(読み)さかう

精選版 日本国語大辞典 「逆」の意味・読み・例文・類語

さか・う さかふ【逆】

[1] 〘自ハ四〙
① 相手に背を向ける。そむく。さからう。
※大日経義釈延久承保点(1074)一三「所行の事に著せるを以て、反りて背忤(サカフ)の心を生す」
② 敵対する。はむかう。また、風波などの勢いと反対の方に進もうとする。
古今著聞集(1254)一〇「今一度さかうべしとて、あゆみよるに」
③ さかさまになる。逆になる。また、さかまく。
海道記(1223頃)池田より菊川「天下風あれて海内波さかへりき」
④ へどを吐く。もどす。
⑤ 気にさわる。悪く感じる。抵抗感がある。
徒然草(1331頃)一五五「ついで悪しき事は、人の耳にもさかひ、心にもたがひて」
[2] 〘自ハ下二〙 (一)に同じ。
※打聞集(1134頃)玄奘三蔵心経事「すふ間腹わた返て逆(サカフ)れども悲の心深きままに」
[3] 〘他ハ下二〙 さかさまにする。さかだたせる。さかだてる。
※法華義疏長保四年点(1002)一「身に鱗を逆(サカヘ)て、土石其の身の内に入ることあり」
[語誌]平安時代までは、漢文訓読系の文献を中心に四段・下二段とも例が見られる。中世に入って、下二段活用と併用されつつも、一般的には四段活用が用いられるようになり、下二段活用の方は堅苦しい語感を伴ったと考えられる。なお、同義語の「さからふ」は、室町期より例が見出される。

ぎゃく【逆】

〘名〙
① (形動) 順序、方向と反対であること。さかさまなこと。また、そのさま。反対。⇔
※名語記(1275)九「逆にいはるる事は立春をはるたつひといへるがごとし」 〔易経‐説卦
② (形動) 道理に反すること。道徳的な教えにそむくこと。また、上位の者にさからうこと。また、そのさま。反逆。⇔
※続日本紀‐天平宝字元年(757)閏八月壬戌「忽有不慮之間、兇徒作一レ逆」
浄瑠璃女殺油地獄(1721)中「ぎゃくな弟に似ぬ心、順慶町の兄河内屋太兵衛」 〔易経‐比卦〕
③ 逆手(ぎゃくて)。→逆に取る逆を取る
④ 命題の仮定結論とを入れ換えて得られる命題の、もとの命題に対する称。すなわち「AならばB」に対して「BならばA」をその逆という。もとの命題が真でも、逆は必ずしも真とは限らない。

さから・う さからふ【逆】

〘自ワ五(ハ四)〙
① 物事の勢いや、ある一定の方向へ働く力に反対する。逆の力を加える。逆の方向へ進む。
※浄瑠璃・平家女護島(1719)四「引く汐にさからふ千鳥が浮きくるしみ」
他人の意見や注意などに反抗する。てむかう。たてつく。抵抗する。反対する。
※浄瑠璃・女殺油地獄(1721)中「それからはあきないも精を出し、親達へ孝行つくしさからふまいと誓文だて」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三「母親に忤(サカラ)ひながら、何時しか其いふなりに成った」

むか‐た・む【逆】

〘他マ四〙 吐き気をもよおし食物を吐く。
新訳華厳経音義私記(794)「不欬不逆 欬克代反、也、蘇豆反、欬逆気也、倭云牟世々受、不逆者牟可太末受」
[補注]用例の「牟可太末受」の「末(マ)」を、「未(ミ)」と見なすならば、活用はマ行上二段、またはマ行上一段となる。

さか・る【逆】

〘自ラ四〙 =さかう(逆)
書紀(720)神武即位前戊午年四月(北野本室町時代訓)「日(ひむかし)に向ひて虜(あた)を征(う)つは、此、天の道に逆(サカレ)り」

さからい さからひ【逆】

〘名〙 (動詞「さからう(逆)」の連用形名詞化) さからうこと。反対すること。てむかうこと。抵抗。
※小銃(1952)〈小島信夫〉四「その申告の時も、私は格式のある動作をして見せた。それが唯一の私の抗(サカラ)いの表現だった」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「逆」の意味・読み・例文・類語

ぎゃく【逆】[漢字項目]

[音]ギャク(呉) ゲキ(漢) [訓]さか さからう
学習漢字]5年
〈ギャク〉
本来の方向・事態などと反対である。「逆境逆行逆転逆風逆流逆輸入可逆
支配や命令にさからう。正道にそむく。「逆心逆賊悪逆横逆弑逆しいぎゃく大逆反逆
さかのぼる。「逆上吃逆きつぎゃく
〈ゲキ〉
普通とは方向が反対である。「逆鱗げきりん
出迎える。「逆旅
前もって。「逆睹げきと
〈さか〉「逆子逆夢
[難読]吃逆しゃっくり逆上のぼせる

ぎゃく【逆】

[名・形動]
物事の順序・方向などが反対であること。また、そのさま。さかさま。「立場がになる」「コース」⇔
論理学で、ある命題の主語と述語を換位して得られる命題。「pならばqである」に対して「qならばpである」という形式の命題。最初の命題が真でも、逆命題は必ずしも真ではない。
柔道で、関節技のこと。逆手ぎゃくて
道理や道徳に反すること。また、そのさま。
「朝廷の御為おんためには…―にくみする条理なし」〈染崎延房・近世紀聞〉
[類語]反対あべこべかえって逆様裏腹逆さ裏返し裏表うらおもて右左みぎひだり上下うえした後ろ前正反対真逆本末転倒主客転倒

さか【逆/倒】

さかさま。ぎゃく。反対。
「開けた儘の一頁を―に三四郎の方へ向けた」〈漱石三四郎
名詞や動詞の上に付いて、さかさま、ぎゃく、反対の意を表す。「―波」「―うらみ」「―のぼる」

げき【逆】[漢字項目]

ぎゃく

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「逆」の意味・わかりやすい解説

逆 (ぎゃく)
converse

論理学の用語であるが数学でよく使われる。一つの命題〈AならばB〉に対して,ABとを入れかえたもの〈BならばA〉をもとの命題の逆という。例えば,〈実数xについて,x>2ならばx2>4〉という命題を考えると,〈実数xについて〉は前提条件として考え,Ax>2,Bx2>4であるが,この命題の逆は,〈実数xについて,x2>4ならばx>2〉である。もとの命題が正しくても,逆は正しいとは限らない(x2>4ならば,x>2またはx<-2が正しい命題)。また,もとの命題および逆のABを,ABの否定におきかえたもの〈AでないならばBでない〉〈BでないならばAでない〉(前の例なら,〈実数xについて,x≦2ならばx2≦4〉および〈実数xについて,x2≦4ならばx≦2〉)を,それぞれもとの命題の裏obverse,対偶contrapositionという。もとの命題が正しければ対偶も正しく,対偶の対偶はもとの命題であるから,ある命題とその対偶とは同値であり,ある命題を証明するのに対偶を証明してもよい。裏は逆の対偶であるから,逆が正しくないときは裏も正しくない。

 上の例ではAの否定,Bの否定はやさしかったが,一般には否定を作るときはまちがいやすいので注意を要する。例えば,一つの関数fxy)についての命題,〈どんな実数x0に対しても適当に実数y0をとれば,fx0y0)=0〉の否定は,〈適当な実数x0に対しては,どんな実数y0をとってもfx0y0)≠0〉であり,〈どんな〉と〈適当な〉の入れかえが起こっている。

 なお,数学的命題でなく,例えばABとに原因と結果というような関係があって,時間的差のある場合,単に形式的に対偶を作ったのでは正しい対偶にはならない。例えば〈食事をしないとおなかがすく〉と,形式的対偶〈おなかがすかないと食事をする〉は大違いである。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「逆」の意味・わかりやすい解説


ぎゃく
converse

文章で表された一つの主張において、それが真であるか、または偽であるかが明確なものを命題propositionとよぶ。つまり、一つの命題は、それが真であり、かつ偽であるということはありえない。「AならばBである」という命題をpとするとき、pの仮設Aと終結Bとを交換して得られる命題「BならばAである」を、もとの命題pの逆という。「逆はかならずしも真ならず」といわれているように、一般に、真の命題の逆がいつも真であるとは限らない。たとえば、「6の倍数は偶数である」という命題は真であるが、その逆、「偶数は6の倍数である」は真でない。仮定や結論が複雑である命題の逆はただ1通りではない。また、「三角形の内角の和は180度である」という命題のように、その逆がつくりにくいものもある。

[古藤 怜]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「逆」の意味・わかりやすい解説


ぎゃく
inverse

条件文「p→q (pならばq) 」に対して,条件文「q→p (qならばp) 」をもとの条件文の逆という。たとえば「雨が降れば傘をさす」の逆は,「傘をさせば雨が降る」,「ある数が6の倍数ならばその数は偶数である」の逆は,「ある数が偶数ならばその数は6の倍数である」となる。また「 ab=0 ならば,a=0 または b=0 である」の逆は,「 a=0 または b=0 ならば,ab=0 である」となる。一般に,ある条件文が真であっても,その逆は必ずしも真ではない。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android