日本大百科全書(ニッポニカ) 「進歩主義教育」の意味・わかりやすい解説
進歩主義教育
しんぽしゅぎきょういく
progressive education
19世紀末に端を発し、1910年代から30年代にかけて最盛期を迎え、50年代なかばに消滅したアメリカにおける新教育運動の理論と実践に対する総称。教育を「社会の進歩と改革の基本的手段」ととらえ、旧教育の教師中心主義、教科万能主義に対し、児童の自由・活動・興味・自発性を尊重する児童中心主義の立場にたち、具体的な生活経験を通しての学習を強調する点に特徴がある。
一般にパーカーFrancis Wayland Parker(1837―1902)が進歩主義教育の父といわれ、1896年シカゴ大学に実験学校を開設したデューイがプラグマティズムに基づく進歩主義教育理論を確立した。1919年「進歩主義教育協会」Progressive Education Associationが結成され、進歩主義教育の普及・発展に貢献した。しかし協会の活動は、児童の個性や興味、自己表現を強調するあまり、社会や文化に対する顧慮に欠け、30年代に入ると、この行きすぎた児童中心主義に対し、カウンツGeorge Sylvester Counts(1899―1974)らの内部批判や本質主義、永遠主義からの非難・攻撃を浴び、学校と地域社会との関連を重視する社会中心主義への方向転換を迫られた。しかし、40年代以降の保守化傾向のなかで進歩主義教育運動が衰退し、55年、協会はついに解散に追い込まれた。
日本においては、とくに第二次世界大戦後、進歩主義教育運動が活発に展開されたが、1950年代後半以降、アメリカと同じ運命をたどった。しかし近年、その再評価の動きが現れている。狭い形式主義と児童不在に陥っていた伝統的教育に敢然と挑戦し、児童の自発的活動に立脚した教育観を、広く世界の教育界に定着させた進歩主義教育の功績は大きい。
[山崎高哉]
『デューイ著、大浦猛編、佐藤三郎他訳『実験学校の理論』(1977・明治図書出版)』▽『カウンツ著、中谷彪他訳『地域社会と教育』(1981・明治図書出版)』