譲状(読み)ゆずりじょう

精選版 日本国語大辞典 「譲状」の意味・読み・例文・類語

ゆずり‐じょう ゆづりジャウ【譲状】

〘名〙
① 平安以後、特定の土地・財産などに対する権利を特定の人に譲り渡す旨を書きしるした証文書式は必ずしも一定しないが、譲与の対象となる所領・所職、与える相手の名、日付差出人の名と署判が必ず記入されていなければならない。譲証文譲文。処分状。
江談抄(1111頃)一「町尻殿〈道兼〉所悩危急之時、有国令申云、書譲状所職於入道殿者」
遺言状。〔羅葡日辞書(1595)〕
浮世草子日本永代蔵(1688)四「町人も親にまふけためさせ、譲状(ユヅリジャウ)にて家督請取」

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改訂新版 世界大百科事典 「譲状」の意味・わかりやすい解説

譲状 (ゆずりじょう)

財産の処分により権利が移転したことを証明するため,譲渡者が作成して被譲渡者(相続人)に与える証文。一般には祖父母父母が子,孫などの直系卑属に譲渡する場合に作成する文書をいい,相続が単独相続制に移行する以前の社会的背景のもとで作成された。譲状に記載される譲渡対象は,一般に田畠,家屋山林などの所領や所職,下人所従などのことが多く,動産の譲渡の際に譲状が作成されることはあまりなかった。譲状は平安時代,10世紀初めにあらわれるが,当初は上申文書である〈解〉あるいは〈辞〉の様式を用い,譲渡行為に対する上級者の安堵を請うものであった。しかし平安後期からは〈譲与何々事〉と書き出し,〈譲渡何某〉という譲与文言を記し,〈譲状如件〉と書き止める様式が一般になり,後には宛所も被譲渡人の名を記す,書札様の譲状が作られるようになっていく。譲状は,作成されたときに譲渡が実現するわけではなく,作成後,子が親に背いたりした場合には,その譲渡は取り消されることもあり,これを悔返(くいかえし)という。したがって武家法では,同一対象について2度譲状が作成されたときは,時間的に後のものを有効とする,とされていた。前述したように,もともと譲状は相続に対する上級者からの安堵を得ることを一つの目的としていたが,鎌倉幕府御家人の所領相続に対する安堵の方法として13世紀後半に,惣領には下文(くだしぶみ),庶子には下知状を与えて安堵するように形式を整備し,つづいて,14世紀初頭には惣領,庶子ともに譲状の袖に安堵の文言を記す外題(げだい)安堵の方式を定めている。

 なお僧侶が寺院,聖教等を弟子に譲渡する場合には,その証文を付属状と呼ぶが,様式,内容ともにほぼ譲状に類似している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「譲状」の意味・わかりやすい解説

譲状
ゆずりじょう

所領や資財を譲与するとき作成交付する証文。処分状ともいう。平安中期以降のものが存する。鎌倉幕府法では、子孫への譲与は親が悔い返しできる規定で、あとで作成した譲状は、以前の譲状の効力を否定した。これを当時「後判は前判を破る」といった。御家人(ごけにん)は譲状をもとに幕府から所領の安堵(あんど)状を別にもらったが、1303年(嘉元1)幕府は譲状の余白(外題(げだい))に直接安堵の文言を書く定めとした。これが外題安堵のある譲状である。鎌倉時代一般的であった分割譲与制は南北朝時代以後、長子単独相続制に変化したため、室町時代になると譲状は減少した。寺僧による房舎、聖教(しょうぎょう)などの譲状は、とくに付属状ともよぶ。

[百瀬今朝雄]

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百科事典マイペディア 「譲状」の意味・わかりやすい解説

譲状【ゆずりじょう】

財産の譲渡を証する証文。平安中期以来,財産譲渡者はその相続者に対して財産の内容とこれを譲渡する旨をしるして与えた。財産内容については別に目録が添えられる場合もあった。鎌倉時代,子への譲与の場合,譲状を撤回できたので,日付の後のものに効力があった。武家の場合通常,幕府に譲状を添えてその安堵を申請した。江戸時代,封地の私的相続がなくなったが,庶民の間では遺言状による財産の譲渡が行われた。

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世界大百科事典(旧版)内の譲状の言及

【相続】より

…そのころ普通に行われていたのは生前譲与で,そのことは,ある人物が生前に譲与を行うことなく死亡して,そののちその一族内に所領財産をめぐる争いが生じたために世人の物笑いの対象になったという《沙石集》の一挿話などからも確かめられる。これに対して死因譲与は,被相続人がその譲状のうちに,自己の死後において財産所領が相続人のもとに移動する旨を特記した場合のみに限られていて,必ずしも一般的な譲与の形式ではありえなかった。この死因譲与が行われたときには,被相続人がその所領財産に対して有する権利は,その一期(いちご)(一生)のみを限りとする一期分となり,他方,相続人はその指定された所領に対して一定の相続期待権をもつ未来領主となった。…

【遺言】より

…処分相続とは,被相続人が,処分状を作り,処分文言(もんごん)を記して,どこの所領をだれに処分するかという件に関する自己の意思を明確にしたとき,成立しうるものであった。これが中世の財産相続の基本型であったことは,現在,多くの処分状・譲状(ゆずりじよう)が残存している事実からも確かめられる。ところが,被相続人になんらかの故障があって,彼が上記のような手続をとることなく死亡した場合には〈未処分〉となる。…

※「譲状」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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