軟膏剤(読み)ナンコウザイ

デジタル大辞泉 「軟膏剤」の意味・読み・例文・類語

なんこう‐ざい〔ナンカウ‐〕【軟×膏剤】

軟膏

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「軟膏剤」の意味・わかりやすい解説

軟膏剤
なんこうざい

容易に皮膚に塗布できる適当な稠度(ちゅうど)の全質均等な半固形の外用剤。軟膏剤は基剤と主薬からなるもので、基剤はその物性により疎水性基剤と親水性基剤に分けられる。疎水性基剤は油脂性基剤ともいい、鉱物性のものと動植物性のものがある。鉱物性の油脂性基剤にはワセリンパラフィン、プラスチベースが用いられる。プラスチベースは分子量2万1000のポリエチレンを5%の割合で流動パラフィンに加えて加熱し、ゲル化したものである。動植物性基剤には植物油や木ろう、みつろうといったろう類、牛脂豚脂などが原料として用いられる。もっとも有名なのが単軟膏で、植物油とみつろうを混合加熱してつくられる。親水性基剤には乳剤性基剤と水溶性基剤とがある。乳剤性基剤には水中油型すなわちバニシングクリームタイプと、油中水型すなわちコールドクリームタイプの2種がある。前者の例が親水軟膏で、後者の例が吸水軟膏である。また、油中水型では、まったく水を含んでいない基剤で水性物質を加えると乳剤性となるものと、初めから水を含んでいるものとの二つに分けることができる。水をまったく含まない親水基剤には親水ワセリン、精製ラノリンなどがあり、水を含むものには吸水軟膏のほか、加水ラノリン、親水プラスチベースなどがある。また人の皮膚脂質の成分組成に関する研究から、皮脂成分と同じように人工的につくった水中油型乳剤性基剤にベリダーム基剤がある。水溶性基剤は水に容易に溶けるもので、マクロゴール軟膏がその例である。マクロゴールはポリエチレングリコールともいい、分子量の小さいものは液体で大きいものは固体である。マクロゴール軟膏は、固体であるマクロゴール4000と液体であるマクロゴール400を等量混ぜて、65℃で加熱して溶かし、攪拌(かくはん)しながら冷却して製したものである。

 そのほか無脂肪性軟膏基剤がある。無機性ではベントナイト、ビーガムなど、有機性ではトラガントアルギン酸ナトリウムメチルセルロースカルボキシメチルセルロースなどがあり、水またはほかの液体で膨潤して軟膏様の稠度を有するゲルとなることを利用したものである。しかし、これらはカビ細菌に汚染されやすい。

 軟膏剤の選択は、主薬の経皮吸収を目的とするか局所作用を利用するかによっても異なる。軟膏基剤の皮膚に対する作用には、(1)皮膚保護作用、(2)皮膚粘滑作用、(3)皮膚冷却作用、(4)薬物運搬作用、(5)経皮吸収作用、(6)吸着作用、(7)刺激作用があるといわれている。日本薬局方に収載されている軟膏には、次のようなものがある。基剤としても使用される親水軟膏、吸水軟膏、単軟膏、白色軟膏、マクロゴール軟膏、黄色ワセリン、白色ワセリン、親水ワセリン、加水ラノリン、精製ラノリンがあり、それらを用いた製剤には亜鉛華・イクタモール軟膏、アクリノール・亜鉛華軟膏、サリチル酸・カーボン軟膏、サリチル酸・フェノール軟膏、ヒドロコルチゾン・ジフェンヒドラミン軟膏などがある。

[幸保文治]

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