道行物(読み)みちゆきもの

精選版 日本国語大辞典 「道行物」の意味・読み・例文・類語

みちゆき‐もの【道行物】

〘名〙 浄瑠璃歌舞伎で、道行題材としたもの。操浄瑠璃の道行物は、時代物が古く、近松の「曾根崎心中以後世話物盛行。歌舞伎では、所作事として諸流音楽が用いられた。「道行旅路の花聟」「道行思案余」の類。

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改訂新版 世界大百科事典 「道行物」の意味・わかりやすい解説

道行物 (みちゆきもの)

歌舞伎舞踊の一系統。道行を題材とした所作事。〈道行事〉とも〈景事(けいごと)〉ともいう。一段あるいは一場を通じての道行で,独立性を有し,ある仮定の地に達する間を扱う舞踊劇を指す。ほぼ元禄期(1688-1704)に確立し,その後天保・弘化期(1830-48)まで発展を遂げた。伴奏としては土佐節,半太夫節,一中節,義太夫節常磐津節,富本節清元節,新内節,薗八節,長唄などを使う。男女が心中のために目的地へ着くまでの哀艶な情緒を中心とするのが普通であるが,他の目的での1人の道行,親子,主従または3人以上のもあり,時代物,世話物にも分けられ,さらに《椀久(わんきゆう)》《保名(やすな)》《隅田川》のような〈狂乱物〉も道行物の一種といえる。道行物の流行は寛保(1741-44)ごろ,初春狂言の大切(おおぎり)に道行浄瑠璃が設けられるに至ってからで,享和(1801-04)以後,物売りや芸人などを挿入して,心中の道行をする2人に意見して去るという趣向が生まれた。これは江戸市井風俗の描写として歓迎され,代表曲に《お染》《お半》などがある。また人形浄瑠璃を移入するとき,必ず1場は出てくる道行景事の場面を,江戸では豊後系浄瑠璃や長唄に改め,江戸舞踊化したのも流行の一因といえる。清元の《落人》(お軽・勘平)をはじめ,常磐津の《忠臣蔵》八段目〈道行旅路の嫁入〉,富本(清元)の《忠信》(《千本桜》の〈吉野山〉),常磐津の《お三輪》(《妹背山》の〈道行恋のをだまき〉),長唄の《与作》などが有名である。
景事 →道行
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「道行物」の意味・わかりやすい解説

道行物
みちゆきもの

歌舞伎舞踊のうち,道行を扱ったものをいう。多くは,心中におもむく男女の心情を,目的地への途上の景色を織込んで表現したもので,親子,主従,1人もしくは3人以上の場合もある。元禄年間 (1688~1704) には人形浄瑠璃として確立するが,享保8 (1723) 年の心中物禁止令により,道中景色に比重が移った。寛保年間 (41~44) 頃には,江戸歌舞伎の初春狂言の大切 (おおぎり) には必ず道行浄瑠璃が添えられるようになった。寛政年間 (89~1801) 以後の作には,物売りや旅芸人を登場させ,心中しようとする男女に意見する趣向が加わっているものが目立つ。『幾菊蝶初音道行 (いつもきくちょうはつねのみちゆき) 』 (吉野山) ,『道行旅路の花聟 (はなむこ) 』 (落人) ,『色彩間苅豆 (いろもようちょっとかりまめ) 』 (累〈かさね〉) ,『蝶の道行』など (→景事〈けいごと〉) 。

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