赤外線望遠鏡(読み)セキガイセンボウエンキョウ(英語表記)infrared telescope

デジタル大辞泉 「赤外線望遠鏡」の意味・読み・例文・類語

せきがいせん‐ぼうえんきょう〔セキグワイセンバウヱンキヤウ〕【赤外線望遠鏡】

天体が発する赤外線領域の電磁波観測するため望遠鏡波長可視光に近い近赤外線および中赤外線の短波長側は地上光学望遠鏡と同じ光学系で捉えられるため、近年光学赤外線望遠鏡が利用される。中赤外線の長波長側および遠赤外線を観測するためには、望遠鏡本体の熱放射影響を取り除く専用の観測装置をもつ赤外線天文衛星が必要となる。

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改訂新版 世界大百科事典 「赤外線望遠鏡」の意味・わかりやすい解説

赤外線望遠鏡 (せきがいせんぼうえんきょう)
infrared telescope

天体の放射する赤外線を観測するための望遠鏡。赤外線を透過するレンズが作りにくいので一般に反射望遠鏡が使われる。また,反射鏡は反射率がよく,赤外線の放射を少なくするため金蒸着されることが多い。赤外線観測は大気中に含まれる水や炭酸ガスの吸収を受けて,地上からの観測は大きな制約を受ける。そのため観測できる波長は20μm以下の,しかも吸収の少ない波長帯に限られる。また大気の熱放射は赤外領域に極大をもっているため,天体からの微弱な赤外線を観測する場合に大きな障害となっている。そのため赤外線望遠鏡では,視野を天体と周囲の空との間を交互に往復させ,両者の強度の差分だけを取り出すという方法(チョッピング)がとられている。

 また大気の影響をできるだけ避けるために高山に設置されることが多い。例えばハワイのマウナ・ケア山(4200m)の頂上にはアメリカの口径3m,イギリスの3.8mの2台の赤外線望遠鏡が備えられて活躍している。

 日本では長野県上松町の山中(1200m)に口径1mの京都大学の赤外線望遠鏡が働いている。飛行機や気球によってもっと高度を上げれば,20μm以上の遠赤外線の観測が可能になる。さらに大気の影響から完全に解放されるためにはロケットか人工衛星が必要になる。こうなると望遠鏡自身からの熱放射も問題になり,1983年に打ち上げられた赤外線観測衛星IRASでは,みずからも液体ヘリウム極低温に冷却された。これによって望遠鏡の観測能力は飛躍的に向上し数多くの新発見がもたらされた。
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知恵蔵 「赤外線望遠鏡」の解説

赤外線望遠鏡

天体から来る赤外線を観測する望遠鏡。地上では、可視光を観測する普通の望遠鏡で赤外線の観測も行う。しかし、波長2.5μm(マイクロメートル)を超える赤外線では、望遠鏡本体や周辺装置の熱雑音(熱放射)の影響が大きいため、雑音を軽減する工夫が必要となる。波長5〜100μmの中間赤外線や遠赤外線の観測には天文衛星が必要。オランダ、英国、米国が共同で打ち上げたIRAS(Infrared Astronomical Satellite)、欧州宇宙機関(ESA)のISO(Infrared Space Observatory)など(共に運用終了)が代表的な赤外線天文衛星。現在運用中のものに、NASAのスピッツァ宇宙望遠鏡、JAXAのあかりがある。

(谷口義明 愛媛大学宇宙進化研究センターセンター長 / 2007年)

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百科事典マイペディア 「赤外線望遠鏡」の意味・わかりやすい解説

赤外線望遠鏡【せきがいせんぼうえんきょう】

天体からの赤外線を観測する望遠鏡。一般には反射望遠鏡が使用される。赤外線は大気中の水蒸気や二酸化炭素による吸収を受けるため,地上での観測には制約があり,チョッピングという特殊な観測法が使われたり,大気の影響の少ない高山に設置されたりすることが多い。また人工衛星に搭載しての観測も行われている。

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