迫・逼(読み)せまる

精選版 日本国語大辞典 「迫・逼」の意味・読み・例文・類語

せま・る【迫・逼】

〘自ラ五(四)〙
[一] 向こうからやってくる。やってこられてこちらが狭くなる。圧迫される。
① あることが起こったり、はじまったりする時間、また、場所に近づく。近よる。
書紀(720)神代下(鴨脚本訓)「時に孕月(うむかつき)已に満ちて、産(こう)む期(とき)方に急(セマリ)ぬ」
※漢書楊雄伝天暦二年点(948)「何ぞ日の西山に溥(セマ)ることを恐れむ」
② 行きづまる。せっぱつまる。進退に窮する。
※書紀(720)神代下(鴨脚本訓)「兄、既に窮途(セマリ)て逃げ去る所無し」
③ 貧しくて生活が窮迫する。貧困になる。生活に苦しむ。
※宇津保(970‐999頃)祭の使「身をすてて学向をしつつ、はかりなくせまりて」
④ 不足する。欠乏する。
日葡辞書(1603‐04)「ミヅガ xematta(セマッタ)
⑤ 距離が狭くなる。幅がせばまる。相寄る。
※文鏡秘府論保延四年点(1138)西「自余の手筆、或はゆたかに、或は促(セマ)る」
太平記(14C後)一五「道迫(セマ)りて、而も敵の行前(ゆくさき)難所なる山路にては」
⑥ ある状態に今にもなりそうになる。
読本忠臣水滸伝(1799‐1801)後「しきりに餓(うゑ)にのぞみて、ほとんど十分の艱苦にぞせまりける」
⑦ 胸がしめつけられて息がつまる。感情が高ぶって胸が苦しくなる。つまる。
※私聚百因縁集(1257)三「明たる朝我が子の悲しみに責(セマッ)て」
※重右衛門の最後(1902)〈田山花袋〉二「村が見えなくなった時は流石に胸が少し迫(セマ)って」
[二] (他動詞的に用いて) ある事をするよう強い態度で要求する。のっぴきならないように押しつめる。圧迫する。
※天正本狂言・梅盗人(室町末‐近世初)「主聞つけて、棒を以てさんざんにおどす。せまる」
坊っちゃん(1906)〈夏目漱石〉三「生徒の一人が一寸此問題を解釈をしておくれんかな、もし、と出来さうもない幾何の問題を持って逼ったには冷汗を流した」
[補注]「せむ(迫)」「せめる(攻)」「せめる(責)」と同語源の語。→「せむ(迫)」の補注

せ・む【迫・逼】

[1] 〘自マ下二〙 ぎりぎりに近寄る。近づく。せまる。→せめて
霊異記(810‐824)中「高名華裔(くゎえい)に振ふと雖も、妖災窘(セムル)日には帰(よ)る所无く〈国会図書館本訓釈 窘 セムル〉」
山家集(12C後)中「山川のみなぎる水の音聞けばせむる命ぞおもひ知らるる」
[2] 〘他マ下二〙 ⇒せめる(攻)
[補注](1)自動詞は「せまる」と同語源でほとんど同じように用いられたが、中世以降、もっぱら「せまる」に移行したかと思われる。なお、「色葉字類抄」には「逼 セム」と「迫 セマル」の両形が見える。
(2)他動詞は「せめる(責)」「せめる(攻)」の二項に示した。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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