貿易保険(読み)ぼうえきほけん

精選版 日本国語大辞典 「貿易保険」の意味・読み・例文・類語

ぼうえき‐ほけん【貿易保険】

〘名〙 外国貿易海外投資などの対外取引で、日本国政府が行なっている保険事業の一つ。倒産、外貨事情の悪化による代金回収不能など、通常保険では救済できない危険から輸出業者及びその関連業者、融資銀行などを保護し、その損失を填補することを目的として政府が引き受ける保険。昭和六二年(一九八七)に新たに施行した貿易保険法に基づく。

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デジタル大辞泉 「貿易保険」の意味・読み・例文・類語

ぼうえき‐ほけん【貿易保険】

貿易保険法に基づき、外国貿易・海外投資などの対外取引で、通常の保険では救済できない危険から輸出業者・輸入業者・仲介貿易業者・融資銀行などを保護し、その損失の塡補てんぽを目的として政府が引き受ける保険。平成13年(2001)より独立行政法人日本貿易保険が引き受け実務を実施、平成17年(2005)より民間の参入が開始された。
[補説]戦争や為替取引の制限など契約当事者にとって不可抗力の事態や相手方の倒産等によって貨物を輸出できない、あるいは代金・貸付金を回収できない場合などに適用される。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「貿易保険」の意味・わかりやすい解説

貿易保険
ぼうえきほけん

輸出入、海外投資などの対外取引について通常の商業ベースの保険では救済できない(引受けできない)リスクをカバー(填補(てんぽ))する保険。貿易に伴う取引先での契約不履行・支払不能・破産等の信用危険、輸入制限・戦争・テロ・企業の国有化支払猶予・為替(かわせ)制限等のカントリー・リスク(非常危険)、為替変動による為替リスク等をカバーする保険であり、実務や政策としての貿易振興は政府(経済産業省)が出資する保険会社である株式会社日本貿易保険(NEXI(ネクシー))が行っている。

 1950年(昭和25)に、当時、日本独自の輸出拡大政策として輸出信用保険法が成立し、国が特別会計によって再保険を引き受ける制度が創設された。その後カバー範囲が逐次拡大され、1953年の法改正で輸出保険法に改称、1987年の法改正で内需拡大、輸入促進のため輸入保険が導入され、法律名も貿易保険法に改称された。2001年(平成13)同法に基づき貿易保険の実務等を行う独立行政法人としてNEXIが設立されたが、2017年に政府100%出資の株式会社に移行し、国による再保険の仕組みが廃止された(貿易再保険特別会計の廃止)。一方、非常時にも保険金の確実な支払いを担保するため、NEXIの資金調達が困難な場合には政府が必要な財政上の措置を講ずる制度となった。貿易保険は、当初の日本の輸出振興政策から、開発途上国からの輸入を促進し、あわせて開発途上国の外貨獲得を支援することをも目的とするようになった。

 現行制度は、以下のとおりである。

〔1〕個別保険
(1)貿易一般保険(個別) 輸出(日本から)、仲介貿易(日本以外から)、技術供与、ライセンス契約などにおけるリスクによる損失をカバーする保険。たとえば、カントリー・リスクの発生による信用危険、航路や到着港の変更等に伴う運賃や保険料が超過したことによる増加費用、輸出代金回収の不能などをカバーする。

(2)中小企業・農林水産業輸出代金保険 中小企業者や農林水産業者向けの、1回の取引額が5000万円以下の日本からの輸出などをカバーする。

(3)限度額設定型貿易保険 特定の海外取引先と定期的に一定額の取引がある場合に適した保険。

(4)輸出手形保険 荷為替手形不払いになった場合の損失をカバーする(被保険者は銀行)。

〔2〕包括保険
(1)簡易通知型包括保険 企業ごとに締約した包括保険契約に基づいて、すべての取引の代金回収リスクをカバーする。

(2)貿易一般保険(企業総合) 事前に特約書で定めた取引全般に対する年間契約の保険。

(3)貿易一般保険(組合包括) 各輸出組合における貿易に係る保険で、機械・工場設備、鉄道施設・設備、船舶などの輸出をカバーする。

(4)貿易一般保険(2年以上)サプライヤーズクレジット 取引の支払いが、取引開始から2年以上となる貿易をカバーする。

〔3〕モノ以外の輸出
(1)貿易一般保険(技術提供契約等) 技術やサービス提供に係る契約を対象とした保険。

(2)知的財産権等ライセンス保険(知財保険) 特許権や著作権等に係るライセンス契約などを対象とした保険。

〔4〕輸入保険
(1)前払輸入保険 代金を前払いした貨物が輸入不能になった場合、前払い代金が回収不能となった取引の保険。

〔5〕投融資保険
(1)海外投資保険 海外投資を対象とした、カントリー・リスク(対象国の政治・経済・社会環境等の変化のため、個別事業相手がもつ商業リスクとは関係なく収益を損なう危険の度合い)により発生する損失をカバーする。

(2)海外事業資金貸付保険(劣後ローン特約) 海外への出資先企業(子会社等)に対する直接貸付や、当該出資先企業の借入に対する保証債務を対象とした保険。

(3)貿易代金貸付保険(2年以上)バイヤーズクレジット 輸出等支払い資金への融資などや、仲介貿易代金などの回収不能に対する保険。

(4)海外事業資金貸付保険 海外展開する事業に必要な資金に対する貸付等についてカバーする保険。

[河野公洋 2020年6月23日]

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百科事典マイペディア 「貿易保険」の意味・わかりやすい解説

貿易保険【ぼうえきほけん】

貿易業者が保険料を支払い,政府が特別会計を設けて運営している保険。戦争や内乱の発生,海外子会社の接収,為替取引制限といった思わぬ事態で輸出代金の回収が困難になった場合など,通常の民間保険では補填できない大きなリスクを対象とし,政府が損害額の一定割合を補償する。 日本ではじめて貿易保険制度が導入されたのは1950年で,輸出だけを対象とする輸出保険として〈輸出保険法〉が制定された。同法は1987年に〈貿易保険法〉に改称し,順次制度を拡充してきた。従来,保険業務は政府(経済産業省)が行ってきたが,2001年4月,独立行政法人・日本貿易保険(略称NEXI:Nippon Export and Investment Insurance)が担当するように改組された。現在では普通輸出保険,輸出代金保険,仲介貿易保険,輸出手形保険,輸出保証保険,前払輸入保険,海外投資保険,海外事業資金貸付保険の計8種類がある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「貿易保険」の意味・わかりやすい解説

貿易保険
ぼうえきほけん
international trade insurance

外国貿易や海外投資を行ない,通常の保険では救済することのできないリスクにさらされた場合に,政府 (通産省) 自らが運営する保険でカバーしようとする制度。この保険に関する基本的事項は法律で定められているが,対外取引環境の変化などに対応し 1987年に法改正が行なわれ,前払い輸入保険などが加えられ,名称もそれまでの輸出保険法から貿易保険法に変更された。本制度は相手国における為替取引の制限,戦争,革命,取引相手方の破産といったリスクの可能性の高い,日本の商社で広く活用されており,最近ではイラン・イラク戦争で中断した IJPCプロジェクトを保険金支払いの対象としたことが注目を集めた。

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世界大百科事典(旧版)内の貿易保険の言及

【輸出保険】より

…また一般にモラトリアムが発動された国に対する輸出については,輸出保険の引受けが制限される。 戦後,日本の輸出保険は1950年公布の輸出保険法に基づき運営されてきたが,その後数次にわたる改正が行われ,とくに87年には対外取引に係るいくつかの政府保険制度が統合されて貿易保険法(1988年4月施行)となり,さらに97年にも改正された(1998年4月施行)。この貿易保険法は〈外国貿易その他の対外取引において生ずる為替取引の制限その他通常の保険によって救済することができない危険を保険することによって,外国貿易その他の対外取引の健全な発達を図ることを目的〉(1条)としている。…

※「貿易保険」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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