過失相殺(読み)かしつそうさい(英語表記)comparative negligence

精選版 日本国語大辞典 「過失相殺」の意味・読み・例文・類語

かしつ‐そうさい クヮシツサウサイ【過失相殺】

〘名〙 債務不履行不法行為があった場合、債権者被害者の方にも過失があるときは、裁判所がその事情を斟酌(しんしゃく)して、損害賠償責任有無や賠償金額を定めること。

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デジタル大辞泉 「過失相殺」の意味・読み・例文・類語

かしつ‐そうさい〔クワシツサウサイ〕【過失相殺】

債務不履行または不法行為によって損害賠償責任が発生したとき、損害を受けた者(債権者・被害者)の側にも過失があった場合、裁判所が損害賠償の金額を定める際に、この過失を考慮して減額すること。

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改訂新版 世界大百科事典 「過失相殺」の意味・わかりやすい解説

過失相殺 (かしつそうさい)
comparative negligence

損害賠償の額を定めるにあたり,加害者に全面的に負担させるのではなく,被害者にも過失があればこれを斟酌して損害の公平な分担を図る制度をいう。不法行為だけでなく債務不履行にも適用されるが,交通事故のように事故の態様が定型化できる場合にはそれに対応した標準的な過失相殺率により事故処理がなされ,実務上も重要な役割を担う制度である。

 過失相殺では,公平の理念にもとづいて賠償額が減額されるわけであるから,被害者の過失も,加害者としての過失と較べて,注意義務違反の程度が軽いものでもよく,また,責任能力が具わっている必要はない(事理を弁識するに足る知能,〈事理弁識能力〉で足りる)。このように同じ過失といっても,ここで問題とされる過失は過失相殺の制度趣旨にもとづいて付与された特別の意味合いをもつ〈過失〉であるが,これによっても幼児のように事理弁識能力も具わっていないときは,過失相殺を行うことはできない。過失相殺の指導理念である公平ということの内実が問われてくるのはこのような局面からであり,それにたいする解答として提示されたものが,被害者〈側〉の過失という法文からは離れる解釈操作である。被害者自身については〈過失〉を問うことができないとしても,被害者本人と身分上,生活関係上,一体をなすとみられるような関係にある者の過失があればこれを斟酌することができるとされるのは,損害賠償額の公平な調整を目ざすのであればこれも過失相殺の許容範囲内にあると考えてよいからである。

 判例はさらに,被害者の素因特異体質既往症など)のように,そもそも過失という範疇ではとらえることのできない被害者側の事情についても,過失相殺の類推という手法で一定の場合にこれを斟酌することができる,との考え方を明らかにした。他人との緊密な接触がますます必要とされる今の社会では,損害の発生,拡大(たとえば,治療が遅れたために後遺症が残ったこと)に被害者もかかわりがあった,という事態が増大することは容易に想定することができる。それだけに損害賠償額の調整は,この問題を抜きにしては損害賠償法について語りえないほど重要になっているのであるが,民法が明文で用意している制度としては,過失相殺しかない。過失相殺の類推というのは,過失相殺という法定の制度が同種の利益状況に借用される場合である。条文にもとづく形で処理することが説得力をますという実務的感覚から産み出される手法であるが,このような借用の許容範囲を画するものは,不可避的に生ずる損害のリスク配分はどのように行うべきか,という損害賠償法の理念にかかわる問題であるといって過言ではない。
債務不履行 →損害賠償 →不法行為
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「過失相殺」の意味・わかりやすい解説

過失相殺
かしつそうさい

債務不履行や不法行為において、債権者あるいは被害者にも過失がある場合に、これを考慮に入れて賠償責任あるいは賠償額を定める制度をいう。この過失相殺は、公平の観念から認められたものである。

 過失相殺における過失については、注意義務を前提としない、単なる不注意でよいとするのが有力説の見解である。過失相殺の効果については、債務不履行と不法行為では異なる(民法418条・722条)。

 債務不履行では、金額を減ずることができるだけでなく、賠償責任を否定する(賠償責任なしとする)こともでき、また債権者の過失はつねに考慮しなければならない(民法418条)のに対し、不法行為の場合には、賠償責任を否定することはできず、また過失を考慮することができるにとどまる(民法722条2項)。しかし、学説のなかには、両者を同じように解しようとするものもある。

[淡路剛久]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「過失相殺」の意味・わかりやすい解説

過失相殺
かしつそうさい

債務不履行または不法行為に基づく損害賠償を請求する際に,請求者の側にも過失があったときに裁判所がその過失を考慮して賠償額を減額すること (民法 418,722条2項) 。さらに債務不履行の場合は賠償額の減額だけでなく,損害賠償責任そのものについても考慮されるが,不法行為の場合はその点は考慮されない。

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保険基礎用語集 「過失相殺」の解説

過失相殺

損害の発生、拡大について被害者側にも過失がある場合に、当事者間における損害額の公平負担の見地から、損害賠償額を決定する際に被害者側の過失の程度に応じ、過失割合相当額が損害額から控除されることです。(民法第722条2項)。

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損害保険用語集 「過失相殺」の解説

過失相殺

損害賠償額を算出する場合に、被害者にも過失がある場合、社会通念上公平の見地から、被害者の過失部分を加害者の負担すべき損害賠償額から差し引くこと(過失相殺)をいいます。(民法722条第2項)。

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