化学辞典 第2版 「転写(遺伝情報の)」の解説
転写(遺伝情報の)
テンシャイデンジョウホウノ
transcription
トランスクリプションともいう.DNAのもつ遺伝情報をリボ核酸(RNA)の塩基配列として写しとる過程をいう.この機構により,メッセンジャーRNAだけでなく,リボソームRNA,転移RNAが合成される.酵素として,DNA依存RNAポリメラーゼの関与によって,DNAを鋳型とし,リボヌクレオシド三リン酸(ATP,GTP,UTP,CTP)を基質として,マグネシウムイオン存在下でRNAが合成される.生体内で合成されたRNAは,DNA中の鋳型として用いられた1本鎖部分と相補的塩基配列をもっている.RNAへどちらかの鎖が転写されるかは遺伝子ごとに決まっている.このとき,酵素がDNAのどの部分を転写するかを決めるのに,酵素以外のあるタンパク性因子が関与していることが見いだされた.大腸菌のDNA依存RNAポリメラーゼでは,シグマ因子とよばれるタンパク質が共存してはじめて,生体外実験でDNAのある1本鎖部分を鋳型としたRNA合成を行う.オルガネラ(ミトコンドリアや葉緑体)でのDNAからRNAの転写は,オルガネラ由来の酵素によって同じように行われ,またウイルスなどでは宿主の酵素を利用して行われることが知られている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報