輝石(読み)きせき(英語表記)pyroxene

翻訳|pyroxene

精選版 日本国語大辞典 「輝石」の意味・読み・例文・類語

き‐せき【輝石】

〘名〙
① 最も普通にみられる造岩鉱物で、頑火輝石、古銅輝石、紫蘇輝石などの斜方晶系に属する斜方輝石と、透輝石灰鉄輝石、普通輝石、錐(きり)輝石などの単斜晶系に属する単斜輝石などの輝石群鉱物の総称。〔鉱物字彙(1890)〕
② 特に、普通輝石のこと。カルシウムマグネシウム、鉄のイノ珪酸塩鉱物で、火成岩中に広く産する。暗緑色または黒色でガラス光沢をもつ。単斜晶系で短柱状結晶。

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デジタル大辞泉 「輝石」の意味・読み・例文・類語

き‐せき【輝石】

カルシウムマグネシウムなどを含む複雑な珪酸塩けいさんえん鉱物斜方晶系に属する斜方輝石と、単斜晶系単斜輝石とがある。火成岩変成岩の重要な造岩鉱物。

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改訂新版 世界大百科事典 「輝石」の意味・わかりやすい解説

輝石 (きせき)
pyroxene

ケイ酸塩鉱物の一種で,地殻の主要な岩石である火成岩や変成岩,マントル上部の岩石,および月の岩石や隕石などにごくふつうに含まれる造岩鉱物である。輝石はケイ素原子1個を酸素原子4個が囲む四面体SiO4が,2個の酸素原子を互いに共有しながら一次元的に無限に連なった構造を有する。そのようなSiO4よりなる鎖と鎖の間にMg2⁺,Fe2⁺,Ca2⁺その他の陽イオンが入って鎖を互いに結びつけている。輝石には斜方晶系に属する斜方輝石と単斜晶系に属する単斜輝石とがある。

MgSiO3エンスタタイト)成分とFeSiO3(フェロシライトferrosilite。鉄ケイ石ともいう)成分とを端成分とする固溶体で,その化学組成は(Mg,Fe)SiO3で表される。ふつう少量のCaやAlが含まれる。MgとFeの比によってそれぞれ異なる名称が与えられている。よく用いられるものとしては,エンスタタイト(Mg100~Mg90Fe10),ブロンザイトbronzite(古銅輝石ともいい,Mg90Fe10~Mg70Fe30),ハイパーシンhypersthene(シソ輝石ともいい,Mg70Fe30~Mg50Fe50)などである。ここでMg50Fe50とは,原子比でMg50%,Fe50%よりなることを表す。斜方輝石は自形を呈する場合(例えば火山岩の斑晶)はふつうc軸方向に伸長した柱状を呈する。色はエンスタタイトが淡褐~淡緑色で,Feが増加するに従って黒く不透明になる。斜方輝石にはc軸に平行な顕著な二つのへき開があり,その二つのへき開は87~88度で交わる。

 斜方輝石はカンラン岩,種々の火成岩(斑レイ岩,玄武岩,安山岩,デイサイトなど),およびコンドライト隕石などによく含まれる。上部マントル起源のスピネルを含むカンラン岩や地殻下部の変成岩(例えばグラニュライト)に含まれる斜方輝石にはAlが多く含まれる。

化学組成は斜方輝石に比べて複雑であり,(W,X,Y)2Z2O6の一般式で表される。ここでW=Ca,Na;X=Mg,Fe2⁺,Mn2⁺,Li;Y=Al,Fe3⁺,Ti;Z=Si,Alである。ただし斜方輝石と同じ化学組成の単斜輝石も存在する。それらは単斜エンスタタイトclinoenstatiteと単斜フェロシライトclinoferrosiliteの固溶体である。その他の主要な純粋の単斜輝石はCaMgSi2O6透輝石),CaFe2⁺Si2O6ヘデン輝石hedenbergite。灰鉄輝石ともいう),NaFe3⁺Si2O6エジリンまたはアクマイトacmite。錐輝石ともいう),NaAlSi2O6ヒスイ輝石),およびLiAlSi2O6スポジューメンspodumene。リシア輝石またはリチア輝石ともいう)などである。岩石中ではこのような純粋な組成の単斜輝石はまれで,ふつうはこれらの間の固溶体である。表に代表的な諸輝石の性質を示す。単斜輝石は自形を呈する場合はc軸方向に延びた短柱状の形のことが多い。斜方輝石と同様にc軸に平行な顕著な二つのへき開があり,互いにほぼ直角に交わる。

 造岩鉱物として最もふつうに出現する単斜輝石はCa,Mg,Fe2⁺を主とする輝石である。この輝石はこれら3種の陽イオンあるいはCaSiO3,MgSiO3,FeSiO3成分の比の違いによってそれぞれ異なる名称が与えられている(図)。透輝石やサーライトsalite(サーラ輝石ともいう)はカンラン岩や石灰質な変成岩に含まれる。また,ヘデン輝石はスカルンの特徴的鉱物である。

 オージャイトaugiteは火成岩に最もふつうに含まれる。オージャイトには常に少量のTi,Al,Fe3⁺,Cr3⁺,Naなどが含まれている。オージャイトや透輝石の中にはAlを多く含み,Naに乏しいものがある。それらを特にファッサイトfassaiteと呼ぶことがある。ピジョン輝石pigeoniteは火山岩の石基にはしばしば出現するが,斑晶としてはまれである。ピジョン輝石は比較的高温でのみ安定であり,低温では斜方輝石とオージャイトとが安定である。したがってピジョン輝石は徐々に低温まで冷却すると斜方輝石とオージャイトとに分解する。この場合,もとのピジョン輝石の{001}面に平行な薄い板状のオージャイトが,斜方輝石中に多数生じる。粗粒な火成岩(例えば斑レイ岩)ではそのような分解したピジョン輝石が見られることがある。しかし火山岩の石基のように急冷する場合には,ピジョン輝石は分解せずに準安定相として残っている。月の玄武岩にもそのようなピジョン輝石がしばしば見られる。サブカルシックオージャイトsubcalcic augiteはごくまれで,すべて準安定相である。また月の玄武岩中において初めて発見されたパイロクスフェロアイトpyroxferroiteは準輝石であるが,その化学組成はほぼ(Ca015Fe085)SiO3であり,これも準安定相である。単斜エンスタタイトは隕石に含まれることがある。またまれにMgOに富む火山岩に含まれる。この単斜エンスタタイトはプロトエンスタタイトが急冷して生じた準安定相と考えられている。エジリンaegirineはフェルシックなアルカリ火成岩(例えばセン長岩や粗面岩)などに含まれる。エジリンはオージャイトと固溶体をつくる。ヒスイ輝石は比較的低温・高圧下で生じ,変成岩(特にランセン石片岩)およびそれに伴う蛇紋岩中に含まれる。緑色,淡緑色,白色を呈する。緑色のものはヒスイと呼ばれる。変成岩中に含まれるヒスイ輝石には純粋なものは少なく,Ca,Fe3⁺,Mg,Fe2⁺などが少量含まれている。純粋なヒスイ輝石は石英と共存するときは高圧でのみ安定である(例えば300℃のときは約1万気圧以上の圧力)。したがってヒスイ輝石と石英をいっしょに含む変成岩は地下深部(25km以深)で生成したことになる。オンファス輝石omphaciteはヒスイ輝石と透輝石,ヘデン輝石との固溶体で組成の範囲は広い。高温・高圧下で生じた変成岩であるエクロジャイトの主要構成鉱物である。スポジューメンはLiを含んだペグマタイトに特有の鉱物である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「輝石」の意味・わかりやすい解説

輝石
きせき
pyroxene

重要な造岩鉱物の一群で、現在まで23種類知られている。日本で産するのは、頑火(がんか)輝石、鉄珪(けい)輝石、単斜頑火輝石、加納輝石、ピジョン輝石、ドンピーコー輝石、透輝石、灰鉄輝石、ヨハンセン輝石、ひすい輝石、コスモクロア輝石、エジリン輝石、エジリン普通輝石、普通輝石、オンファス輝石、リチア輝石である。頑火輝石、鉄珪輝石、ドンピーコー輝石が斜方晶系に属し、以上を斜方輝石と総称する。そのほかはすべて単斜晶系に属し、単斜輝石と総称される。

 輝石の劈開(へきかい)は、二方向に完全で、これらのなす角がほぼ直角のため、よく外観の似た角閃(かくせん)石と区別ができる。結晶構造の基本は、ケイ素イオンを中心にもつ4個の酸素原子がつくる四面体が、二つの頂点を共有しあって無限に伸びた単鎖で特徴づけられる。輝石の化学組成は変化に富み、また産状も多い。中性ないし塩基性の火成岩、超塩基性岩中、また接触変成岩や広域変成岩中、花崗(かこう)岩ペグマタイト、隕石(いんせき)中にも産する。輝石はしばしば分解して、角閃石、緑泥石、雲母(うんも)、蛇紋石鉱物などに変化している。輝石のうち、ひすい輝石の緻密(ちみつ)な塊、淡紅あるいは緑色透明なリチア輝石の結晶は宝石用に、またリチア輝石そのものはリチウムの原料として採掘の対象となっている。昔、輝石は火成岩中には場違いなものと誤って信じられていたところから、英名はギリシア語の「火」と「他人」をあわせて名づけられた。

[松原 聰]


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化学辞典 第2版 「輝石」の解説

輝石
キセキ
pyroxene

造岩鉱物の一種.火成岩変成岩に広く分布する.固溶体をなし,化学組成は連続的に変化している.結晶系も斜方晶系に属する斜方輝石と単斜晶系に属する単斜輝石とがある.角せん石が複鎖,雲母類が二次元層状のケイ酸塩鉱物であるのに対して,輝石は単鎖のケイ酸塩鉱物である.斜方輝石は(Mg,Fe2+)SiO3などで単位胞中に16個の基本組成を含む.空間群 PbcaおよびPbcn.単斜輝石はCaMgSi2O6,CaFeSi2O6などで,単位胞中に4個の基本組成を含む.空間群はC 2/cおよびP 21/c.単斜輝石の単位胞二つを背中合わせに配置すると,ほぼ斜方輝石の単位胞となる.格子定数も組成によって異なるが,単斜輝石では格子定数 a0 ≅ 0.98,b0 ≅ 0.88,c0 ≅ 0.52 nm.β = 107°.また斜方輝石では格子定数 a0 ≅ 1.83,b0 ≅ 0.89,c0 ≅ 0.52 nm である.

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百科事典マイペディア 「輝石」の意味・わかりやすい解説

輝石【きせき】

最も普通にみられる造岩鉱物。化学組成がR′SiO3で表されるケイ酸塩鉱物で,結晶構造はチェーン型。Rのところにはいる元素(括弧内に示した)により種類が異なる。斜方晶系に属する頑火(がんか)輝石(Mg),シソ輝石(Fe,Mg),単斜晶系の透輝石(Mg,Ca),灰鉄輝石(Fe,Ca),普通輝石(Mg,Fe,Al,Na,Ca),硬玉,三斜晶系のケイ灰石,バラ輝石(Mn)などがあり,各種輝石の固溶体として産することが多い。共通の特徴として,結晶は多くは四角または八角の短柱状を示し,柱の方向に沿って互いの間の角が87°〜88°をなす二つの著しいへき開面を有する。双晶をなすものが多い。色は緑,黒,白,黄,褐色など。硬度5〜6.5,比重3.2〜3.6。ガラス光沢,樹脂光沢,真珠光沢,金属光沢。苦鉄質の火成岩,石灰岩の接触変成帯,結晶片岩などに含まれ,ときにマンガンの熱水鉱脈や隕石(いんせき)中から産出。
→関連項目輝岩

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「輝石」の意味・わかりやすい解説

輝石
きせき
pyroxene

単斜晶系または斜方晶系に属する柱状結晶をなす重要な造岩鉱物の一つ。 W1-P(X,Y)1+PZ2O6 ,ただし p=0~1 ,W=カルシウム,ナトリウム,X=マグネシウム,鉄(II),マンガン,ニッケル,リチウム,Y=アルミニウム,鉄(III),Z=ケイ素,アルミニウムの一般式で表わされる。硬度5~6.5,比重 3.1~3.9。塩基性岩ないし超塩基性火成岩に多く,中性岩にも含まれる。形成時の化学的,物理的条件によって,次のような種類がある。 (1) マグネシウム,鉄(II),カルシウムを特徴とするもので紫蘇輝石普通輝石など。 (2) ナトリウム,鉄(III)を特徴とするもので,エジリン輝石など。 (3) ナトリウム,アルミニウムを特徴とするもの。

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