軟性下疳(読み)なんせいげかん(英語表記)Soft Chancre

精選版 日本国語大辞典 「軟性下疳」の意味・読み・例文・類語

なんせい‐げかん【軟性下疳】

〘名〙 性病の一つ。感染後二~三日潜伏期をおいて感染局部に紅色丘疹が現われ、崩壊して粟粒大の潰瘍をつくる。ふつう二~三週間で瘢痕を残して治癒する。病原体はデュクレー桿菌。〔新しき用語の泉(1921)〕

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デジタル大辞泉 「軟性下疳」の意味・読み・例文・類語

なんせい‐げかん【軟性下×疳】

性病の一。ジュクレー連鎖桿菌かんきんの感染によって起こる。感染後2、3日して陰部に米粒ほどの膿疱のうほう性の発疹ほっしんができ、潰瘍かいようとなって痛む。2、3週間で治癒する。

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家庭医学館 「軟性下疳」の解説

なんせいげかん【軟性下疳 Soft Chancre】

[どんな病気か]
 性感染症の1つで、ヘモフィリス・デュクレイ(軟性下疳菌)という細菌の感染でおこります。
 感染機会となった性行為から2~3日、おそい場合は1週間前後で、男性はペニス冠状溝(かんじょうこう)(亀頭溝(きとうこう))付近や包皮(ほうひ)の内側、女性は陰唇いんしん)や腟前庭(ちつぜんてい)に、大豆(だいず)くらいの大きさの潰瘍(かいよう)が数個発生します。
 潰瘍は、円形か楕円形(だえんけい)で、周囲との境界がはっきりしていて、表面に汚い膿(うみ)をもち、さわるとやわらかく、激しく痛みます。
 潰瘍の中には、たくさんのヘモフィリス・デュクレイがいて、分泌物(ぶんぴつぶつ)といっしょに周囲にくっつき、新しい潰瘍が広がっていきます。
 潰瘍ができて1~2週間後に、半数近くの人は、鼠径(そけい)リンパ節(せつ)の腫(は)れと痛みがおこり、化膿(かのう)すると熱が出ます。軟性下疳と梅毒(ばいどく)がいっしょにおこることがあって、この場合は、潰瘍がしだいにかたくなり、硬性下疳(こうせいげかん)(「梅毒」の第1のようになります。
 これを混合下疳といいますが、軟性下疳の治療を行なうと混合下疳の症状が現われず、潜伏梅毒かたちをとるので、梅毒の併発に気づかないことがあります。このため、軟性下疳の診断から6週間後に梅毒血清反応(ばいどくけっせいはんのう)検査(コラム「梅毒血清反応」)を必ず行ないます。
[治療]
 ふつう、サルファ剤を1~2週間、内服します。ストレプトマイシンテトラサイクリンクロラムフェニコールなどを内服や注射で使用することもあります。
 潰瘍には、サルファ剤やテトラサイクリン含有の軟膏(なんこう)をガーゼにのばして貼(は)ります。

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百科事典マイペディア 「軟性下疳」の意味・わかりやすい解説

軟性下疳【なんせいげかん】

軟性下疳菌の感染によって起こる性病。性交により伝染。感染後数日を経て,男子では陰茎の冠状溝,包皮の内外面,女子では腟(ちつ)口,尿道,陰唇(いんしん)などに米粒大の紅色丘疹を生じ,水疱(すいほう)・膿疱化し,破れて潰瘍(かいよう)となる。潰瘍が梅毒のもの(硬性下疳)より軟らかいのでこの名称がある。2〜3週間後に鼠径(そけい)リンパ節に痛みのある腫脹(しゅちよう)を伴うことがある。治療には安静を保ち抗生物質などを投与。
→関連項目下疳混合下疳届出伝染病

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改訂新版 世界大百科事典 「軟性下疳」の意味・わかりやすい解説

軟性下疳 (なんせいげかん)
chancroid

軟性下疳菌Haemophilus ducreyiを病原体とする性病。性交による感染後1~7日に外陰部に1~数個の赤い小さな隆起が発生したのち,化膿して潰瘍となるが,その潰瘍の縁は深くえぐれている。男では陰茎亀頭の周辺,包皮の内側など,女では大小陰唇,腟粘膜などに発生しやすい。さらに片側または両側の鼠径(そけい)リンパ節が痛みを伴ってはれてくるので,有痛性横痃(おうげん)とも呼ばれている。この横痃(〈よこね〉ともいう)は化膿するので,内容の膿が皮膚を破って外へ出ていく。この膿を殺菌,または軟性下疳菌を培地で増殖させたのちに殺菌して作製したワクチンを皮内注射し,48時間後に発赤の大きさを判定する検査法を伊東反応といい,軟性下疳の患者または既往者では陽性となる。治療として,サルファ剤またはテトラサイクリン系の薬剤の内服療法が5~7日間行われるが,必要に応じて長期間にわたり治療される。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「軟性下疳」の意味・わかりやすい解説

軟性下疳
なんせいげかん

軟性下疳菌(デュクレー桿(かん)菌)Haemophilus ducreyiを病原体とする性病で、びらんした皮膚や粘膜より感染する。軟性下疳菌は、1889年イタリアの皮膚科医デュクレーAugosto Ducreyによって発見されたグラム陰性桿菌で、罹患(りかん)部の潰瘍(かいよう)に存在する膿(のう)中に認められる。

 性行為によって感染後3~5日の潜伏期を置いて発病する。男性では陰茎に、女性では陰唇や腟(ちつ)入口などに小膿疱(のうほう)ができ、まもなく自壊して大豆大の痛みのある潰瘍を形成し、悪臭がある。潰瘍からの膿が付着して周囲に潰瘍が多発することもある。初発症状出現後2週間内外に鼠径(そけい)部リンパ節が赤く腫(は)れて化膿することがあり、有痛性横痃(おうげん)とよばれている。治療としては、サルファ剤またはテトラサイクリンが有効で、これによって軟性下疳は急速に減少し、きわめてまれになってきたが、アフリカ諸国には多いと報告されている。

[岡本昭二]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「軟性下疳」の意味・わかりやすい解説

軟性下疳
なんせいげかん
soft chancre

性病の一つ。軟性下疳菌 (デュクレイ菌) に感染後2~3日で赤色小丘疹が発生,これがまもなく膿疱化し,破れて潰瘍化する。潰瘍には膿苔が付着し,触れると激痛がある。好発部位は外陰部であるが,口唇や肛門周囲にも現れることがあり,膿の自家接種により多発する。発病の2~3週間後に鼠径リンパ節が腫脹,融合して団塊状となり,皮膚も発赤,腫脹して,やがて排膿する。激痛がある。これを有痛性横痃 (よこね) という。軟性下疳の病変は梅毒と異なって局所性に発生する。

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世界大百科事典(旧版)内の軟性下疳の言及

【性病】より

…おもに性交によって人から人へ感染していく病気の総称で,梅毒淋病軟性下疳(なんせいげかん)および鼠径(そけい)リンパ肉芽腫(第四性病)が含まれる。俗に花柳(かりゆう)病などともいわれた。…

※「軟性下疳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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