身体装飾(読み)しんたいそうしょく

改訂新版 世界大百科事典 「身体装飾」の意味・わかりやすい解説

身体装飾 (しんたいそうしょく)

審美的,宗教的また社会的なさまざまな目的をもって身体に直接,装飾的加工を施す慣習。中でも審美的な目的によるものが最も一般的といえるが,身体装飾の多様な形態は,審美的基準についての文化の相対性を如実に示している。身体装飾はボディ・ペインティングなどの一時的装飾と,入墨,抜歯その他各種のいわゆる身体変工を行う永続的装飾とに分けられるが,ここでは前者のみを扱う。後者については〈入墨〉〈身体変工〉〈抜歯〉〈瘢痕文身〉の項をそれぞれ参照されたい。

 ボディ・ペインティングは最も手軽な身体装飾として熱帯地方の原住民をはじめとして広く行われている。鉱物性や植物性の顔料(白土,黄土赤土,墨,植物の色汁など)を,獣脂で練ったりして用いる。全身あるいは身体の一部に彩色するが,顔面(とくにほお),胸,胴体部などが多い。日常的に塗色する例はまれで,たいてい儀礼や会議,戦争などの特定時になされる。身体装飾は身分や所属をあらわす指標であり,敵を威嚇する武器でもある。たとえばオーストラリアのアボリジニーは,トーテム儀礼や成年式,またタブーを解くときなどさまざまな機会に塗色する。南アメリカのインディアン諸族のボディ・ペインティングはその華麗大胆さで知られているが,ブラジルのワウラ族は戦争ゲームを行うとき,頭頂からつま先まで,白,黒,赤の顔料を用いて大胆で生き生きとした模様を描く。身体塗色が最も際だつのは成年式の儀礼においてであろう。儀式の前と,式が終わって一人前とみなされてからの色彩が明確に異なるのが特徴である。ほとんどの成年式には死と再生のテーマが演出され,年若い候補者たちはいったん象徴的に死にそして生まれ変わる。死や死者であり,彼らはまず全身白く彩色され,一人前の大人として再生した暁には,喜びの華やかな色であるや黄や青に彩られる。白は悲しみを表現する色でもあり,ニューギニア高地人母親は,赤ん坊が死ぬと白い泥を体中に塗り,額にみずから傷をつけて泣く。
化粧
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「身体装飾」の意味・わかりやすい解説

身体装飾
しんたいそうしょく

身体に顔料を塗付したり、髪を結ったりして身体を飾る習俗。身体に外科的手術を施すものも、広義には身体装飾に入れることができるし、その境界はあいまいであるが、それらは身体変工として区別されることが多い。身体装飾には、特別な儀礼や戦闘に際してのみ行われる一時的なものと、日々行われる恒常的なものとがある。一般的には前者のほうがはでで奇抜なデザインのものが多く、後者は恒常的な魔除(まよ)けといったもののほか、既婚、未婚の別、階級や職能などといった社会的地位を示す役割を果たしていることが多い。明治以前の日本女性の鉄漿付(かねつ)けはこのよい例であり、また特定の顔料が首長や呪術(じゅじゅつ)師にしか許されていない場合もある。白や赤土、植物からとった特定の色素や、ある文様、デザインが特別の呪力をもつという観念は文化により異なるが世界各地に存在し、身体装飾はその観念の応用であることが多い。未開社会の身体装飾は儀礼の一部であり、美しさを目的とした化粧とは本質的に異なるという意見もあるが、未開人にとっての身体装飾はなんらかの世界観の表出であると同時に、彼らの審美的感覚をも満足させるものである。文明社会の化粧や結髪にしても、その微妙な差異により職業を暗示したり、さまざまな主張を表現したりできないわけではない。このように身体装飾は特定の文化コンテクストにおいてさまざまなメッセージを伝達しうるものであるといえるだろう。

[山本真鳥]

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世界大百科事典(旧版)内の身体装飾の言及

【身体変工】より

…身体変形deformationと身体損傷mutilationに分類されることがある。広義の意味では,身体装飾の一種と考えられるが,装飾品を身につける場合や身体彩色を行う場合などと異なり,一度変工を加えられた身体の部位は元の状態に戻ることがないという点に特色がある。身体変工のおもなものは,変工の方法や変工の施される部位によって,次のように分類される。…

【瘢痕文身】より

…皮膚に切込みを入れたり,焼灼(しようじやく)して,その傷跡がケロイド状に盛り上がることを利用して身体に文様を描く慣習をいう。身体装飾の一種と考えられるが,身体彩色の場合とは異なり,描かれた文様が一生消えないという点に特色がある。通例,身体変工の一技法と分類される。…

※「身体装飾」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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