道徳性(読み)ドウトクセイ(英語表記)morality

翻訳|morality

デジタル大辞泉 「道徳性」の意味・読み・例文・類語

どうとく‐せい〔ダウトク‐〕【道徳性】

道徳本性。また、人格・判断・行為などが道徳的であること。「企業の道徳性が問われる」
《〈ドイツMoralitätカント倫理学の用語。行為が、単に外面的に道徳法則に一致しているという適法性区別して、道徳法則に対する尊敬動機としていること。ヘーゲルでは、人倫と区別して主観的意志の法をさす。

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精選版 日本国語大辞典 「道徳性」の意味・読み・例文・類語

どうとく‐せい ダウトク‥【道徳性】

〘名〙
① 道徳的な性格。善悪見地から見た人格、判断、行為などについての価値。
万葉集における自然主義(1933)〈長谷川如是閑〉四「万葉集の歌の道徳性といふ問題については」
② (Moralität の訳語) カント倫理学で、道徳法則にかなっているとか、義務に一致しているという適法性に対して、道徳法則を尊ぶところから法則を守ったり、義務だというところから行為したりすること。ヘーゲルでは、人倫と区別して、主観的な道徳意識、良心、純粋義務をさす。→適法性②。

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最新 心理学事典 「道徳性」の解説

どうとくせい
道徳性
morality

道徳的な行動とは人としてより善く生きようとする行為であり,そのような行為を生み出す社会的能力を道徳性とよぶ。「より善く生きる」とは,所属集団内の社会的規範を尊重するだけでなく,文化や集団を超えた普遍的な価値について考え,正義や公正さの観点から複雑な社会問題を解決しようとする態度,思いやりや配慮など対人関係を重視し,立場の異なる者同士が互いに尊重し合う関係を作り出そうとする態度まで含んでいる。「社会的能力」として,ナルバエスNarvaez,D.は次の四つを指摘した。すなわち,⑴感受性 道徳的な問題に気づくことであり,他者の感情を予期し,他者の心情を推し量ること。⑵判断 問題となる状況を把握し,行為の善悪を判断したり,行為を意思決定したりすること。⑶焦点づけ どのような要求よりも,道徳的な価値を優先させようとする指向性。⑷実践力 道徳的に価値ある行動を実行するスキル,対人葛藤解決能力,困難に立ち向かう勇気と忍耐力,問題を率先して解決しようとする積極性といった能力や性格特性。

 ⑴感受性に関する代表的な能力は共感性empathyである。ホフマンHoffman,M.L.は,視点取得の発達に伴い,共感的苦痛が罪悪感に変換される過程をモデル化した。その中で,共感に始まる道徳的感情を共感的道徳性とよんだ。また,ハイトHaidt,J.は道徳的判断に先行する直感に着目した。彼は判断が,俊敏で自動的な直感の結果であるとみなす。⑵判断では,社会的規範や道徳的価値の内在化が焦点となる。ピアジェPiaget,J.とコールバーグKohlberg,L.に代表される認知的構成主義の見地によると,道徳性は社会的世界を解釈し,善悪判断を行ない,自分の行為を決定する際の思考の枠組みであり,不変的で非可逆的な発達段階を経て生じる。コールバーグは3水準6段階から成る発達段階を設定した。その際,彼は複数の道徳的価値が葛藤する道徳的ジレンマを作成し,そこでの意思決定についての質疑応答から,回答者の判断基準を分析した。この手法を道徳教育に応用したものがモラルジレンマ授業moral dilemma methodであり,今では役割取得の機会を提供する討論を用いた主要な指導法になっている。また,チュリエルTuriel,E.は社会的文脈や関係性の中で道徳性が構成されるという社会的構成主義の見解も取り入れた社会的領域理論social domain theoryを提唱した。発達初期から,社会的相互作用の違いに対応した道徳,慣習,個人という三つの思考領域が発達することが実証されている。⑶焦点づけ,すなわち道徳性は「生き方」という自己の存在の問題でもある。ギリガンGilligan,C.は,道徳的な生き方を道徳的指向性とよび,二つの指向性(「公正さの道徳」と「配慮と責任の道徳」)の区別,およびそれらの発達過程をジェンダーの観点から明らかにした。⑷実践力として判断と行動を一致させる能力が重視されてきた。バンデューラBandura,A.はこれを自己調整self-regulation機能から説明し実証した。彼によると,人は自己の行動をモニターし,行動結果を予期する。その結果生じた満足感や自尊感情,あるいは自責の念や失望感といった自己反応が動機づけ要因として機能し,行動の生起や抑制を調整する。また,ミッシェルMischel,W.は満足の遅延delay of gratificationとよばれる実験を行ない,短期的な満足を遅延し,長期的なより多くの満足を選ぶ幼児は,青年期になった時点で,学習意欲が高く,対人関係能力も優れていることを明らかにした。

 以上の四つの要素は,互いに関係し,道徳的な行動を促すだけでなく,人格や道徳的品性の発達の基盤になっている。 →価値
〔首藤 敏元〕

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