貸し渋り(読み)かししぶり

知恵蔵 「貸し渋り」の解説

貸し渋り

金融機関が自己の経営安定を優先し、企業に対する新規ならびに追加の融資を控えること。金利上積みや返済期限の短縮を求め、融資を半ば強制的に回収する「貸しはがし」と並んで用いられる。いずれも景気減速歩調を合わせて顕著になるが、不良債権のリスクを回避したい銀行側は、自己資本比率を確保するための正当な商行為と位置づけている。しかし、経営が安定している企業や資本力のない中小企業に対しても、一方的に融資を拒否しようとする無慈悲な「貸し渋り」も頻繁に行われており、公平な経済活動や健全な金融システムを不安定にさせる元凶として、しばしば批判にさらされてきた。とりわけバブル崩壊後の1990年代半ばの日本では、巨額の不良債権を抱えた大手銀行が強引な資金回収に出たことから、資金繰り悪化による企業の連鎖倒産があいつぎ、大きな社会問題になった。
金融危機による不況深刻化している2008年以降は、世界各国でクレジット・クランチ(金不信による「貸し渋り」「貸しはがし」)が拡大している。09年初頭に誕生した米・オバマ新政権は、景気回復を最優先課題に挙げ、就任早々「貸し渋り」防止に巨額の公的資金を充てる金融救済策を打ち出した。日本でも、再び「貸し渋り」による倒産が急増しており、09年3月に金融庁は企業への融資促進を目的にした「企業金融円滑化策」を発表。4~6月には、不当な「貸し渋り」を抑えようと、銀行への立ち入り検査を実施する。対象となるのは、メガバンク(9行)と「貸し渋り」の苦情が多い地銀を含めた計30行程度の予定。なお、これに先立つ08年末、政府は「改正金融機能強化法」を制定し、金融機関向けの12兆円もの公的資金を準備した。だが申請したのは3行のみで、その額も計1210億円程度にとどまっている(09年3月時点)。

(大迫秀樹 フリー編集者 / 2009年)

貸し渋り

金融機関による貸し出し態度が極めて厳しく、民間の借り手が資金調達に困難を覚える状態。貸し渋りとは、企業の財務や経営状況の良しあしによらず、金融機関が新規融資や継続融資を渋る状態をいう。貸し剥がしとは、融資先企業が契約の約定通りに債務履行しているにもかかわらず、約定期間中に、金融機関から追加担保や融資返済を迫られる状態で、貸し渋りよりも融資態度は厳しい。金融機関は不良債権処理対策として債権回収や選別融資を行うが、他方、企業は資金繰りの面で経営が困難になる。特に銀行借入以外に資金調達の道を持たない中小・零細企業は運転資金や設備投資資金の確保が困難になり、資金繰りに支障を来す。日本の場合、この状況の強弱を定量的にとらえるのは難しいが、定性判断には、日銀短観にある「金融機関の貸し出し態度」が参考になる。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「貸し渋り」の意味・わかりやすい解説

貸し渋り
かししぶり

追い貸し

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