過料(読み)かりょう

精選版 日本国語大辞典 「過料」の意味・読み・例文・類語

か‐りょう クヮレウ【過料】

〘名〙
① 中世、過失、怠慢などの軽い罪に対してこれを償うために出す金銭。罰金。科料。
東大寺文書‐天喜四年(1056)七月二三日・東大寺政所下文案「随則令交易他花、相副草料紙送国衙、而退可過料之由、庁目代石見前司示送也」
江戸時代刑罰の一種。銭貨を納めて罪科をつぐなわせたもの。軽過料、重過料、応分過料、村過料などの種別があった。〔禁令考‐別巻・棠蔭秘鑑・亨一〇三(1718)〕
③ 刑罰としての性質をもたない金銭罰の総称。法律、秩序を維持するため、法令を守らなかった者に制裁として科せられる秩序罰、行政上の義務を履行させる手段としての執行罰、裁判官や公証人などに対する懲戒処分としての懲戒罰の性質をもつものなど。
※万国新話(1868)〈柳河春三編〉一「西洋諸国にて飛脚の事は、〈略〉私に取扱ふことは厳禁にて、若し之を犯す時は過料を取上る法なり」

あやまち‐りょう ‥レウ【過料】

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デジタル大辞泉 「過料」の意味・読み・例文・類語

か‐りょう〔クワレウ〕【過料】

国または地方公共団体が、行政上の軽い禁令を犯した者に科する金銭罰。刑罰としての罰金科料と区別される。あやまちりょう。
中世、過失などの軽い罪を償うために科した金銭。
江戸時代、本刑に代えて科した金銭。

あやまち‐りょう〔‐レウ〕【過料】

過料1」を、同音の「科料」と区別するためにいう語。

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改訂新版 世界大百科事典 「過料」の意味・わかりやすい解説

過料 (かりょう)

江戸時代の刑罰のうちの一種で,比較的軽い犯罪に対して科された財産刑。中世に淵源をもち,幕府法,諸藩法にみられ,また村法,仲間法などの民衆法にも制裁として存在した。幕府刑法においては,1718年(享保3)以降体系化が進み,過料(3貫文または5貫文),重き過料(10貫文),身上(しんしよう)に応じ過料(財産にしたがって納付額が定められる),小間(こま)に応じ過料(家並みに課し,間口に応じて割り付ける),村高に応じ過料(村に対し,石高に応じて課する)などに整理された。いずれも庶民に対する刑罰として,賭博罪,隠売女(かくしばいじよ)をはじめ各種の犯罪に広く適用され,また過料のうえ戸〆(とじめ)など二重しおきとされることも多い。3日間の納期限を過ぎると手鎖(てじよう)で代えられ,逆に手鎖刑も過料で代替しえた。1870年(明治3)の新律綱領は律令の贖罪制度を採用したが,西洋法の継受によって,今日では刑罰としての罰金および科料と,秩序罰,執行罰または懲戒罰としての過料とが分離している。
過怠(かたい)
執筆者:

現行法上,過料と称されるものはつぎの3種類に区別され,それぞれ性質を異にする。(1)秩序罰としての過料 民事法上,訴訟法上,行政法上の義務違反について制裁として科される金銭罰であり,罰金・科料のような刑罰や,道路交通法で定める反則金と区別される(民法84条,商法22条,住民基本台帳法44条等)。例外はあるが,刑罰を科すには及ばない程度の単純な義務懈怠(けたい)(たとえば届出義務を怠るなど)に対して科される場合が多い。金額の法定最高限はさまざまである。これらの過料は,他の法令に特別な規定がある場合を除いて,非訟事件手続法206条以下に定めるところにしたがって,裁判所によって科せられる。地方公共団体が科する過料(地方自治法15条2項等)は,地方公共団体の長が科し(149条3号),過料の処分に不服のある者には,不服申立てや行政訴訟が認められる。(2)懲戒罰としての過料 一定の職業にある者が職務上の義務に違反した場合に,制裁として科せられる金銭罰(裁判官分限法2条,公証人法80条等)。(3)執行罰としての過料 行政上の義務の履行を怠っている者に対して,行政庁がその義務の履行を促すために科する金銭罰。行政上の強制執行の一手段である。現在は,砂防法36条にその唯一の例をみる。義務の履行期限を示してその期限までに履行しないときは過料を科する旨を予告する。義務が履行されるまで反復して科することができる。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「過料」の意味・わかりやすい解説

過料
かりょう

国または公共団体が国民に対して科する金銭罰で、刑法上の刑罰以外のもの。刑罰の一種である科料と区別するため、科料を「とがりょう」とよび、過料を「あやまちりょう」とよぶことがある。過料は刑罰ではないから、刑法総則の適用はなく、これに関する一般原則の定めもない。公訴時効や刑の時効に相当するものもない。このように過料は刑罰と性質を異にするものの、いかなる場合に刑罰を科すか、過料を科すかについて法律の規定はかならずしも統一的ではないといわれる。しかも、過料の規定はきわめて多く、その性質は多様であるが、一般に次の3種類に分けられる。

(1)懲戒罰としての過料 一定の職業ないし身分にある者が職務上の義務に違反した場合に科せられる。公証人法第80条以下、裁判官分限法第2条に例がある。監督官庁がこれを科する。

(2)執行罰としての過料 行政上の強制手段の一つで、一定の期間内に行政上の義務の履行がない場合に一定の過料に処すべき旨を予告し、それによって心理上の圧迫を加え、もって義務者に自らその義務を履行させることを目的とする。第二次世界大戦前は行政執行法により一般的に認められていたが、戦後は砂防法第36条に条文の整理漏れの形で残っているだけで、用いられたことはないといわれる。ただ、労働委員会の命令に従うべき旨の裁判所の命令に違反した者に対し、履行するまで1日10万円ずつ増えていく過料を科すとの規定(労働組合法32条)は一種の執行罰である。また、建築基準法違反の間接強制方法として導入せよとの提言があるが、採用されていない。

(3)秩序罰としての過料 法律秩序を維持するために法令に違反した者に制裁として科せられる。次のように広く各分野にみられる。

 私法秩序を維持するための命令・禁止に違反した者に制裁として科せられるもの。民法、商法、会社法、戸籍法など広く散在する。

 訴訟手続に関する命令または禁止に違反したことに対する制裁として科する。民事訴訟法刑事訴訟法、民事調停法、法廷等の秩序維持に関する法律、家事事件手続法などに規定がある。

 さらに地方公共団体は条例違反、長の制定する規則違反には過料の規定を置くことができる(地方自治法14条3項、15条2項)。

 過料を科す手続は特則がない限り非訟事件手続法による。地方公共団体の条例・規則で定める過料については地方公共団体の長が、弁明手続を経て(地方自治法255条の3)科し、納付しない者からは地方税の滞納処分の例により徴収することができる(同法231条の3)。

[阿部泰隆]

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知恵蔵mini 「過料」の解説

過料

国や地方公共団体などが少額の金銭を徴収するという罰則。行政上の義務の違反者に対し行う少額の金銭を徴収する制裁であり、刑罰である罰金などの制裁とは異なり前科にはならない。過料は「秩序罰」「執行罰」「懲戒罰」の3種に分類することができる。「秩序罰」の例としては自治体の迷惑防止条例違反がこれにあたり、「懲戒罰」の例としては判員制度での裁判員の出頭義務違反が該当、「執行罰」の例は砂防法台36条で規定されている砂防設備設置義務違反がこれにあたる。2021年2月、新型コロナウイルス対策の実効性を高めることを目的とした特別措置法およびその関連法が成立したが、これら法律で緊急事態宣言が発出されていなくても感染拡大防止策を講じることが可能な「まん延防止等重点措置」が新設された。同法律により、正当な理由がなく飲食店が営業時間変更などに応じない場合や、感染者が入院を拒否したり、入院先から逃げたりした場合に「過料」の罰則が適用され、この言葉がにわかに脚光を浴びた。

(2021-2-12)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「過料」の意味・わかりやすい解説

過料
かりょう

(1) 鎌倉時代の刑罰の一つで,過怠の別称。また江戸時代,庶人に科せられた刑罰の一つで,罪科を銭貨で償わせるもの。 (2) 現行金銭罰の一種であるが,刑罰たる罰金および科料と区別され,行政上の秩序罰としての過料 (土地収用法など) および民事上ないしは訴訟法上の秩序罰たる過料 (民法,民事訴訟法など) ,懲戒罰としての過料 (公証人法) ,執行罰としての過料 (砂防法) の3種がある。過料は刑罰ではないので,刑法総則および刑事訴訟法は適用されない。

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百科事典マイペディア 「過料」の意味・わかりやすい解説

過料【かりょう】

おもに行政上の義務強制や制裁のために違反者に対して科せられる金銭罰。行政上の間接強制手段であって,犯罪に対する刑罰としての科料罰金とは異なり,刑法総則の適用はなく,その科罰手続については刑事訴訟法の適用もない。非訟事件手続法(1898年)中に一般的な手続規定がある。
→関連項目南山御蔵入騒動

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「過料」の解説

過料
かりょう

財産刑の一種。鎌倉幕府の法制での財産刑としては,重科に対する所領没収が主要なものだったが,おもに比較的軽い罪である過怠(かたい)に対する刑としては,過料・過怠銭・過代などと称して銭貨を徴したり,篝屋用途(かがりやようと)や寺社・道路・橋梁などの修造役を課すことが行われた。幕府による課刑のほか,地頭が領内の住人の罪科に過料を科すこともあった。近世では,一般的な罰金刑として広く用いられた。

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世界大百科事典(旧版)内の過料の言及

【過怠】より

…1232年(貞永1)の《御成敗式目》では,謀書に関する罪科(15条)などに寺社の修理を課し,1235年(文暦2)には京都大番役を怠った西国御家人に清水寺橋修理を命じている。侍に対し所領没収より軽い罪に過怠を科したが,侍以外にも行われるようになり,銭貨を称すときは過料,過銭と称する。江戸幕府法になると過料が,特に《公事方御定書》以降広く行われるようになり,御定書では隠し鉄砲の村方惣百姓が過怠として御留場の鳥番を命じられたのが過怠の唯一の例となる。…

【行政罰】より

…行政法規やそれに基づく行政行為によって課せられた義務の違反に対して,制裁として科せられる罰を行政罰といい,行政罰を科せられるべき義務違反を行政犯という。行政罰のうち,刑法に刑名のあるもの(懲役,罰金,科料等)を行政刑罰といい,過料という名称のものを行政上の秩序罰という。行政罰のうち,警察上の義務違反に対して科せられるものを警察罰,経済統制上の義務違反に対して科せられるものを統制罰,財政上の義務違反に対して科せられるものを財政罰という。…

【盗み】より

…以上のような厳刑主義は,必ずしも人心に適合しなくなり,あるいは被害届に金額9両3分2朱と書き,あるいは〈忍入りの盗〉を〈戸明きの盗〉〈手元の盗〉として扱うなど,事実を曲げて刑を減軽化する傾向が見られた。なお江戸時代の村法には,盗犯に対して村が過料を科す等の処罰を行うことを定めたものがあり,軽微な盗犯は村内で処理されることもまれではなかった。【林 由紀子】。…

※「過料」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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