赤本(読み)あかほん

精選版 日本国語大辞典 「赤本」の意味・読み・例文・類語

あか‐ほん【赤本】

〘名〙 (「あかぼん」とも)
近世に行なわれた草双紙一種。延宝(一六七三‐一六八一)頃から享保一七一六‐一七三六)頃にかけて流行した赤い表紙の子供向けの絵本。内容は桃太郎、鼠の嫁入りなどのおとぎばなしや、浄瑠璃歌舞伎に取材した祝い物が多い。黄表紙や合巻を導き出した歴史的意義をもつ。また、広く黄表紙以前の草双紙一般をさすこともある。赤表紙。
洒落本・禁現大福帳(1755)三「懐紙摺もの赤本(アカボン)の類其外児らしき品を得たるときは」
② 明治期に行なわれた少年向きの落語講談本。表紙が赤など極彩色に印刷されていた。
※落語・昔の詐偽(1897)〈三代目春風亭柳枝〉「大入道はお子様方が赤本(アカホン)御覧になりましたらうが」
③ 低級粗悪な本。俗受けをねらった、内容、体裁ともに低俗な本。
※嚼氷冷語(1899)〈内田魯庵〉「七八年前初めて赤本(アカホン)が流行し出した時」

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デジタル大辞泉 「赤本」の意味・読み・例文・類語

あか‐ほん【赤本】

《「あかぼん」とも》
草双紙の一。江戸中期、延宝から享保にかけて流行した子供向けの絵本。表紙が赤いところからよばれる。お伽話物が多い。→青本黒本
明治時代の少年向きの講談本。口絵・表紙が赤を主とした極彩色のものが多かった。
内容が低級で粗雑な本。
大学受験用問題集の一種。教学社が発行。大学別、またはさらに学部別に過去の入学試験問題が収録され、表紙が朱色であることからこう呼ばれる。

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改訂新版 世界大百科事典 「赤本」の意味・わかりやすい解説

赤本 (あかほん)

江戸の地で刊行された中本型丹表紙・絵題簽(だいせん)貼付の初期草双紙。5丁1冊を単位とし,1ないし2冊で1編を構成,毎丁絵が主体を占め,これにほとんど平仮名の文を説明風に添える。この通常型の半分大のものに赤小本があり寛文(1611-73)ころの発生,通常型赤本は宝永(1704-11)ころに出,享保(1716-36)ころ行われたらしい。題材は広く多種であるが,お伽話物,祝儀物,合戦物,演劇物,当世物等に大別でき,なかでも室町期物語の系を引くねずみの擬人化作品を多く見る。作者名は見当たらず,画工に近藤清春,西村重長,羽川珍重(はねがわちんちよう),奥村政信,鳥居清満らの名を見る。版元は鱗形屋村田など。装丁様式はほぼそのまま踏襲され,やがて内容の進化した黒本・青本に移行する。

 なお,明治期に行われた,赤色彩色を主とする表紙を付けた少年向き講談・落語本や,さらには低俗な内容・体裁の本を赤本と称したが,これらは文芸ジャンルとしてまでは熟した意味をもっておらず,草双紙類とは別種である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「赤本」の意味・わかりやすい解説

赤本
あかほん

江戸中期の草双紙(くさぞうし)の一種。幼童向けの絵本で、表紙が丹色(にいろ)(赤)のためこの名がある。寛文(かんぶん)末年(1670ころ)より、江戸で正月に出版され、享保(きょうほう)(1716~1736)ごろより、大半紙半切の中本型、5丁(10ページ)1冊とする形式が定まり、これが以後の草双紙の定型となった。その読者対象から、平易な教訓とめでたい結末とが、素朴な挿絵に簡単な会話などの書き入れだけで描かれる。題材は「桃太郎」「舌切り雀(すずめ)」「鉢かづき姫」「頼光山入(らいこうやまいり)」などの昔話や御伽草子(おとぎぞうし)、浄瑠璃(じょうるり)本で、近藤清春、西村重長、羽川珍重らの画工が手がけている。なお、明治時代以降には、少年向きの講談本などを、表紙が赤を主体にした極彩色であったため、この名でよび、さらに転じて、内容、体裁ともに低級俗悪な本や縁日などで売られるいかがわしい本をいう。

[宇田敏彦]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「赤本」の意味・わかりやすい解説

赤本
あかほん

(1) 江戸時代中期に刊行された草双紙の一種。寛文~寛延 (1661~1751) 頃,幼児童向きに江戸を中心に刊行。丹色の表紙からきた呼称。初めは半紙半截の小型本で赤小本と呼ばれた。享保 (16~36) 頃から美濃紙半截の中型本となり,5丁1冊の型が定まる。本来正月に刊行され,おめでた気分にあふれたもので,平易な教訓とめでたい結末をもつ。絵が中心で,文はほんの添え物。初期の『桃太郎昔話』『ただとる山のほととぎす』などの童話物から,『さるかに合戦』のような説話物に進み,『なぞ尽し』『化物尽し』など玩具物,『大友のまとり』などの演劇物へと広がり,黒本青本へ成長した。作者は当初は無署名,のちに近藤清春,羽川珍重らの画工が作者兼業として署名している。
(2) 明治期の少年向け講談本,落語本などをいう。赤表紙の小型本で紙質が悪かった。立川文庫などがその例。のちには一般に粗悪な本をさして赤本というようになった。

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百科事典マイペディア 「赤本」の意味・わかりやすい解説

赤本【あかほん】

草双紙の一種。江戸で延宝・天和(1673年―1684年)ころから童幼向けに書かれた丹色(にいろ)表紙の絵本。享保ころまで続く。主作品は《桃太郎》《舌切雀》《はちかつぎ姫》《頼光山入》など。やがて内容の進化した黒本青本に移行。

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旺文社日本史事典 三訂版 「赤本」の解説

赤本
あかほん

江戸時代の草双紙の一つ
表紙が赤いのでこの名があり,赤草紙ともいう。大きさは半紙の半分。1冊は5丁(10ページ)からなり,桃太郎・文福茶釜・猿蟹合戦などが題材で,絵を主にした子供向きの本。

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世界大百科事典(旧版)内の赤本の言及

【絵本】より

…そのころから江戸では出版が盛んになり,やがて赤表紙をつけた子ども相手の5~6枚の中本や小本が現れた。それは赤本と呼ばれて1678年(延宝6)のころから18世紀半ばにかけてもてはやされた。内容は昔話,歌,なぞ,年中行事,鳥獣談などである。…

※「赤本」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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