辻占(読み)つじうら

精選版 日本国語大辞典 「辻占」の意味・読み・例文・類語

つじ‐うら【辻占】

〘名〙
① 黄楊(つげ)の櫛を持って四辻に立ち、道祖神に祈って歌を三遍唱え、最初に通りかかった人の言葉によって吉凶を判断したこと。黄楊の小櫛。〔文明本節用集(室町中)〕
※浮世草子・好色一代男(1682)四「辺を見れば黄楊の水櫛落てげり。あぶら嗅きは女の手馴し念記ぞ、是にて、辻占(ツヂウラ)をきく事もがなと」
② 偶然に遭遇した物事によって将来の吉凶を判断すること。
※浄瑠璃・堀川波鼓(1706頃か)下「とうふあきなふ商人のきらずきらずと声だかに。売辻占の耳に立心おくれと成やせん
※或る女(1919)〈有島武郎〉前「鏡がいつの間にか真二つに破れてゐた。〈略〉木村との行末の破滅を知らせる悪い辻占(ツジウラ)かも知れない」
③ 吉凶を占う短い文句を記した紙片。袋に入れたり、巻煎餠にはさんだり、あるいは、あぶり出しのような細工をほどこしたりする。
人情本糸柳(1841か)二「『ハイ、お坊ちゃん、しゃあんと来い』と言ひながら、辻売(ツジウラ)手遊を差出し」

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デジタル大辞泉 「辻占」の意味・読み・例文・類語

つじ‐うら【×占】

黄楊つげくし持ち、道の辻に立って、最初に通る人の言葉を聞き吉凶を判断する占い。道占道行き占
偶然出あった物事を手がかりとして吉凶を判断すること。「辻占がよい」
吉凶を占う短い文句を記した紙。また、それを巻き煎餅せんべいなどに挟み、取った時の吉凶の判断とすること。

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改訂新版 世界大百科事典 「辻占」の意味・わかりやすい解説

辻占 (つじうら)

道の辻に立って,通りがかりの人の言葉を聞いて吉凶を判断する占い。別称に,朝占夕占(あさけゆうけ)という名があるように,朝方や夕方の人の姿がはっきりしない時刻に行われ,道行く人の無意識に発する言葉の中に神慮を感じとり,それを神の啓示とした。《万葉集》巻十一に〈玉桙(たまぼこ)のみちゆき占にうらなへば〉とあり,起源は古代にさかのぼる。辻占は,後に道祖神や塞の神の託宣とされるようになり,江戸時代の《嬉遊笑覧》には,衢(ちまた)に出て黄楊(つげ)の櫛を持って,道祖神を念じつつ,見えて来た人の言葉で吉凶を占うとあり,黄楊と〈告げ〉が結び付き,櫛という呪物も加えられた。夜,花柳界などを中心に占紙を売り歩いた辻占売はこの流れを引く者で,〈淡路島通う千鳥の恋の辻占〉などと呼び声をあげて縁起の良いものだけを売った。占紙には,あぶり出しや巻煎餅干菓子・板昆布にはさんだもの,割りばしや爪楊枝つまようじ)の袋に印刷したものなどがあった。辻は,神仏や妖怪など善悪さまざまな霊的存在の出現する境界的な場所であり,そこに昼と夜の境をなす時間の立つことは,あの世との接点で霊界との交流を果たすことを意味していたといえる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「辻占」の意味・わかりやすい解説

辻占
つじうら

夕占(ゆうけ)、道占(みちうら)ともいう。夕方、道辻に出てそこを通る人のことばを小耳に挟み、占いをすること。『万葉集』巻四に「月夜(つくよ)には門(かど)に出(い)で立ち夕占問ひ足卜(あしうら)をぞせし行かまくを欲(ほ)り」とあり、古くから行われていた。黄楊(つげ)の小櫛(おぐし)を持ち神を念じながら道行く人の声を聞いたといわれる。伴信友(ばんのぶとも)は『正卜考(せいぼくこう)』のなかで、場所はかならずしも四つ辻とは限らず、また占いは女がするものとは決まっていないと述べている。江戸時代以来、辻占売りというものが現れて、吉凶の文句などを書いた紙片を道行く人に呼び売りするようになった。また辻占のみでなく巻き煎餅(せんべい)やかりんとうに占いの結果を記した紙を挟んで売るものもあった。若月紫蘭(しらん)の『東京年中行事』によると、明治の末ごろ東京市の辻々に赤塗りの自動辻占箱が現れた。箱の穴に一銭銅貨を入れると占い札が出るようになっていた。これがよく売れて日本全国から朝鮮や中国にまでこの箱が設けられたと記されている。

[大藤時彦]

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百科事典マイペディア 「辻占」の意味・わかりやすい解説

辻占【つじうら】

日暮れどき,辻に立って,行きずりの人の言葉を聞き,それによって吉凶を判断する占い。中世には複雑化し,呪文(じゅもん)に似た歌を唱えて辻に出るようになったが,江戸時代には占いの言葉を書いた紙片を売る辻占売りが生じた。また女性はツゲのくしをもち辻に出る風があった。行路の神の意志を聞くという信仰から生まれたといわれる。→道祖神
→関連項目占い

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「辻占」の意味・わかりやすい解説

辻占
つじうら

四つ辻に立ち,道を通る人の言葉を聞いて,物事の吉凶を占うこと。行路の神である塞 (さえ) が,道を通る人にかかり,神託を下すと考えたもの。ツゲの櫛を持ち,歌を誦し,初めに通った人の言葉で占うなど,方法は数種あった。近世には辻占売りが花柳界などで吉凶を表わす短い文句を記したものを売り歩くようになり,のちには,干菓子に入れた占い文などの小紙片を辻占というようになった。

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