交通に起因する障害の防止〉という目的が付け加えられた(1条)。本法の内容は,歩行者および車両の交通方法,運転者およびその使用者の義務,道路における交通妨害行為の禁止,危険防止のための措置,運転免許制度など多岐にわたっている。また,違反行為に対しては詳細な罰則規定を置いているが,比較的軽微で定型的な違反行為については,反則金を納付すれば起訴しないとする交通反則通告制度がとられている(〈交通違反〉の項参照)。本法に基づく規制の結果,交通事故による死者の数は1970年をピークに年々減少してきたが,その後ふたたび増加傾向を示しており,モータリゼーションの進行の中で,交通事故災害,道路騒音など道路交通をめぐる問題は,依然として大きな社会問題の一つをなしている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「道路交通法」の意味・わかりやすい解説

道路交通法
どうろこうつうほう

昭和35年法律105号。自動車交通の急激な進展に対処して,道路における危険の防止,交通の安全と円滑,道路交通による障害の防止を目的とする法律。道路交通取締法に代わって制定されたもので,歩行者の通行方法,車両および路面電車の交通方法,運転者および雇用者などの義務,道路の使用,自動車および原動機付自転車の運転免許,講習,反則金制度などについて定めている。しばしば改正が行なわれ,1978年には飲酒運転の取り締まりの強化,集団的暴走行為の取り締まり,1990年には違法駐車規制の強化などが行なわれた。2001年6月の改正ではひき逃げの罰則を懲役 5年以下または罰金 50万円以下に引き上げるなど,悪質な違反者に対する罰則が強化された。これにあわせ同 2001年12月の刑法改正で「危険運転致死傷罪」が新設された。2022年4月交付の「道路交通法の一部を改正する法律」では,すべての自転車利用者の乗車用ヘルメット着用が努力義務化され,2023年4月から施行された。

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損害保険用語集 「道路交通法」の解説

道路交通法

「道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする」(第1条より抜粋)法律をいいます。

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世界大百科事典(旧版)内の道路交通法の言及

【道路】より

…この区別は,道路の設置・管理の法的権原に着目したものであり,住民による利用については同様の法的規律を受けることが多い。例えば,道路交通法は一般の用に供されている道路の利用に関して,公道と私道との区別なく適用される。公行政主体による道路の設置・管理に関する法律には,その一般法として道路法がある。…

※「道路交通法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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