軽衫(読み)カルサン

精選版 日本国語大辞典 「軽衫」の意味・読み・例文・類語

カルサン【軽衫】

〘名〙 (calção) 裾幅が狭く、筒状裾継ぎを付けた袴の一種。近世初期には、身分を問わず広く用いられ、江戸時代には武士が旅装として着用。江戸中期以降は次第にすたれた。現在では、中部地方の農山村や寒い地方で野良着として男女共着用する。これは、紺木綿や縞織物で、上部をゆるやかに、下部股引のように仕立てる。たっつけ。もんぺ
※虎明本狂言・唐相撲(室町末‐近世初)「いしゃうぬぐうちにがくなり、一いろづつ、つぎつぎへわたし、じゅばんかるさんになり」

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デジタル大辞泉 「軽衫」の意味・読み・例文・類語

カルサン【軽衫】

はかまの一種。上を緩めに仕立て、裾口に細い横布をつける。中世末に来日したポルトガル人のズボンをまねたもの。武士から町人まで着用したが、江戸時代には町人の労働着となった。現代でも農山村や寒い地方で野良着として用いる。裁っ着け。カルサンばかま

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改訂新版 世界大百科事典 「軽衫」の意味・わかりやすい解説

軽衫 (かるさん)

ズボンの一種。ポルトガル語のカルソンcalção(半ズボンの意)に由来。16~17世紀,スペインを中心に西欧で,詰物を入れて大きくふくらませた短いズボン(英語でトランクホーズ)が流行し,南蛮貿易に伴って日本にも渡来した。ふくらんだ半ズボンに長靴下をはいたポルトガル人の姿をまね,短い(はかま)に脚絆(きやはん)を付けて作ったものをかるさん(軽衫はあて字)と呼び,くるぶし丈のシャルワール型のズボンとともに,キリスト教信者や武士の間で愛好された。江戸時代を通じ料理人,髪結,大工左官などの労働用に用いられ,一般庶民に広まった。
執筆者: 労働着としては山袴(やまばかま)の一種。前布,後布ともに並幅布二布ずつを用いて四布とし,股下に挿入する襠(まち)も大きいため,全体的にゆったりしている。また足首の部分に,こはばき,よこはばきと呼ぶ高さ15cmの筒形の布がつけてあり,このこはばきによって上部の前後布のたっぷりした幅を裾口で幾本か襞(ひだ)を取って足首に合わせてしぼっている。材料は黒木綿や細い縞木綿が用いられ,1955年ころまでは,岐阜,富山,長野県を中心に,関東,東北の一部山村でも着用されていた。地域によっては,〈からさん〉〈かりさん〉などと呼ばれていた。秋田県では〈かりさんこ〉と呼び子どもの防寒衣服として,第2次大戦後も着用していたが,現在ではほとんど見られない。かるさんの形や裁断方法は,地域によって異なり,たとえば岐阜県中津川市の旧加子母(かしも)村のかるさんには並幅布半反を用いて2種類の裁断方法がある。旧加子母村では,古くから山林作業に用いられており,飛驒袴とも呼ばれて女性も着用していた。あたたかく労働しやすかったという。
山袴
執筆者:

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百科事典マイペディア 「軽衫」の意味・わかりやすい解説

軽衫【かるさん】

労働用の山袴(ばかま)の一種。尻(しり)まわりはゆるやかで,裾(すそ)はひだをとってせばめ,筒形の裾継を付ける。脚絆(きゃはん)をつけるか,そのまま裾をくくって着用。古くは括(くくり)袴といったが,室町末期渡来したポルトガル人のカルソン(半ズボンの意)に似ているのでこの名で呼ばれるようになった。江戸時代には大工,左官,髪結職人などが長く用いた。
→関連項目もんぺ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「軽衫」の意味・わかりやすい解説

軽衫
かるさん

袴の一種で,筒が太く,裾口が狭いもの。裾には横布がついている。語源はズボンの意のポルトガル語の calção。当初の形態は風俗屏風や『歌舞伎草紙絵巻』から察せられるが,しだいに日本化して踏込袴,裁付(たっつけ)袴,山袴に近づき,当初の括緒(くくりお)袴様のものから,裾にひだをとって幅の狭い横布をつけた形態へと変化していった。最初は織田信長や豊臣秀吉などもはいたが,18世紀に入ると庶民服飾の一部に取り入れられ,魚屋,呉服屋の手代,髪結い床の主人なども仕事着として利用し,19世紀には木曾街道の駕籠かきもはくようになり,しだいに都会から農村に入っていった。

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世界大百科事典(旧版)内の軽衫の言及

【ズボン】より


[ズボンと日本人]
 古墳時代,埴輪に見られるように褌(はかま)と称するズボン風の脚衣が着用されていた。南蛮文化が渡来する16世紀後半から17世紀初期にかけて,スペイン人やポルトガル人の当時の独特な脚衣を反映した,〈裁付(たつつけ)〉とか〈軽衫(かるさん)〉と呼ばれた男子袴が着用されるようになった。それらは江戸時代を通じて,その機能性からして,まず武家社会に,ついで庶民生活にも広く浸透した。…

※「軽衫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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