認知スタイル(読み)にんちスタイル(英語表記)cognitive style

最新 心理学事典 「認知スタイル」の解説

にんちスタイル
認知スタイル
cognitive style

認知様式あるいは認知型という訳語もある。認知とパーソナリティ概念の橋渡し概念として,発展した概念である。知覚思考・記憶といった認知過程において生ずる個人差の中には,知能のような個人が到達した精神発達水準や知的能力の水準ではなく,個人の問題解決ないし内部的な情報処理における一貫した個人の好みや価値観といった個人差を反映したものがある。ファラーリFerrari,M.とスタンバーグSternberg,R.J.(1998)によると,認知スタイルとは,さまざまな反応をすることが許容されている複雑で多様な状況において,個人がどのように自分の認知能力を発揮していくかという,優勢あるいは典型的なやり方を表わしているという。認知スタイルとして,1950年代以降,さまざまな概念が提案され,発展あるいは消滅してきた。認知スタイルとして提案された概念の代表的なものに,ウィトキンWitkin,H.A.ら(1954,1962,1981)による場依存性-場独立性とケーガンKagan,J.ら(1964)による熟慮性-衝動性のアプローチがある。その他,分析的-非分析的概念化スタイルanalytic-nonanalytic conceptual style,認知的複雑性-認知的単純性cognitive complexity-simplicity,認知的統制cognitive controlなどがある。

【場依存性-場独立性field dependence-independence】 このアプローチは,第2次世界大戦後のアメリカにおけるゲシュタルト心理学運動の影響を受けた知覚の個人差研究の中で始まった。知覚的な場の中で,その知覚的場の影響を受けずに特定の要素を分析的に抽出できる者が場独立的field independent,逆にその知覚的場の影響を大きく受けやすい者が場依存的field dependentであるとする。棒-枠組み検査rod and frame test(RFT)は,暗室の中で蛍光色に光る傾斜した枠の中心に置かれた蛍光色の棒を,自分の身体的な重力方向の手がかりをもとに,傾斜した枠組みにとらわれずに,垂直に調整できるかを測定する。埋没図形検査embedded figures test(EFT)は,ゴッチャルト図形Gottschaldt figuresとよばれる複雑な図形の中に隠されている特定の単純図形を探し出す検査で,場依存的な者はそれを探し出すのに多くの時間を要する。場独立的な者はあまり時間を要さない。

【熟慮性-衝動性reflection-impulsivity】 正確さとスピードが両立しにくい認知的課題においては,個人の認知的遂行の好みや価値観といったものが,課題解決のやり方に大きく影響する。そして,遂行のスピードより正確さといった課題遂行の質を重視し,詳細な視覚的分析を重視する者が熟慮的reflective,遂行の質よりスピードを重視するために大まかな視覚的分析で課題遂行する者が衝動的impulsiveであるとする。同画探索検査matching familiar figures test(MFFT)は,ごく一部の細部が異なる選択肢の絵の中から,見本の絵と同一の絵を探し出す検査であるが,途中で間違えてもよく,正答が見つかるまで課題の遂行が求められる。最初の答えを出すまでに要した反応時間平均(反応潜時)と,正答が見つかるまでに行なったお手つき数の合計数(総誤数)が,測定指標として使われる。この検査の得点において,日本幼児児童は,アメリカやイスラエルの幼児・児童を年齢にして2歳早めたような特異な発達曲線を示す(Salkind,N.J.,Kojima,H.,& Zelniker,T.,1997)。 →認知
〔宮川 充司〕

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