軟体動物(読み)なんたいどうぶつ

精選版 日本国語大辞典 「軟体動物」の意味・読み・例文・類語

なんたい‐どうぶつ【軟体動物】

〘名〙 動物分類学上一門を構成する動物群で、単殻綱、多殻綱、無殻綱、腹足綱、掘足綱、双殻綱、頭足綱などに分けられる。からだは筋肉質で環節がなく、頭・足・内臓の三部からなる。からだは皮膚の特殊化した外套膜に覆われ、外側に石灰質の貝殻を分泌してからだを保護する。口には歯舌と呼ばれる特有の器官があって、これで食物をとりいれる。雌雄異体だが同体のものも多い。発生過程中一般に担輪子幼生・被面子幼生を経る。海産、汽水産、淡水産、陸産など広く分布する。多く食用となり、貝殻は装飾品となる。一方、イモガイなどの有毒な貝や、野菜などに被害を与えるマイマイなどもある。〔動物小学(1881)〕

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デジタル大辞泉 「軟体動物」の意味・読み・例文・類語

なんたい‐どうぶつ【軟体動物】

動物界の一門。体は軟らかく、頭・足・内臓からなるが、明らかな区別はできない。外套膜がいとうまくで覆われ、多くは体表に石灰質の殻を分泌する。ヒザラガイ巻き貝類・ツノガイ類・二枚貝類・頭足類などに分けられる。
[類語]無脊椎動物原生動物原虫中生動物海綿動物腔腸動物刺胞動物有櫛ゆうしつ動物扁形動物紐形動物曲形動物袋形動物環形動物有爪ゆうそう動物舌形動物節足動物星口動物触手動物毛顎動物有鬚ゆうしゅ動物半索動物棘皮動物

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改訂新版 世界大百科事典 「軟体動物」の意味・わかりやすい解説

軟体動物 (なんたいどうぶつ)

動物分類学上,軟体動物門Molluscaを構成する無脊椎動物。節足動物に次ぐ大動物群で約11万種よりなる。いわゆる貝のことをいうが,貝の民俗,利用など人との関係については,〈〉の項目を参照されたい。

 一般に卵はらせん分割をし,内外両胚葉に加えて,特殊な外胚葉性の細胞が陥入して中胚葉が形成される。そしてさらに発生がすすむとトロコフォラ幼生trochophoraになる。この点では環形動物門にもっとも近縁であり,扁形動物門にも類縁がある。しかし,その後の発生でベリジャー幼生veligerとなり,背面に生じた殻で背面から体を覆い,体は大きくなるが,伸長して環節ができない点で環形動物とは異なって,成体では著しく異なる形態になる。しかし,発生経過からは環形動物にもっとも近縁である。

成体は基本的には体は軟らかく,環節はなく,背面から貝殻で覆われ保護される。頭,内臓囊,足の3部分からなり,頭には触角や眼がある。口は前端の腹側にあって,口内の口球には歯舌がある。内臓囊と殻の下にあって体を覆う外套(がいとう)膜との間に外套腔があり,左右の外套腔に一つのえらがある。外套膜は殻を分泌する。足は大きく,足うらは広く平らで他物の上をはうのに適している。

軟体動物はさらに無板綱,多板綱,単板綱,腹足綱,掘足綱,二枚貝綱,頭足綱の7綱に分けられる。

(1)無板綱Aplacophora カセミミズ類をいう。体は細長く虫状で貝殻を欠く。頭は明らかでなく,口は前端にあり,肛門は後端にある。背側の体表はクチクラ層で包まれ,それに石灰質の小棘(しようきよく)や小鱗がある。腹側には前方から後方へ細い溝があるのでこの類を溝腹類Solenogastresともいう。しかしこれを欠く種類もある。後端の総排出腔にしわ状のえらが1対ある。雌雄異体または同体。海産で,世界に約200種,日本には15種が知られる。

(2)多板綱Polyplacophora ヒザラガイ類のことをいう。体は通常楕円形で背面は多少膨らみ,前後8枚の殻が並び殻をかこんで肉帯がある。頭は明らかであるが,触角や眼はない。足は大きく,足うらは平たい。体の後端に肛門がある。外套膜と内臓囊の間の外套腔の両側には6~80対,またそれ以上のえらがある。雌雄異体であるが交接器はない。海底で潮間帯より浅海の岩れき底に多いが,原始的なサメハダヒザラガイ類は深海にもすむ。古生代カンブリア紀後期に出現した。世界に約2000種,日本には約100種を産する。

(3)単板綱Monoplacophora ネオピリナ類をいう。笠形の殻をもち,殻頂は前方に寄り,前方に向いている。頭は明らかである。明らかな触角や眼はないが,口はある。足は丸く,足うらは平たい。体の後端に肛門がある。外套膜の内側に5~6対のえらがある。腎臓は6対,側神経と足神経が連絡するところが10対,足を収縮させる筋肉が8対,生殖腺が2対,えらの静脈が2対と体制に繰返しが多い。古生代カンブリア紀からデボン紀に栄えた貝類群で現生は10種。日本産はない。海産で,カリフォルニア産の水深50~250mの岩礁にすむ種を除いて水深1500~7500mの深海の泥底にすむ。

(4)腹足綱Gastropoda 巻貝類のこと。殻は通常巻いているが,笠形や板状の類もある。基本的には頭には触角と眼,口がある。内臓は巻いた殻の中にあり,足は大きく広くて,足うらは平らではうのに適する。足の後背にふたがある。外套腔は前方に開き,その中にえらがあり,肛門が開く。古生代カンブリア紀にすでに出現している。世界に約8万5000種,日本には約4000種が知られる。さらに次の3亜綱に区分される。(a)前鰓(ぜんさい)亜綱Prosobranchia ふつうの巻貝がこれに属する。多くは巻いた殻をもち,足の後背にふたがあって軟体を殻に収縮したときそれで殻口をふさぐ。発生の途中で体が180度ねじれて神経幹が交叉し,外套腔は前方に開き,中のえらは心臓より前に位置する。(b)後鰓亜綱Opisthobranchia 多くは殻は退化的あるいは欠いている。体は前者のねじれがもどり神経は交叉しない。えらは体の側方にあるか退化し,二次的にえらが肛門のまわりにできるが,心臓より後方に位置する。アメフラシ,カメガイ,ウミウシ類がこれに属する。(c)有肺亜綱Pulmonata 多くは巻いた殻をもつが,ふたを欠く。神経は交叉しない。外套腔は前方に開くがえらを欠き,腔内壁が肺の作用をする。陸産,淡水産のものが多く,モノアラガイ,カタツムリがこれに属する。
腹足類
(5)掘足綱Scaphopoda ツノガイの仲間。殻は筒形で殻口のほうへ太くなる。頭には眼も触角もない。古生代デボン紀に現れた。世界に500種,日本に70種が分布する。

(6)二枚貝綱Bivalvia 二枚貝類,斧足(ふそく)類ともいう。体を左右から2枚の殻で覆う。頭を欠き,外套腔には左右各2枚のえらがあり,足は多くはくさび形,後方へ出入2本の水管が出る。古生代オルドビス紀に出現し,世界に2万5000種,日本産1500種。

(7)頭足綱Cephalopoda イカ・タコ・オウムガイ類をいう。体は胴,頭,足の順に並び,肉質の外套をかむった胴は大きく,内臓はこの中に入る。イカ類では貝殻が変化して甲となり,オウムガイでは巻いた殻の中に胴が入っている。足はタコでは8本,イカでは10本あり,いずれも吸盤があるが,オウムガイでは数が多くて吸盤を欠く。足にかこまれて口がある。また頭には大きい眼がある。古生代カンブリア紀に現れた。世界に600~650種,日本に200種を産する。
頭足類
執筆者:

軟体動物のうち石灰質の硬い貝殻を有する分類群は,化石によく保存されるので,系統が比較的よくたどられている。時代や古環境を推定するための示準化石,示相化石として役だつ種属も多い。現生の軟体動物の主要なグループである二枚貝類(斧足類),腹足類,頭足類,多板類はそれぞれ5億年以上に及ぶ進化の歴史を有し,カンブリア紀後期にはすでに分化が完了していた。掘足類もオルドビス紀にそれらしきものが現れている。これらの共通の祖先についてはなお検討の余地があるが,カサガイ型の殻と数対の筋肉痕をもつ単板類に求める説が有力である。単板類は種々の動物が初めて硬組織をもつようになったカンブリア紀前期にすでに存在しており,化石は古生代の地層に限られて知られていたが,1952年(命名,記載は1957年)にデンマークの調査船ガラテア号が東太平洋のコスタリカ沖約3600mの泥底から現生種Neopilina galatheaeを採集し,軟体動物の起源と他の動物との類縁関係を考えるうえに重要な知見が得られた。このネオピリナが5対のえらと8対の収足筋を有し体節構造をとどめていることは,軟体動物の個体発生がトロコフォラ幼生,ベリジャー幼生を経て発育する事実とともに,この分類群が環形動物に類縁が深いことを暗示する。

 二枚貝類はカンブリア紀にはまれであるが,オルドビス紀には多くのグループの代表者が出現し,その後しだいに多様性を増しつつ現在に及んでいる。自衛の機能をもつ2枚の殻を有し,すべて水生で,地物に足糸で付着(あるいは片側の殻で固着)するものと砂泥に潜入するものがある。中・古生代には現在の海には見られない特徴的なグループが繁栄し,三畳紀後期にはモノチス類,三畳紀後期~白亜紀にはサンカクガイトリゴニア)類,ジュラ紀~白亜紀にはイノケラムス類の大発展があった。

 腹足類もカンブリア紀後期以降にしだいに多様性を増してきたが,二枚貝に比べて形態,生態はいっそう多様で,種数もはるかに多い。古生代には殻口に切れこみをもつベレロフォン類やオキナエビス類などの原始腹足類が多いが,石炭紀には後鰓類,有肺類が生じ,一部は陸上に適応した。白亜紀中葉には他の動物を捕食し卵囊で幼生を効率よく保護する新しい戦略を獲得した新腹足類が出現し,急速な分化,発展が起こっている。頭足類はすべて海生で,カンブリア紀後期に現生のオウムガイ類の祖先型(直角石類)が出現し,これに由来するバクトリテス類を根幹としてデボン紀前期にアンモナイト類,それ以降にベレムナイト類や現生のイカ,タコの祖先が導かれたと考えられている。アンモナイト類は古生代後期から白亜紀末まで,ベレムナイト類はジュラ紀,白亜紀に大発展を遂げ,きわめて多くの属種が知られているが,前者は白亜紀末に後者は第三紀に入ってまもなく絶滅した。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「軟体動物」の意味・わかりやすい解説

軟体動物
なんたいどうぶつ

動物分類学上の一門である軟体動物門Molluscaを構成する動物の総称。現在の地球上では、節足動物に次いで大きな動物群である。体は、多少の例外はあるが基本的には柔軟で、明らかな環節がなく、背面から殻で保護されている。頭部、内臓塊、足部の3部分からなり、頭には触角や目があり、口の中には歯舌がある。また、内臓嚢(のう)と外套(がいとう)との間は外套腔(こう)で、ここにえらがある。外套は殻を分泌し、足は大きくて、はうのに適している。

 軟体動物には世界に約11万程度の現生種があり、次の7綱に分けられている。(1)無板綱 海産で、体はミミズ状で殻を欠き、背側はクチクラ層に覆われ、中に骨片が埋もれている。腹側に前後に細かい溝がありカセミミズ類が代表的な溝腹類と、溝のないケハダウミヒモ類が代表的な尾腔類の2群からなる。化石は未発見で、現生種は世界に約200種、日本には約15種が知られている。(2)多板綱 海産で、ヒザラガイ類ともよばれる。体は楕円(だえん)形で、前後に8枚の殻が並ぶ。古生代カンブリア紀後期から出現し、現生種は世界に約1000種、日本には約90種を産する。(3)単板綱 大部分が深海産で、ネオピリナ類で代表される。古生代カンブリア紀初期から出現し、デボン紀まで栄えた類で、現生種は世界に11種、日本近海には産しない。(4)腹足綱 海中、淡水中、陸上にすみ、殻は普通螺旋(らせん)状に巻いているいわゆる巻き貝類である。1対の触角と目があり、また、足が大きくて広く、はうのに適している。古生代カンブリア紀初期から出現し、現生種は世界に8万5000種、日本に約4500種を産する。(5)掘足綱 海産。殻は管状で弓状に曲がるいわゆるツノガイ類。頭には目も触角もない。古生代デボン紀から出現し、現生種は世界に500種、日本に約70種を産する。(6)二枚貝綱 海中、淡水中に産し、体を2枚の殻で左右から囲む。頭を欠き、足はくさび形でえらは2対あり、進んだ仲間では外套膜の後方は2本の出入水管になる。古生代オルドビス紀初期に出現し、現生種は世界に2万5000種、日本に約1500種を産する。(7)頭足綱 海産。イカ・タコ類で、体は胴部、頭部、足部が一直線に並んでいる。この点が、体の背側に内臓塊を背負い、腹側に足のある軟体動物門一般の体制と大きく異なっている。殻は一般に退化的であるが、原始的なオウムガイでは巻いた外殻がある。古生代カンブリア紀に出現し、現生種は世界に約650種、日本には約150~200種を産する。

 軟体動物は、人類にとって重要な食料となるばかりでなく、工芸材料、薬品などの原料となる一方、寄生虫の媒介者、漁業上の害敵となるなど、きわめて人間生活と関係の深い動物群であるといえる。

[奥谷喬司]


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百科事典マイペディア 「軟体動物」の意味・わかりやすい解説

軟体動物【なんたいどうぶつ】

無脊椎動物の一門。環形動物の類縁とされる。体は頭(斧足(ふそく)類にはない),内臓嚢(のう),足からなり,体の主部は外套(がいとう)膜でおおわれる。多くは貝殻()をもつ。感覚器としては触角,眼が発達し,水生のものはえらで呼吸。開放血管系で呼吸色素は多くはヘモシアニン。一般に雌雄異体だが,同体のもの,性転換するものもある。また卵生のものが多いが,胎生のものもいる。トロコフォラベリジャーの幼生期を経て成体になる。5.5〜6億年前に出現し,現生約7〜8万種。無板類(溝腹類とも。カセミミズ),多板類(ヒザラガイ),単板類(ネオピリナ),腹足類(巻貝),掘足類(ツノガイ),二枚貝類(斧足類,弁鰓(べんさい)類とも),頭足類(タコ,イカ)の7綱に分けられる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「軟体動物」の意味・わかりやすい解説

軟体動物
なんたいどうぶつ
Mollusca

軟体動物門に属する動物の総称。節足動物に次ぐ大きな動物群で,11万 4000種から成る。多くは石灰質の殻が体をおおっている。軟体に関節はなく,頭には触角や眼があり,口には歯舌がある。内臓嚢と外套膜の間には外套腔があり,そこに鰓がある。足は大きく,はったり,砂泥を掘るのに適している。単板類無板類多板類腹足類掘足類二枚貝類頭足類の7綱に大別される。

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栄養・生化学辞典 「軟体動物」の解説

軟体動物

 →軟体類

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世界大百科事典(旧版)内の軟体動物の言及

【動物】より

… 動物の化石は先カンブリア時代末期からも発見されているが,それらはきわめて不完全である。しかしカンブリア紀になると,原生動物の有孔虫や放散虫,海綿動物のフツウカイメン(普通海綿),腔腸動物(刺胞動物)のクラゲ,棘皮(きよくひ)動物のウミユリ,星口(ほしくち)動物,軟体動物,環形動物の多毛類,節足動物の三葉虫,鋏角(きようかく)類および甲殻類など,形態的にはっきり異なった門が突然現れるので,各門の間の系統的な関係を化石をたどって確かめることはほとんど不可能である。したがって門の間の系統関係(図)は,形態や発生から推定するほかない。…

※「軟体動物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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