精選版 日本国語大辞典 「退」の意味・読み・例文・類語
の・く【退】
[1] 〘自カ五(四)〙
[一] その位置・立場から離れ去る。また、位置をへだてる。
① 今までいた場所から離れ去る。どく。たちのく。
※源氏(1001‐14頃)手習「つつみもあへず、物ぐるはしきまでけはひもきこえぬべければ、のきぬ」
② 距離をおく。場所が離れる。
※狭衣物語(1069‐77頃か)四「居給べき所と見ゆるは、寺よりは少しのきてぞありける」
③ 逃げる。退却する。
※平家(13C前)一一「渚(なぎさ)に百騎ばかりありける物ども、しばしもこらへず、二町ばかりざっと引いてぞのきにける」
④ 地位を離れる。
※大鏡(12C前)二「一条院くらゐにつかせ給しかば、よそ人にて、関白のかせたまひにき」
⑤ 関係がなくなる。縁が切れる。離縁する。また、「のいた」の形で、関係がない、無縁だの意で用いる。→のいた仲。
※源氏(1001‐14頃)浮舟「この宮の御具にては、いと良きあはひなりと、思も譲りつべく、のく心ちし給へど」
⑥ ついていたものが離れる。取れる。
⑦ 売れてかたづく。売りさばかれる。
※天理本狂言・伯母が酒(室町末‐近世初)「して『此間は、なにかとして、みまいまらせぬと云て、さけは、のきまらするかと云』女『ようのくと云』」
※中華若木詩抄(1520頃)下「春は三春とて、九十日を、三にわけた也。三分の春が、二春は塵となりてのくる也」
[2] 〘他カ四〙
① (除) 除く。他と区別する。「いとのきて」の形で、慣用句的に用いられる。→いと(最)のきて。
② (遺) 残す。
※仏足石歌(753頃)「いかなるや人に坐(いま)せか 石の上を 土と踏みなし足跡(あと)乃祁(ノケ)るらむ 貴くもあるか」
[3] 〘他カ下二〙 ⇒のける(退)
しり‐ぞ・く【退】
(後方の意の「しり」に、離れるの意の「そく」が付いたものという)
[1] 〘自カ五(四)〙
① あとへひく。ひきさがる。後ろへのく。しぞく。
※書紀(720)孝徳即位前(北野本訓)「是に於いて、古人の大兄、座(しきゐ)を避りて逡巡(シリソキ)て手を拱(つくり)て辞(いな)び曰く」
※源氏(1001‐14頃)葵「人々はしりぞきつつさふらへばより給て、などかくいぶせき御もてなしぞ」
② その場を離れて出て行く。かえる。退出する。特に、貴人・目上の人などの前から退出するのをいう。「二回戦で退く」
※立本寺本法華経寛治元年点(1087)一「坐より起ちて、仏を礼して退(シリソキ)ぬ」
③ 隠退する。今までの官職や職業をやめたり、地位や社会から身をひいたりする。
※徒然草(1331頃)一三四「つたなきをしらばなんぞやがてしりぞかざる」
④ へりくだる。けんそんする。ひかえめにする。
※源氏(1001‐14頃)明石「しりぞきて咎なしとこそ昔賢しき人も言ひ置きけれ」
⑤ ものごとの勢いが弱まったりなくなったりする。
⑥ (他動詞的に用いて) しりぞける。遠ざける。
※こんてむつすむん地(1610)一「又みもなきよろこびをしりぞき、はつとのしたに六こんをよくおさめまもるべし」
[2] 〘他カ下二〙 ⇒しりぞける(退)
し‐ぞ・く【退】
[1] 〘自カ四〙 後方にひきさがる。うしろにさがる。しりぞく。
※地蔵十輪経元慶七年点(883)八「諸の阿素洛驚き怖き退(しソキ)散(あか)れぬといふがごとし」
※枕(10C終)二七八「まづ、しりなるこそは、などいふほどに、それもおなじ心にや、しぞかせ給へ。かたじけなしなどいふ」
[2] 〘他カ四〙 遠ざける。追いはらう。しりぞける。
※彌勒上生経賛平安初期点(850頃)「仏を去(シソキ)て時遙かに、病重く行(か)けたれば」
そ・く【退】
[1] 〘自カ四〙 遠く離れる。遠ざかる。しりぞく。のく。
[2] 〘他カ下二〙 離す。遠ざける。しりぞかせる。取り去る。
のか・す【退】
[1] 〘他サ五(四)〙 ある場所から動かして、他に移す。のける。
※虎明本狂言・牛馬(室町末‐近世初)「『それがしをのけうよりも、そちがのけ』『いでのかしてみせう』」
[2] 〘自サ五(四)〙 …し終わる。…し果てる。多く、動詞の連用形に「て」の付いた語に接続して、補助動詞のように用いる。
し‐さ・る【退】
〘自ラ四〙 (後世「しざる」とも) 前を向いたままでうしろにさがる。あとずさりする。すさる。
※歌仙本兼輔集(933頃)「陸奥の白河越て相逢ひつしさるしさるもゆけど遙けき」
※平家(13C前)一二「ぬりごめの内へしざりいらむとし給へば」
※星座(1922)〈有島武郎〉「少し座をしざった」
ど・く【退】
[1] 〘自カ五(四)〙 その場を離れる。そこから他の場所に移る。しりぞく。のく。
[2] 〘他カ下二〙 ⇒どける(退)
すさ・る【退】
〘自ラ五(四)〙 (「すざる」とも) ひきしりぞく。後ろにさがる。しさる。〔名語記(1275)〕
※高野聖(1900)〈泉鏡花〉一〇「私(わし)は一足退(スサ)ったが」
※大塩平八郎(1914)〈森鴎外〉八「一手のものが悉く跡へ跡へとすざるので」
たい‐・す【退】
〘自他サ変〙 しりぞかせる。のかせる。また、しりぞく。のく。あとにさがる。
※今昔(1120頃か)五「終に此の苦行を以て无上菩提心を不退(たい)せじ」
※妙一本仮名書き法華経(鎌倉中)五「顛倒せず、動ぜず、退(タイ)せず、転ぜず」
そき【退】
〘名〙 (動詞「そく(退)」の連用形の名詞化) 遠く離れること。また、遠くへだたった所。
※万葉(8C後)六・九七一「筑紫に至り 山の曾伎(ソキ) 野の衣寸(そき)見よと 伴の部を 班(あか)ち遣し」
どか・す【退】
〘他サ五(四)〙 ある物を他の方に移す。邪魔なものを取り去る。のかす。
※落語・汲立て(1897)〈四代目橘家円蔵〉「三味線となれば師匠が本箱を避(ドカ)して仕舞って」
ど・ける【退】
〘他カ下一〙 ど・く 〘他カ下二〙 その場から離れさせる。他の場所に移す。のける。
※滑稽本・続膝栗毛(1810‐22)一一「正月のかざり藁アどけておいて釣瓶縄にするし」
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