貸鍬(読み)かしぐわ

改訂新版 世界大百科事典 「貸鍬」の意味・わかりやすい解説

貸鍬 (かしぐわ)

農具の鍬を農家以外の者が大量に所有し,これを農家に貸与する慣行およびその対象となる鍬そのものをいう。新潟県下で上・中越地方を中心にかつて広く存在した。貸されるのは風呂鍬や三本鍬などの鍬先で,稲こきなどの農具もあった。貸料は時代や地域によっても異なるが,鍬1挺年間玄米2升5合~3升というのが一般的である。貸主は農鍛冶大部分であるが,三条・見附地方では陸(おか)鍛冶という鍛冶問屋や金物商がこれにあたることもあり,一軒で3000挺近い貸鍬を持つ場合もまれではなかった。貸鍬の修理はすべて無料で,秋に鍛冶屋が農家をまわり,農閑期の冬のうちに鍬の修理を終え,春先にこれを配る方式がとられた。貸鍬は江戸時代からあったともいわれるが,広く普及したのは明治時代である。優良農具による作業の効率化と経営の安定化との意味合いから,農家と農鍛冶双方の強い支持を得て定着したと考えられる。貸鍬の権利は農鍛冶間で売買の対象ともなっていた。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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