資本の有機的構成(読み)しほんのゆうきてきこうせい(英語表記)organic composition of capital 英語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「資本の有機的構成」の意味・わかりやすい解説

資本の有機的構成
しほんのゆうきてきこうせい
organic composition of capital 英語
organische Zusammensetzung des Kapitals ドイツ語

簡略化して「資本構成」ともいう。生産過程に投ぜられた資本がどんな部分から成り立つかという資本の組成割合をさす。この割合は生産部面や同一産業でも生産部門の違い、個別資本の違いで異なる。

 資本のこの組成は、価値の側面と生産過程で機能する素材の側面の二つの面からとらえることができる。価値の面からは、資本が不変資本可変資本とに分かれる比率によって決まり、素材の面からは、充用された生産手段の量とその充用に必要な労働力の比率によって決まる。前者を資本の価値構成といい、後者を資本の技術的構成とよぶ。両者の間には密接な相互関係があるが、厳密な比例関係をもつものではない。資本の価値構成はそのときどきの生産技術水準によって客観的に決まる資本の技術構成を前提とし、それを価値で表したものである。したがって資本の価値構成の変化は、生産力の発展の結果おこる資本の技術的構成の変化によってもたらされる。とはいえ、資本の素材的成分の生産手段と労働力のそれぞれの価値は、生産力の発展によって一様に、あるいは均等に変化・発展するものでもない。生産力の変化はあらゆる部門に一様に同じ方向で同じ度合いでおこることはまったくありえないからである。したがって、資本の価値構成と資本の技術的構成との両者の関連を表すのに用いられる資本の有機的構成は、資本の技術的構成によって規定され、そしてその諸変化を反映する限りでの資本の価値構成をいう。

 資本は特別剰余価値を目ざして絶えず新しい機械や技術の改善・進歩を取り入れ、同一労働時間により多く商品を生産して生産力を増大する。競争がこのことを個別資本家に強制するのである。こうして、資本のうち生産手段の分量が生きた労働力の分量より相対的により急速に増大する点に生産力の発展が現れる。労働力1単位に組み合わされる生産手段の分量の増大を資本の技術的構成の高度化とよび、生産力増大の直接の指標となる。そしてこの高度化が資本の価値構成に反映される限り資本の有機的構成の高度化となる。これこそ労働生産力の発展を資本主義的に表す指標である。とはいえ、ここで不変資本の増大に対し可変資本の減少を相対的というのは、蓄積進展がけっして可変資本の絶対的大きさの増大を排除しているものではないからである。

 資本の有機的構成の高度化は、相対的過剰人口の形成、利潤率の傾向的低下などをもたらし、資本の蓄積過程に大きな意義をもっている。

[海道勝稔]

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改訂新版 世界大百科事典 「資本の有機的構成」の意味・わかりやすい解説

資本の有機的構成 (しほんのゆうきてきこうせい)
organic composition of capital
organishe Zusammensetzung des Kapitals[ドイツ]

資本の生産過程で機能している生産資本を使用価値としてみれば,生産手段と労働力によって構成されている。この二つの生産要素の構成比率を,マルクス経済学では,資本の技術的構成という。つぎに資本価値の構成要素としてみれば,生産手段と労働力はそれぞれ不変資本および可変資本として質的に区分され,それら二つの価値額の構成比率を資本の価値構成という。そこでK.マルクスは,資本の技術的構成によって規定され,その変化を反映するかぎりでの資本の価値構成を,資本の有機的構成とよんだ。資本の価値構成は技術的構成に変化がなくても生産要素の価格の変動によって変化しうるし,また技術的構成が変化しても価格における反対の変化によって相殺されうるから,両者は正確に比例しているわけではない。しかし資本の価値構成はもともと技術的構成の基礎のうえになりたち,両者は密接に関連しているといわなければならない。

 この資本の有機的構成(略して資本構成)は,生産過程の技術的な性格によって規定されるため,産業部門によって相違する。巨大な固定設備を要するような重工業部門などでは,概して投下資本額に占める可変資本(不変資本・可変資本)の比率は低く,資本構成が高い水準にあるといわれる。これに反して労働集約的な農業や軽工業などの部門では,一般に投下資本に占める可変資本の比率は高く,資本構成が低い水準にあるといわれる。また同一の産業部門の内部でも,生産方法の改良にともなって資本構成は相違し変化するであろう。一般に労働生産力の上昇は,労働者1人当りが使用し消費する生産手段量を増大させることになるから,それを反映して投下資本額に占める可変資本の比率を低下させる傾向をともなう。こうした資本構成を高度化する蓄積は,とくに不況末期における固定資本の更新期に集中して行われる。その結果,相対的過剰人口という追加労働力が形成されることになり,次の好況期における新しい技術体系のもとでの資本構成不変の蓄積が準備されるのである。
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百科事典マイペディア 「資本の有機的構成」の意味・わかりやすい解説

資本の有機的構成【しほんのゆうきてきこうせい】

マルクス経済学の用語。資本の構成を素材の面からみた生産手段と労働力との量的比率を〈資本の技術的構成〉といい,同じく価値の面からみた不変資本可変資本との量的比率を〈資本の価値構成〉という。この二つの構成は必ずしも正確に比例せず,前者によって規定されその変化を反映するかぎりでの後者を資本の有機的構成という。一般に資本主義の発展とともに可変資本に対する不変資本の比率が高まる(資本の有機的構成の高度化)。これは労働生産性の向上を意味するが,これによって相対的過剰人口(失業)がもたらされる。
→関連項目過剰人口資本

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「資本の有機的構成」の意味・わかりやすい解説

資本の有機的構成
しほんのゆうきてきこうせい
organic composition of capital

素材面での資本の技術的構成によって規定され,その変化を反映する資本の価値構成。技術的構成とは,労働者1人が何単位の生産手段を作動させて一定期間に何単位の物量を生産するか,という労働者と生産手段との組合せを意味する。これを価値構成からみればC/V (Cは不変資本価値,Vは可変資本価値) という表現が得られる。資本主義的生産の特徴は,生産性上昇を目指して労働者1人あたりの機械および原材料の量 (C) を増大させるという労働過程の不断の機械化にある。この過程でC/Vの値が増大していく傾向を有機的構成の高度化という。この高度化を通じ,資本の蓄積過程で追加資本 (C+V) のうち労働力に投下される資本部分は相対的に減少し,労働力を過剰化する傾向をもつ (相対的過剰人口の発生) 。また,マルクスの利潤率r=m/ (c+v) の定式 (mは剰余価値) に従って分母分子をvで割ると (m/v) / (c/v+1) という結果が得られるが,これは有機的構成が高度化すると利潤率が低下する傾向を算術的に示している。さらに有機的構成の問題は,転形問題に代表されるマルクス価値論にとっても大きな意味をもつ。

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世界大百科事典(旧版)内の資本の有機的構成の言及

【資本論】より

…古典派の定義を踏襲したものである。 資本は,生産方法の発達や,生産力の増進という大きな趨勢(すうせい)のなかで,どのように労働の需給関係を調整し,賃金と剰余価値が動く場を設定していくのか,これが《資本論》での資本の有機的構成の高度化と,相対的過剰人口の議論になる。 資本主義の拡大・深化にともなって,労働需要は社会的な規模では絶対的に増大していく。…

※「資本の有機的構成」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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