遍路(読み)へんろ

精選版 日本国語大辞典 「遍路」の意味・読み・例文・類語

へん‐ろ【遍路】

〘名〙 祈願のため、四国弘法大師霊場八十八か所などを巡り歩くこと。また、その人。巡礼。《季・春》
※雑俳・住吉おどり(1696)「のせられて・遍路わたしの銭いらず」

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デジタル大辞泉 「遍路」の意味・読み・例文・類語

へん‐ろ【遍路】

祈願のために、四国の弘法大師の霊場八十八箇所などを巡り歩くこと。また、その人。「お―さん 春》「道のべに阿波の―の墓あはれ/虚子
[類語]雲水旅僧行脚僧虚無僧山伏雲衲うんのう普化僧薦僧こもそう行者修験者梵論ぼろ

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改訂新版 世界大百科事典 「遍路」の意味・わかりやすい解説

遍路 (へんろ)

日本の巡礼一つで,とくに四国地方を一巡する四国八十八ヵ所霊場巡拝をさす。今日ではふつう〈遍路〉と書かれるが,この文字が使われるのはおもに明治時代に入ってからで,江戸時代以前はもっぱら〈辺路〉〈辺路〉と記され,ごくまれに〈徧礼〉と書かれることもあった。鎌倉時代の弘安年間(1278-88)のものと思われる醍醐寺文書の一通にはすでに,修験者たちの修行の方法として山林抖擻(とそう)(山野をめぐり歩くこと)や山ごもり,西国巡礼とならんで〈四国辺路〉があげられている。さらに平安時代にまでさかのぼると,四国の霊場をあらわすことばは〈四国の辺地〉であった。《梁塵秘抄》には,〈我等が修行せしやうは,忍辱(にんにく)袈裟をば肩に掛け,又笈を負ひ,衣はいつとなくしほたれて,四国の辺地(へち)をぞ常に踏む〉と歌われていて,このころ一群の宗教者たちが,都を遠くはなれた辺境の地,つまり〈辺地〉を修行の場としていたことがわかる。また《今昔物語集》では,〈四国の辺地〉とは伊予讃岐,阿波,土佐海辺を巡る道だとされている。この辺地ということばは,今日四国地方で四国巡拝者をさすもう一つの呼び名,〈ヘンド辺土)〉とも相通じると思われる。つまり,かつて四国の辺地,辺土で修行した行者たちの間に弘法大師(空海)の聖蹟を巡るという意識が高まるにつれ,やがて辺地を巡る道,すなわち〈辺路〉ということばが生み出され,定着してきたのであろう。
四国八十八ヵ所
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「遍路」の意味・わかりやすい解説

遍路
へんろ

日本の各種の巡礼のなかで、四国八十八か所霊場を巡る巡礼をとくに遍路といい、その巡礼者そのものも遍路(お遍路さん)という。この文字は中世末から江戸時代初めに用いられ始めたもので、それ以前は「辺路」と書かれ、『今昔(こんじゃく)物語集』(12世紀前半)や『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』(12世紀後半)では「へじ」と読まれた。これが海辺の路(みち)をさしたことは『今昔物語集』(巻31第14話)で明らかであるが、それには「四国辺地」と書かれている。このような「海辺ノ廻(めぐり)」の修行が四国の弘法大師(こうぼうだいし)信仰と結合して、弘法大師空海の旧跡を巡る巡礼になったのが遍路である。

[五来 重]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「遍路」の意味・わかりやすい解説

遍路
へんろ

一定の順路に従い仏寺などの霊場を参詣して回ること。弘法大師の修行の跡とされる四国八十八ヵ所の巡礼,西国三十三所の観音を回る西国巡礼などが特に知られる。起源は中国仏教の影響によるものと考えられ,平安時代の中葉に起った頭陀行 (ずだぎょう) にその初めの形を求めることができる。巡礼者は,菅笠をかぶり,笈摺 (おいずる) を背負い金剛杖と鈴を手にして霊場を回り,納経したり巡礼札を霊場の天井や柱に貼ったり,宝印,納経印をその白衣に押してもらう。巡礼の途中,1日に少くとも1度か2度は沿道の家に報謝を求めるのがならわしである。後世になって,浄土宗の二十五ヵ寺詣で,浄土真宗の二十四峰巡拝,日蓮宗の二十一ヵ寺詣でなど,宗派ごとに霊場の組織が次々に考え出され,遍路の流行は一層著しくなったが,これとともに信仰的要素とは別に,遊楽的要素を生じることになった。

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百科事典マイペディア 「遍路」の意味・わかりやすい解説

遍路【へんろ】

四国八十八ヵ所の霊場札所を巡礼すること,または巡礼者をいう。草鞋(わらじ)ばきで,手甲(てっこう),脚絆(きゃはん)をつけ菅笠(すげがさ)をかぶり,首からさんや袋をかけ,手に数珠(じゅず)と鈴(れい)をもち,金剛杖をつく。平安末期に始まり,中世後期以来盛んになった。→巡礼

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世界大百科事典(旧版)内の遍路の言及

【四国八十八ヵ所】より

…四国の島内に散在する,弘法大師(空海)ゆかりの霊場88ヵ所を,順を追って参詣する巡礼コースで,四国八十八ヵ所弘法大師霊場とも称する。一般にはこれを〈遍路〉〈お四国〉などと呼んで,観音霊場の巡礼と区別している。遍路が霊場に参詣すると,そのしるしに〈南無遍照金剛〉と弘法大師の宝号を記した札を納めることから,八十八ヵ所の寺々を札所(ふだしよ)ともいう。…

【接待宿】より

…それも単に来世への願いだけでなく,家族の年忌供養とか病気平癒の願いとか,ときには千人宿などの願をたててするなどさまざまな意味あいがこめられていたため,かつてこの風習は非常にさかんであった。ことに四国霊場を巡拝する遍路(へんろ)などは托鉢と接待宿だけで四国を一巡できるほどだったという。宿を恵まれた場合は必ずその家の仏壇に供養し,出立のときは納札を1枚置いていくのがならわしであった。…

※「遍路」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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