財産引受け(読み)ざいさんひきうけ

改訂新版 世界大百科事典 「財産引受け」の意味・わかりやすい解説

財産引受け (ざいさんひきうけ)

株式会社または有限会社設立に際して,発起人または有限会社の社員が,会社の成立を条件として,会社が特定財産を譲り受ける旨の契約を結ぶこと。本来これらの行為は開業準備行為であって,会社の設立自体に必要な行為とはいえないから,その効果が会社に帰属することはないはずであるが,実際上の必要から,法が厳格な要件のもとに認めたものである。現物出資と比較すると,現物出資が社団的行為であるのに対し,財産引受けは取引的行為である点が異なる。しかし,一定範囲の財産を会社に帰属させる効果を生じる点において,両者はそれほど異ならない。そこで発起人の不正行為や財産の過大評価による(現物出資の場合にも共通する)弊害を避けるために,法は財産引受けを〈変態設立事項〉の一つとして,定款に定める場合に限り認める(商法168条1項6号,有限会社法7条3号)こととするとともに,これを株式申込証にも記載させ(商法175条2項7号),裁判所が選任する検査役による調査を経させるなど厳重な監督に服させている(商法173条,181条,185条)。なお(1)財産の価格の総額資本の5分の1を超えずかつ500万円を超えない場合,(2)財産が取引所の相場のある有価証券の場合,(3)財産が不動産弁護士証明等を受けた場合,においては検査役の調査は免除される(商法173条2項・3項)。有限会社においては,社員に対して,会社成立時における実価が定款に定めた価格を著しく下回る場合の塡補責任を負わせ(有限会社法14条),資本増加の場合にもこれと同趣旨の規定がある(有限会社法49条2号,54条1項)。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「財産引受け」の意味・わかりやすい解説

財産引受け
ざいさんひきうけ
Sachübernahme

会社の設立に際して,発起人が会社の成立を条件として特定の財産を譲り受けることを約する契約。会社の営業準備のためになされる行為。目的物の評価が過大であると,会社の財産的基礎を脅かし会社債権者を害することになる。したがってこれを自由にすると,現物出資に対する規制を潜脱する手段とされるおそれがあるので,定款に譲渡の目的財産,価格,譲渡人の氏名・名称を記載させ,変態設立事項とした場合にかぎって会社に対する効力を認めている(会社法28条2号)。原則として裁判所の選任する検査役の調査(33条)を必要とするが,経済的合理性や目的財産の価額評価手続の適切な運用確保という観点から,目的財産が少額財産,取引所相場のある有価証券および弁護士などにより価額が相当であることについて証明を受けた財産(不動産の場合は不動産鑑定士の鑑定評価も必要)の場合には検査役の調査を要しないものとした(33条10項各号)。

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百科事典マイペディア 「財産引受け」の意味・わかりやすい解説

財産引受け【ざいさんひきうけ】

会社が成立すれば財産を譲り受ける旨を発起人が契約すること。現物出資の規制の濳脱の手段となるおそれがあるため,同様の法的規制を受ける(会社法28条)。また,設立登記後2年以内に一定の種類・価額の財産を会社が取得する場合も,ほぼ同様の規制を受ける(事後設立。会社法467条)。→変態設立

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