調性(読み)ちょうせい(英語表記)tonality

翻訳|tonality

精選版 日本国語大辞典 「調性」の意味・読み・例文・類語

ちょう‐せい テウ‥【調性】

〘名〙 (tonality Tonalität の訳語) 音楽のなかの旋律や和声が、一つの主音・主和音をもとにして音程関係を形づくっている場合、その音の組織・秩序をいう。一七世紀以後和音感が発達し、主和音、下属和音属和音の関係が樹立されるに伴って確立されたが、現在では主音の存在しない無調音楽も発達している。

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デジタル大辞泉 「調性」の意味・読み・例文・類語

ちょう‐せい〔テウ‐〕【調性】

楽曲がある主音・主和音に基づいて成り立っている場合、その音組織・秩序。
[類語]調子音調音律音階音程・音高・トーン拍子はく律動乗りリズムテンポ調べ

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改訂新版 世界大百科事典 「調性」の意味・わかりやすい解説

調性 (ちょうせい)
tonality

広義には,音楽に用いられる旋律や和声が,一つの音(主音)を中心としてこれに従属的にかかわっている現象をいい,狭義には,18,19世紀のヨーロッパの芸術音楽の中心的語法であった機能和声的調性を意味する。したがって広義には5音音階その他の特殊な音階による民謡や教会旋法に基づく音楽も中心音性があれば調性をもつこととなるが,この場合狭義の調性と区別して旋法性modalityという。今日一般に調性といった場合,狭義の機能和声的調性を意味する場合が多い。調性という言葉は1821年フランスの著述家カスティル・ブラーズCastil-Blazeによって最初に用いられたが,先に述べた広・狭義の調性概念はフェティスの1844年の論文によって確立された。

機能和声は長調・短調の全音階に基づいており,そこから3度音程で構成される3和音(和音)相互の機能関係から成っている。調性はここではカデンツ(終止法)という和音連結の法則,T(主和音,トニカ)→S(下属和音,サブドミナント)→D(属和音,ドミナント)→Tの過程の中で確立される。そこではすべての和音は主和音(T)に対し,SまたはDの機能を帯び,Tが全体の中心的終止点のような現象を生む。この現象を調性という。この和音連結の法則は必然的に旋律進行にも制約を加え,逆に旋律のみの場合でもその背後に機能和声的配慮があれば,調性は成立する。

 機能和声的調性(以後,調性と略す)の成立にはさまざまな要因が絡まっている。16世紀までの音楽は教会旋法(8~12種)に従って書かれていたが,ムシカ・フィクタ(教会旋法の半音階的変化音)の多用によってしだいに長調・短調の全音階に集約されていった。一方,1600年ころのモノディの誕生や,通奏低音の成立,そして器楽曲の発達にともない,調性は17世紀中に確立された。これに理論的根拠を与えたのは,ラモーの《和声論Traité de l'harmonie》(1722)である。

 調は長・短合わせて24種となり,このうち,一つの調と上下に5度の関係にある調およびそれらの平行短調を近親調という(5度圏)。調の関係は,主調→他の調への転調→主調への回帰という形で,音現象の上で緊張→弛緩の関係を生み,18世紀にはこの調関係を楽曲構成の基本に置いた多くの器楽形式が現れた。リトルネロフーガソナタロンド形式,2部形式,3部形式(楽式)などがそれである。

 18世紀の音楽は,おもに主調とその近親調の間をめぐる調関係で構成されるものが多かったが,19世紀になると,調性は楽曲構成の骨格としての意味より,色彩性や特殊な表現効果としての意味で用いる傾向が深まり,遠隔調への突然の転調,短区間での多様な転調が多くなった(ショパン,F.リスト,R. ワーグナーら)。19世紀末にはこうした傾向がますます強くなり,同時に調性の力は弱化した。20世紀初頭にはドビュッシー,スクリャービンらは中心音性は残しながらも機能和声法に拠らない新たな和声語法を創案し,シェーンベルクは中心音性すら否定した無調音楽を生み出した。第1次大戦後,シェーンベルクが十二音技法(十二音音楽)を創案(1921)したことによって,調性の時代は事実上終わった。しかし両大戦間には,ストラビンスキーやフランス六人組,ソ連社会主義リアリズムの統制下にあったショスタコービチプロコフィエフなどの音楽において,なお〈拡大された調性〉としてそのなごりを残している。

 第2次大戦後,不確定性の音楽,電子音楽など新しい音楽思想や音楽手段の出現によって,調性はまったく消失したが,広義における中心音性をもった作品は少なくない。なお,今日量産されているいわゆるポピュラー・ソング,流行歌は機能和声的調性に従って書かれており,またアマチュア向けの合唱曲の多くもこれに従っている場合が多い。
調
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「調性」の意味・わかりやすい解説

調性
ちょうせい
tonality 英語
Tonalität ドイツ語

音楽理論用語。音楽における音の組織的利用法の一つとして音高に着目し、諸音高に対して上下(高低)関係、音程関係(二、四、五度など)の観点から序列をつけた体系。音高性を利用した音楽には、かならずそれなりの調性が備わっている。すなわち、極端な例としては、単音旋律において意図的に他の音を排除したり、いわゆる「無調」音楽において表面的に音序列を排除しながらも、なんらかの出現順序が規定されている限りにおいて、広義に解釈すれば、音のもつトーナルな側面を強調していることになる。しかし狭義には、こうした場合を除いて、18、9世紀のヨーロッパ芸術音楽の中心語法である機能和声的調性をさす。今日一般に調性といった場合、狭義の機能和声をさすことが多く、広義の調性を旋法性modalityといって区別することもある。この広・狭義の調性概念は、フェティの1844年の論文によって確立された。

 音高の序列が決定される方法は民族や時代によって異なるが、その基準となるのは、開始音・終止音に代表される音進行上の継時的関係であったり、ドローン(持続低音)、和音といった音の積み重ねにおける同時的関係であったりする。調性はまた、音階、旋法、旋律型とも関連する。

[山口 修]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「調性」の意味・わかりやすい解説

調性
ちょうせい
tonality

音楽に用いられる各音が,なんらかの意味において中心音と従属的な音という関係を呈する場合に生じる,中心音と諸音間の秩序の体系をいう。一般には (1) 長短調に基づく機能和声としての調性。 (2) より広義には,機能和声に基づかなくても,中心音と他の音の間になんらかの関係がみられる場合。たとえば教会旋法における終止音や日本の音楽にみられる核音支配。

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世界大百科事典(旧版)内の調性の言及

【調】より

…【三谷 陽子】
[西洋]
 英語のkey,ドイツ語のTonartに相当する概念で,西洋の音楽理論においては長調あるいは短調が特定の音(x)を主音(中心音)とした場合にこれをx調という。したがって,音組織における中心音の存在と他の諸音に対するその強力な支配関係を意味する〈調性tonality〉よりも具体的な概念である(しかし現実には,〈調〉と〈調性〉はしばしば混同して用いられている)。また長調・短調という表現も,一見二つの異なる調を意味するかのように誤解されているが,両者の区別はオクターブ内における諸音の配置状態によるのであるから旋法mode(様態)の相違にほかならず,理論的にはそれぞれ〈長旋法〉,〈短旋法〉と呼ぶのが正しい。…

【調】より

…現行の六調子(壱越(いちこつ)調,双調,太食(たいしき)調,平(ひよう)調,黄鐘(おうしき)調,盤渉(ばんしき)調)は表の同名調と等しい。六調子のほかの枝調子(沙陀(さだ)調,乞食(こつしき)調,水調,性調,道調など)も古くは用いられ,それらもほとんどは唐代俗楽二十八調に含まれる。【三谷 陽子】
[西洋]
 英語のkey,ドイツ語のTonartに相当する概念で,西洋の音楽理論においては長調あるいは短調が特定の音(x)を主音(中心音)とした場合にこれをx調という。…

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